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(4)そしてこうなった…

あれから…、春休みが、終わり…新学期を向かえた。

休みの間、何度か純也から「誰にも言ってねーだろーな!」と確認の電話があったけど、会うことはなかった。



三年生になり、初登校の日。

ボードに張り出されているクラス替えの紙を見て、私の高校生活最後の一年は、すでに新学期の今日で終わったと思った。


「…あ、…アイツと同じ…クラス…」

どうして…。


私は、右斜めに頭と肩を落とし、同じクラスになった真貴子ちゃんと三年A組の教室に入った。

純也はまだ来ていなかったが、数人の女の子たちが浮ついているのがわかる。

校内で人気の小田純也と同じクラスになったからだ。


「華奈ちゃん、同じクラスでよかったぁ」

声をかけてきたのは、二年生の時一緒だった有紀ちゃん。

同じ趣味を持つ有紀ちゃんとは一番の仲良しで、日曜日とかよく遊びに行っている。

たぶん、男子の好みも一緒だと思う。

二人で出かけても、自分たちのことは棚に上げて、街行く男の子に、点数をつけていると、九十%の確率で同じ人に高得点をつけているから。

とりあえず、有紀ちゃんと一緒だということは救いだ。


真貴子ちゃんと有紀ちゃんと三人で話していると、クラスが少しざわめいた。


「よっ、華奈、俺ら一緒のクラスじゃん。よかったな!」


後ろから聞こえてきた声に私は、目の前が暗くなり、どっぷり落ちた。

私に対して馴れ馴れしい態度の純也に、少しのざわめきが、大きなざわめきに変化した…、女子のみの。

真貴子ちゃんも、有紀ちゃんも、驚いた顔をしている。

当たり前だよなぁ、なんで私が、この今まで接点の全くなかった男に親しく声を掛けられているのか。

みんな、不思議だよね?


純也が私の前に回り、『誰にも言ってねーだろうなー』みたいな顔で、ニッと笑ったあと、私の頭を撫で回した。

私はあなたのペットではない…

純也の手を払いのけると、今度は右頬をつまみ、『言ったら承知しねーぞ』という、目つきのまま、横に力一杯伸ばされたあと、「おもしれ~」と言って白い歯を見せた。


「何々~、純也、大島といつの間に? って感じ?」

一年生の時一緒だった川田に訊かれた純也は、言ってしまった。

「ん? 春休みから俺ら付き合ってるから。な、華奈!」

それも、見下ろしながら、にこやかな顔で…。

そんなこと言わなくてもいいのに。

ほんとうは、付き合ってなんていないんだから。

その前に、頬っぺたの手を放せ…


純也の言葉に、教室の中は、耳が痛いほどの「ざわめきデシベル」で埋め尽くされた。

純也は、女の子に告白されても断り続けていて、年上の彼女がいるとか、彼女はグラビアアイドルだから、そこら辺の普通の女の子なんて話にならないとか、噂をされていた。

そんな純也の彼女が、「一般も一般、バリバリアベレージ50ガールの華奈」

みんなが驚くのも無理は無い。


「マジかよ!!」

「なんで大島なんだよ」

「ありえねーーー」

純也の仲間たちが言い、私は、純也狙いの女子を、一斉に敵にまわした。

みんなの視線が痛すぎる。

私は血の気が引き、頭を抱えて机に伏せた。


そうよそうよ、「ありえねーーー」なのよ!

あんたたちが、「ありえねーーー」って思うように私だってありえないし!

純也だって、本当は私なんて、「ありえねーーー」なのよ!

頭の中で「ありえねー」がこだまする。

私の心の叫びなんて、みんなには届かない。

私の気持ちなんて、みんなにはわからない。


「おい、華奈、華奈! 何寝てんだよ」

呼び捨てとか、やめてよ…。

馴れ馴れしい…。


純也が私の頭を突付いていると、担任のボブが入って来て、みんなは席についた。

あっ、なんでボブかというと、顔がいわゆる外人のボブっぽいから。

本人は純な日本人なんだけど。


「華奈、俺、今日の夕飯、おまえんちで食うから」

「ぁぁあああ? あんだって!?」

机に伏せていた私は、思い切り顔を上げて、叫んだ。

ものすごく大きな声だったらしい。


「どーした!? 大島? オレはまだ何も言ってないぞ~、わははは」

「あっ、すみません…何でも…ないです」

ボブに笑われた。

視線が私に集中し、心臓の音の大きさが増すごとに、自分の顔が赤くなっていくのがわかった。


ボブに謝ったあと、純也に言った。

「うちでご飯ってどーいうことよ、っていうか、

その前に、なんであんたが横の席に座ってんのよ…」

いまごろ気がついたが、席が隣同士だ。


「おまえ、大島。俺、小田。うまいこと並んだよな、俺たち」

ニッと笑われた。

「……」

気が抜けた私は、また机に伏せた。

「おらおら~、大島、新学期そうそう今度は大胆にも、お休みタイムかぁ?」

「あっ、す、すみません…」

またボブに謝る。


もぉ、やだぁ。

私は、泣きそうだ。

みんなの笑い声の矢を受けながら横を見ると、純也も笑っていた。

おもいきり、楽しそうだ……。



その日は、下校するまで大変だった。

私と純也のことは、すぐに広まり、三年生はもちろん、一、二年生の後輩もわざわざ教室まで、私を覗きに来た。

そして、みんな一言残して帰っていく。

「え? あの子!?」

「うっそぉ~」

「冗談でしょ?」

「ぜんぜん綺麗じゃない」

「もっとかわいい人かと思ってたぁ」

「私の方が勝ってるのにぃ」

言いたい放題、言われた。

私だって不本意なんですけど…。

結局、休み時間もお昼休みもトイレさえ我慢し、教室の中で静かにしていた。


放課後になり、「帰ろうぜ」と仲間に誘われている純也は、全部断り、私に言った。

「華奈、帰るぞ。今日の飯なんだろう。

 お母さんちゃんと俺のリクエスト作ってくれてんのかなぁ。楽しみぃ」


夕飯のリクエスト?


どういうわけか、純也とママは、あの日からメル友で、昨日の夜メールで、今日の夕食はうちで食べる約束をしたらしい。


私の知らないところで、どうなっているのか、私には、何もわからない。


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