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試すようなこと

 深くなるくちづけに、微かな抵抗をした。押し除けようとした腕を掴まれて抱きしめられる。


「…君は無防備すぎるな。こちらが不安になる」

「だって、クリアグラスを調整するには目を閉じるのでしょう?」

「そういう顔を他でしていないかと思ってしまう、つまらない嫉妬だから忘れてくれ」

「スカイフォード様が…嫉妬を?おかしなことを言いますわ」

「なんだそれは。僕だって男だ」

「それを言うなら、私だって…」


 スカイフォード様が私の顔を覗き込んだので、目を背けた。


「なんだ、余計に知りたくなるじゃないか。自分の口でちゃんと言ってごらん」

「〜〜〜っっ!!…ニーアール様と…」

「ニアが?あれは妹みたいなものだぞ」

「そう思っているのがスカイフォード様だけだとしたら?」


 目頭が熱くなる。自分にこんなにも醜い感情があるなんて、初めて知る。こんな自分は知らない。


「本気で言って…」

「おかしなことを!本当に全く何も気がついていないと!?」

「一度も女としてあいつを見たことはないし、ニアだって僕を男として見ていないぞ」

「私は女です!ニーアール様も女です!…だから、よく分かるんです。貴方が思う様な相互関係などではない、そこにまず齟齬があると」


 スカイフォード様は、大きくため息をついた。

 しばらく考え込んでから「すまないが一人にしてくれ」と言ったので、むくれながらスカイフォード様の寝室から出ると、フォンミーが控えていた。


「国王陛下と王妃殿下がお呼びです」





✳︎ ✳︎ ✳︎





「いやあ、帰ってくるなり息子が風邪をひいてすまないね」

「お疲れなのだと思います」


 促されて座ると、国王は「早速だが」と話を切り出した。


「来月ならば特段大きな行事もないので、そこで婚約式を執り行うのはどうかね?」

「私は構わないのですが…」


(スカイフォード様のいらっしゃらない場でこの話をする意味が何かおありになるのだろう)


 話しにくいのか、何度か喉が上下した。それを見て取った王妃が口を開く。


「…分かっているとは思うけれど、婚約式で全く何も起きないとは言い切れないわ。はっきり言ってブーイングが起こる可能性だってあるでしょう」

「覚悟はしております…」

「だからね、こんなことを言うのは気がひけるのだけれど、ドストエス伯爵と夫人は呼ばない方が宜しいのじゃないかしら…」

「父や母のことを考えれば、私もその方が気持ちが楽です。お気遣いに感謝申し上げます」


 婚約式で大ブーイングを浴びる娘の姿など見たくはないだろう。寂しいけれど、これで良かったのだ。

 その後は国王が話を引き継いだ。


「それで、だ。内密に伯爵邸で婚約式を別途挙げたらどうだろうか?」

「宜しいのですか?」

「勿論だ。ドストエス伯爵殿にしてみれば大事な娘だろう?私達としても、そうして差し上げたい」

「ありがとうございます。父と母も喜びます」


 暫く沈黙が落ちた後、国王は私をじっと見て言った。


「ここに呼び出したのは他でもない。…息子が連れてきた女性だ、間違いはないだろうと思っていても、試す様なことをした。この場を借りて詫びたい」

「試す様な、ことですか?」

「フォンミーのことだ。君にわざと恥をかかせる様な真似をしていただろう?私たちも気づいていながら静観していた」


 私は絶句してしまった。喉が閉まって何も言葉が出てこない。


「つまりフォンミーに便乗したんだ。あれはハイラの思想が強い。何かあるとは思っていたからな」


 それまで黙って聞いていた王妃も重い口を開いた。


「本当にごめんなさい。…アイリスさんが嫌な思いをしていると知っていて貴方の本質を見極めようとした」

「先ほどフォンミーに問いただしたところだ。…フォンミー、来なさい」


 奥で控えていた侍女は、しっかりと正面を見据えてから一礼して、それから私に向き直った。


「アイリス様、今まで大変申し訳ございませんでした。…たった数週間しか仕えていない私を、あそこまで信頼していただいたアイリス様のお心を知った今、真に忠誠を誓うことができます」

「…フォンミー……」

「国王陛下、並びに王妃殿下。私の様な者に目をかけて頂きましてありがとうございました」


 床に膝をついて、ゆっくりと土下座した。


「どの様な処罰も喜んでお受けします」


 私は思わず立ち上がった。私のことは嫌いだけれど、綺麗に髪を結ってくれる時、彼女はいつだって真剣だった。


「待って!待ってください!私は彼女の処罰など一切望みません!フォンミー、どうかこれからも私の側で仕えてくれないかしら?」


 土下座したまま微動だにしない彼女に駆け寄る。


「…私の名前の由来は"貴方のために"という意味が込められております。それを違えた今、胸を張ってアイリス様に仕えることなどできません。真に忠誠を誓う今だからこそ、どうか処罰を受けさせてください」


 国王は険しい表情でそれを聞いていた。


「…フォンミーよ。ならばお前に相応しい罰を与えよう」


(そんな…!!)


 ぎゅっと目を瞑ったけれど、聞こえてきたのは予想外の言葉だった。


「アイリス殿は処罰を望まないという、けれどお前は処罰を望むと言う。ならば、フォンミー。お前は生涯アイリス殿に仕えなさい。それがお前の罰だ」

「えっ」


 私とフォンミーは思わず目を見合わせた。


「それから我々も息子に報告して叱られるとしよう。アイリス殿、すまなかった」


 国王と王妃は私に頭を下げた。

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