覚悟(スカイフォード視点)
(遅い)
アイリスは大丈夫だろうか。
早速両親に紹介したいと言うのに、なかなか現れない。
(フォンミーか…)
解雇してしまえば良かったのに、アイリスはそれを良しとしなかった。彼女の専属侍女だった女は、伯爵令嬢である彼女の生い立ちに嫉み、あろうことか美しさを殺すことに執心したのだ。
そんな事があったのにも関わらず、誰に対しても常に敬意を持って接するアイリスは、人を疑わなさすぎる。
加えて僕の失敗は、考え方が甘かったことにある。自分の血にイサクが混じっていることに、有無を言わさせない振る舞いをしてきたつもりだ。けれど、それは王太子である自分だから言えることであって、その婚約者まで巻き込むものではなかったということだ。
(まだまだだな、僕は)
国王である父がため息をついた。本来であれば、国王を待たせるなどもっての外なのである。
「…スカイフォード、お前のことは信頼しておる。母さんの次にな。別に待たされていることに苛ついている訳ではないから誤解しないで欲しい。…イサクのお嬢さんがハイラに到着した時、少し騒ぎになったと聞いた」
「ああ、それは…アイリス殿がドレスを汚してしまって着替えたのですよ。お気になさらず」
アイリスがフォンミーを庇うなら、僕から何かすることはしない。彼女の考えを尊重したいからだ。
(信頼していた侍女に裏切られた彼女だからこそ、次こそは自分で信頼関係を築きたいのかもしれない)
王族である自分が連れてきた婚約者に、わざと恥をかかせるなど、重い懲罰を受けることになんの抵抗もないと見た。
(それほどにイサクを嫌うか。僕の考えが甘かった)
「大変お待たせしてしまい、申し訳ございません。国王陛下、並びに王妃殿下にお目にかかります。アイリス・ドストエスと申します」
丁寧にお辞儀をするアイリスと、その後ろに控えているフォンミー。一見すると分からないが、よく見ればどことなく今までにない圧のようなものを感じた。
きっとまた二人の間で何かが起こったのだ、そう思いつつも、この件はアイリスに任せることにしたのだからと自分を宥める。
父と母は、人を品定めするような人達ではないけれど、かと言って何でもかんでも受け入れる訳でもない。当然だ、一国の国王と王妃なのだから。
「アイリス殿、お目にかかれて嬉しい。息子がイサクで世話になったようだな。食事を楽しみながらぜひ話を聞かせて欲しい」
「こんなに美しい方を連れてくるなんて、スカイフォードも隅におけないわ。さあ、掛けてください」
父はドストエス領をはじめとするイサクの領地に関する話を、母は自身の血にイサクが混じっている事に触れ、イサクとハイラの文化の違いにまでその話が及んだ。
アイリスは両親の話に耳を傾け、時に同意し、時に自身の意見を雄弁に述べた。
この聡明さには、たくさんの貴族令嬢を見てきた両親でさえ舌を巻いた。
「…お父様、お母様。彼女の素晴らしさは充分に伝わったと思います。改めて…僕は、アイリス・ドストエス殿を妻として迎え入れたくお二人の承認を頂きたいのです」
「ふむ…。彼女の素晴らしさはよく分かった。ご両親の教育の賜物だろう。お前の目は確かだ。なにより、儂らがそうだったようにスカイフォードには好き合って結婚して欲しいとは思っておる。だがそれはハイラだったら、の話だ」
「…父上?」
「イサクとのクォーターである妻でさえ肩身の狭い思いをさせたのだ。純血イサクの彼女を、果たして守り切れるのか?」
「これから、ハイラはもっと他国に目を向けなければなりません。外交の意味でも、アイリス殿はきっとその足がかりになってくれるはずです」
「イサクといえば、我が国と石油に関する協定を結びたいはずだ。民の不安を煽るような事になるのではないか?」
「そのための婚約期間ではないですか。結婚までの間、分かってもらえるよう尽力します」
「守りたい者がいるのは結構な事だが、あまりそればかりに現をぬかすなよ」
「心得ております」
「お前の覚悟は分かった。我々も見守らせてもらおう」
一瞬ピリついた空気を和ませたのは、母だった。
「アイリスさん、貴方のことが嫌いなのではないから、あまり気に病まないでくださいね。大丈夫よ、ね」
「王妃殿下のお心に救われます」
「まあ!お母様と呼んでも良いわよ!」
「えっと、それはだいぶ気が早いのでは…」
「あらやだ!ほほほほほ!」
女性陣はなんだか打ち解けたらしい。イサクの血なのか、それとも同じ立場にならんとするが故に通じ合うものがあるのだろうか。
(二人の気が合いそうでひとまずは良かった…)
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