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婚約者の悪態

 重たい瓶底眼鏡をくいと上げて、徹夜明けの顔を擦る。

 アイリス・ドストエス伯爵令嬢は、ド近眼だ。


 そんなアイリスにも、婚約者がいる。

 カイン・ベラッド伯爵令息だ。しかしこの男、すこぶる女癖が悪い。

 明日は学期末の試験だというのに、きっとどこかのご令嬢と遊んでいたのだろうことは想像に難しくない。多分勉強なんてしていない。

 だから、私が要点を纏めたファイルを届けるというなんともお間抜けなことをしなくちゃならない。


 でも、我が家はお兄様たちは学園に通わせてもらえたけれど、お姉様も含めて女は嫁ぐものとして通わせてもらえないので、実に勉強になります。ありがたや。

 きっとカイン様もそんな私を良いように扱っているんだろう。


(でも良いわ!勉強できるなんて、本当にありがたいもの!ちょっとむかつくけど、カイン様のお手伝いと言うことで、お父様も目を瞑ってくれてるのよね)


 カイン様のお屋敷にわざわざ足を運んで、婚約者殿のお出ましを待った。


「おはようございます、カイン様」

「相変わらず酷い顔だな。もっと小綺麗にしたらどうだ。学園に通うご令嬢はちゃんとした身なりだぞ」


 そう言ってファイルを取り上げると、すぐに踵を返してこちらを見もせずヒラヒラと手を振った。


(…訂正。ちょっとじゃなく、だいぶむかつくわ!)


 ずんずんと大股で歩いた。

 こんなところを誰かに見られたら、お父様に怒られそうだけれど、構わずずんずんと歩いた。


(なによ!なによ!なによ!こちらは徹夜明けよ!?自分がサボるからいけないのじゃなくて!?)


「うわ!!!」

「きゃあ!!!」


 出会い頭に誰かと衝突した。

 あまりにも腹が立って、大股でずんずん歩いた私が悪い。


「いたたたた…」

「あっご、ごめんなさい!私…」


 見れば、青年が持っていたのだろう、紙が散乱している。

 私は慌ててそれらを拾い集める。


(なんだろう?原稿?)


 表題だろうか『マーメイド号の行方』と書かれている。

 作者の名は『サン・ルシェロ』とあった。


(聞き慣れない名前…他国?)


「あのう、すみません。返して頂いても…」

「あ!ごめんなさい!お怪我はされていませんか?」

「はい。この通り全く大丈夫です。あなたも怪我はありませんか?」

「いえ、私はなんとも…。本当に申し訳ありませんでした」


 青年は紙の枚数を丁寧に確認してから

「良かった、ちゃんとある。先生に怒られずに済んだ」と言って、ほっと胸を撫で下ろしている。


 ハンチング帽を上げる仕草で挨拶すると急足で去って行った。


(先生…サン・ルシェロ…マーメイド号の行方…)


 たくさんのキーワードが星みたいに降り注いだ。

 分厚い瓶底眼鏡をぐいと上げて、ちょっとした好奇心を胸に、くるりと方向転換して、街の本屋を目指した。

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