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動揺(前半、フォンミー視点、後半、カイン視点)

「…は…?」


 急になんだ、この女は。

 けれど、鏡に映る人は先ほどよりも、にこやかに言った。


「は?じゃないでしょう?仕える者にそうやって問うのがハイラ流なのかしら?ご立派だわ」


 ずん、と胎に重たく鉛が落ちた気がした。

 どくどくと、心臓が鼓動を激しくしている。


「私は、貴方に色々と教えて欲しいと言ったはずね。では、この髪型はどの様な意図で結われているのか教えていただけますか?」

「えっ…」


 思わず固まってしまった。まさかそんなことを言われるなんて。ただ言われるがまま、流されるがままに、ここにいるのではないのだろうか。


「…答えられないのですか?」

「と、特に…。ただ夕餉をお召し上がりになるのに適したヘアアレンジをと…」


 嘘である。花嫁が婚礼の際にする、ハイラ独特のアップスタイルだ。


「そう!それはお気遣いありがとう。なら、まずはスカイフォード様にお見せしましょう」


 鏡台の前から立ち去ろうとしたので慌てて制した。


「スカイフォード様ならば、夕餉の席に着席なさって…」

「ならば呼んできて」

「すでに着席されている主人を立たせるなど…」

「私は呼んできなさいと言ったの。…どうやら私のことを相当馬鹿にしているのね。何度も同じ手に騙されると思って?」


 急になんなのだ、この女は。


「ふう」とため息をついて、せっかくアップにした髪の毛を手櫛で解いている。


「…貴方ね、フォンミー。私は貴方がとてもテキパキ動くところ、見ていてとっても気持ちがいいの。この髪型だってあっという間に結ったのだもの。とても仕事ができるのだと思っているわ。でも、貴方には王宮の侍女だという自覚は全然ないのね」


(ふざけてる!王族に仕える侍女という矜持だけが私の…)


「…ハイラの王宮にはあまり他の国の方がいらっしゃらないご事情があるにせよ、どこの国の使用人も、『自分の一挙手一投足が主人の意思と捉えられる』という意識を持っているわ。…私があのまま夕餉の席に行かなかったことを感謝するのね」

「…アイリス様は…なぜ私を罰せず、世話係を外さないのですか。ドレスを捨てるなど、そんな作法は存在しないと。ましてやハイラの衣装をイサクが着用するなど無作法だと…スカイフォード様から伺ったかと思いましたが」

「まるで罰して欲しいみたいな言い方ね。…そうなのかしら?」

「……」

「私はね、貴方のことを罰さないし私から解雇を言い渡すこともないわ。貴方が辞めたいのならご自分から仰いなさい」





✳︎ ✳︎ ✳︎





「おーい、カイン。なんだってそんなシケた面しているんだ?」


 声をかけて来たのは宰相の息子で生徒会長を務めるミハエルだった。

 なるべくならば誰にも会わずに学園を去りたかった。そんな思いで、僕は自分の荷物を隠した。


「なんだよ、何隠してるんだ?ご令嬢からのプレゼントか?モテる男は違うなあ」

「…別に。そんなんじゃない」

「おいおい、そっけないな。どうしたんだよ」


 思い切り腕を引っ張られたので、どさどさと箱に入った荷物が落ちた。


「…ん?なんだよ、この大荷物は…」

「なんでもない!」

「何ムキになってんだ?」


 がさがさと拾い上げる僕の前にしゃがみこんだミハエルの呼吸が一瞬乱れた。


「カイン。お前、まさか…学園を辞めるのか?」

「ミハエルには関係ないだろう」

「待て待て、どうして辞める必要があるんだ?」


(落第したからなんてバレたらまずい。それこそ一生指をさされることになる)


「父の勧めでな…」

「父君が?どうして?」

「は、早く隠居がしたいらしくてな。僕が伯爵位を引き継いで、父は田舎暮らしをするのだよ」

「なんと、そうか。まだ若い君が領地運営など大変だと思うが、何かあったら相談くらいには乗るぞ」

「あ、ああ。ありがとう」

「てっきりアイリス嬢が世話を焼いていたのがバレて退学になったのかと思ったが違うのだな」


 ひり、と背中の冷や汗が嫌な刺激を発した。


「何を言っているのか…」

「みんな知っているぞ」


(みんな、知っている?)


 全部アイリスにやらせていたことを?知っているって?


「婚約破棄したのだろう?お前が遊んでいる間に、ハイラの王太子に見初められるなんてな。まあ、自分が蒔いた種だ。今更後悔しても遅いぞ。何と言ったって、相手はあのスカイフォード・サヴァリアス殿下だ。お前など足元にも……」


 バキッ!!!


 ミハエルはその場に倒れ込んだ。

 おまけに、なぜか右の拳がジンジンする。

 どうしてか、息が乱れる。自分でも分からない。ただ気がついたら…


 ミハエルを殴っていた。彼は口を切ったらしい。

 袖で血を拭いながらフラフラと立ち上がる様を見て、動揺した。


 遠くで女子生徒たちが悲鳴をあげた。五月蝿い。


「ぐっ…お前……」

「…違う」

「はあ!?」

「僕は悪くない!アイリスの奴が、課題のレポートを期日までに持って来なかったから僕はっっっ!!」

「…正気かよ…最低だな、カイン」


 あっと思った時にはもう遅い。足元が震えて膝をついた。


「このことは父に報告させてもらう」


 散乱したプリントが風に攫われていく。

 アイリスの文字が風に踊って、僕はそれを見上げた。

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