(7)夏休みも…
相変わらず純也は、私を監視するかのように、くっ付いている。
だけど、もうすぐ夏休み。
やっと、解放されるぅぅぅぅ。
学校が休みになれば、純也とも学校で会わなくなるし、自由の身だ! と、私は少し気が楽になっていた。
純也は噂とは少し違っていた。
週三回、大島家にご飯は食べに来るけど、たまに男友達と遅くまで遊ぶくらいで、大概は8時前には自宅へ帰っていた。
いつもツルんでいるメンバーは、学校の男子だけで、夜な夜な遊び歩いてはいなかった。
いつも放課後、純也が自分の友達と遊びに行く時、なぜか私も無理やり連れて行かれ、私は必然的に純也のグループと行動が多くなっていた。
遊び場は、ゲーセンが多かったけど、クレーンゲームで、今まで自分では獲れなかったキャラクターをゲットしてもらえることに私は、喜んでいた。
純也に関わっていて、これだけが良かった事だ。
今日も狙っていたキャラを釣っていただき、喜びの舞を披露していた。
「大島って、結構かわいいんだな?」
「華奈ちゃんさぁ、コロコロ系だけど、顔は、かわいいんだよ」
「ぇえ? そんなぁ、テレッ!」
本間くんと沖田くんに言われ、頬を両手で挟んで少し照れた。
男の子に褒められるなんて、滅多にないしぃ。
「オレと大島が結婚したら、大島のフルネーム『ほんまかな?』だぜ。なんか関西弁
みたいでいいじゃん!」
「じゃ、おれなんて、『おきたかな?』だよ。ウェイクアップだよ! おはよ~」
みんなで笑っていたけど、純也だけは、ムッとした顔で、何も言わずクレーンゲームに集中。
駅の改札で、みんなと別れ、純也と二人で歩き始めた。
「おまえさぁ、あいつらに、かわいいとか言われて喜んでじゃねーぞ」
ボソッと、前をむいたまま言われた。
「え? なんで? 嘘でも褒めてくれてんだから、いいじゃん。
私だって、そろそろ彼氏ほしいしぃ。
あっ、『ほんまかな?』より『おきたかな?』の方が、かわいい? 面白い?
きゃははぁ」
私は、バンバンと自分のお腹を叩いて笑ったけど、純也は二コリともしないで言った。
「彼氏…って、華奈には俺が、いるじゃん」
「へっ?」
純也の言葉に、少しドキッと胸が鳴ったが、気を持ち直した。
私は、何にドキドキしたんだ?
「あはっ! 純也さぁ、私は期間限定でしょ? 卒業するまでの。
それに私は純也の彼女じゃないよ。いつも一緒にいるけど、それは…
純也が私のことを監視するためでしょ?」
なんか、自分で言っていて切なくなってる。
なんでだろう…。
そのあと、純也も私も、黙ったまま家路に着いた。
☆☆☆☆☆
少し経つと夏休みに入った。
私は短大受験の勉強をしつつ、有紀ちゃんやコスプレ仲間と8月のイベントに向けて頑張っていた。
まっ、頑張っているのは、衣装作りをしている咲子ちゃんと吉田くんなんだけど。
純也は、相変わらず週三回のペースで、うちにご飯を食べに来る。
うちに来る日は、午前中から勉強道具を持ってきてリビングで受験勉強をしていた。
ママは嬉しそうに、ランチを作ってあげたり、おやつを作ったり、実の娘以上の可愛がりようだ。
「面倒くさいからイヤよ」と、私には作ってくれたこともないショートケーキなんかも作ってるし。
純也にちょっと嫉妬。
「あなたたち、海に行ったり、どこか遊びに行ったりしないの?」
ママに訊かれた。
「ママさぁ、私たち受験生だよ?
純也なんて四大目指してんだから、遊びになんていけるわけ無いでしょ?
っていうか、私、もうすぐイベントで忙しいし~」
「あっ、華奈? イベントの衣装もうすぐできるから、当日持ってくからな」
参考書を見ていた純也が顔を上げ、念を押すように言った。
忘れていた。
純也がなんか持ってくるって言ってたんだ。
「私、今回は、ゲームキャラの『みの介』に…なる予定…なん…だけ…ど」
と言った私の顔を、睨んだ。
「ぁあ? みの介? なに、それ」
「みの虫のキャラクターで…」
「ふざけんなよ、俺が持っていくやつ着ろよ? ぜってーに! 約束だろ!?」
テーブルをバンッと叩いて真剣な顔で、また睨まれた。
うっ、こわい…。
何をそんなにムキに…。
私は結局、その夜、咲子ちゃんに電話をして、涙ながらに『みの介』役を降りると伝えた。
夏のイベントは大きいのに……
とっても楽しみにしていたのに……みの介。




