表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

(8)久美ちゃん…

イベント当日、純也と有紀ちゃんと駅で、待ち合わせをした。

私が着くと、まだ二人共来ていない。

溶ける様に暑いので、スタンドカフェに入って、マンゴフラぺチーノをズズズッと飲みながらガラス越しに改札を見ていた。


汗がサーッと引いていく、しあわせ~。

やっぱダイエットした方がいいかな、でも、まぁ、無理な事は止めよう!

などと、すぐに打ち消される私の弱い意志に自分でツッコミを入れていると、純也が見えた。

「あっ、純也だ…。あれ? 誰だろう」

純也は大きな袋を抱え、隣には、ロングストレートの「これぞ! 美少女」という感じの女の子と一緒に現れた。

私は、マンゴプラペチーノを持ちながら店を出て、純也のところに向かい近づいた。


「おまえ、何のん気に一人でそんなもん飲んでんだよ」

まだ半分以上残っているプラペチーノを私の手から奪い取り、純也は、勝手に一気に飲んでしまった。

「えっ、私の…、なんです…けど…。一気に飲むと、頭キンキンするよ?」

今更遅いが、一声かけた。

一気に冷えた頭を抱えた純也の横で、美少女が私を見た。


「久美…ちゃん?」

純也の隣の彼女が、私を見たまま、少し目を潤ませて言った。


「へっ? 久美ちゃん?」

私は首をかしげた。

「あっ、こいつ、俺の妹の琴未。アメリカに留学中で今は夏休みで帰国中。

 仮装大会見たいっていうから連れて来た。

 今度のハロウィーンの参考にすんだって!」


いやいや、何度も言うけど仮装大会じゃないから!

ハロウィーンも間違ってるし。

ちゃんと理解してくれていない純也に少しムッとした。


「あっ、ごめんなさい。ボーっとしちゃって。琴未です、よろしくお願いします。

 華奈さんにお会いできてうれしいです」

私より背が高く、とても落ち着いている高一女子に見下ろされながら挨拶された。

自分と比べて落ち込む…。

いや、比べちゃいけない…。


私たちが話していると有紀ちゃんがやって来て、琴未ちゃんに紹介したあと4人でイベント会場に向かった。


「華奈、おまえ、今日これ着ろよなぁ?」

「なんのコスプレ?」

「あっちに行ってからのお楽しみ!」

うれしそうな顔で、純也が大きな袋を軽く叩き、私の頭をポンポンと叩いた。

なんかものすご~く、楽しみルンルンな顔してるよ…純也。

なんなんだろう、袋の中身のコスプレ。


会場に着くと、いつものメンバーが、すでに集まっていた。

今日も小林くんは、いる!

でも…小林くんは、純也と私が付き合っていると思っている…。

っつーか、純也と小林くん、なんかメチャクチャ仲良さげに男同士の挨拶交わしちゃってるし…。


純也と琴未ちゃんは、異常に美男美女で目立つ。

二人が並ぶと際立つ。

「君~!! 次回はぜひ、この衣装を着て参加してみないか!?」

吉田君が琴未ちゃんの所に飛んできて、アルバムの中に収めてある『長い黒髪の美しい女性ゲームキャラ』の写真を見せて言った。

あっ、ちなみに、吉田君はいつも写真アルバムを鞄に忍ばせている。


「なんですか!? これは!」

どうやら琴未ちゃんは純也と違い、興味があるらしい。

目を輝かせて、写真を覗き、吉田くんから説明を受けていた。

あっ、ハロウィーン用かもしれない。


「華奈ちゃん、着替えに行こう~」

有紀ちゃんに声を掛けられると、純也が私にコスプレ衣装の袋を渡した。

「お、重い…」

なんか、重いんですけど? なんなんですか? この重さ。


「琴未~、着替え手伝ってやってよ」

純也が琴未ちゃんを呼び、私は琴未ちゃんとその重い袋を抱えて、着替えに行った。



「……………はぁぁぁぁああああああああ!?」

「早く着て着て!」

ニコニコ顔の琴未ちゃんに、最初に渡されたのは黄色い厚手のタイツだった。


何、この黄色いの…。

なんのキャラクター? こんなの見た事ないんですが…。

袋の中は、黄色一色で埋まっている。

黄色…膨張色…


琴未ちゃんが、テキパキと、私にその黄色いモノを段取りよく着せていく。


「はい! これを耳に引っ掛けて、これをかぶってぇ、はい! 出来上がり~」


…………ズズーーーン…。

これ…、ただのヒヨコの着ぐるみ? くちばしも付けられた。

キャラとかじゃなくて、ヒヨコ…? ただの? どうして?


しかし、その着ぐるみは、とてもしっかりと完璧に製作されていて、素人が作ったとは思えない出来栄えだった。

足底部分には歩くと「ピョコピョコ」と、音がする仕掛けにもなっている。

近くで他の子の着替えを手伝っていた咲子ちゃんが、「すばらしい!」と、私をクルクル回し感心しきっている。


ボーゼンと立ちすくむ私を見て、琴未ちゃんが抱きついてきて小さな声で言った。

「久美ちゃん…」


また久美ちゃん…って?


私は、ただのヒヨコにしか見えないヒヨコの着ぐるみを着せられ、琴未ちゃんに手を引かれ、仲間のいるところに戻った。


「お兄ちゃん! みてみて~」

琴未ちゃんに呼ばれ振り返った純也が、白い歯を見せてクシャクシャっと笑って

私を見て言った。

「久美ちゃん……。あっ、華奈、似合うじゃん!」

純也もまた、久美ちゃん?

久美ちゃんって、だれ?


「ねーねー、これ、なにキャラ?」

くちばしが付いている私はこもった声で訊いた。

「ピヨキャラ!」 

純也に即答された。

ねーよ、そんなもん…。


そして、琴未ちゃんが小林くんに頼んで、純也と私と三人の写真を撮ってもらった。

真夏の着ぐるみ、すんげー暑いし。

この会場の中で、キャラコスプレじゃないコスプレイヤー、私だけだし…。

なんか、遊園地のアルバイトみたいだし…。


立派な作りだが「ただのヒヨコ」のまま、そして「久美ちゃんってだれ?」との疑問も問えないまま、私の夏の一大イベントは、幕を閉じた。


悲しい…。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ