(13)ヒヨコの私
「ど、どこ、どこ行くの!?」
私の問いかけにも、何も言わず、純也は私の手を…というか、手羽先付近を握り、走っていた。
ヒヨコちゃん姿なので走りにくいし、ピョコ音が途切れることなく響く。
その前に、道行く人の視線が、全部私に集まってるんですが!
「純也…、ハァハァ…」
息が切れる。
「ねぇ、どこ…行くの?」
「俺んち……」
「へ?」
「久美ちゃんのこと、確かめる」
そう言うと、純也は、駅の改札に入ろうとした。
「ちょっと、待ってよ!」
「何?」
「こんな格好で…? 電車は…ちょっと…」
「あっ、忘れてた。じゃ、こっち来い!」
タクシー乗り場に移動し、タクシーの中に押し込まれた。
運転手さんは驚いた顔をしていたけど、行き先を告げ「運転手さん、お願いします!」
と、純也が真面目な顔で言うと、タクシーは走り出した。
黙ったままの二人を乗せたタクシーは、純也の家の前に止まり、ピョコ靴も脱げず土足のまま、純也の部屋に入った。
「ちょっと待ってろ!」
純也に言われ、素直に純也の部屋で待っていると、アルバムを何冊か抱えて純也が戻って来て、私の目の前に積み上げた。
「どれ? おまえが、見た久美ちゃんの写真!」
「え? え? えーとえーと……」
アルバムをめくろうとしたが、ピヨ手袋をしたままだった。
全然めくれない…。
純也がピヨ手袋を外してくれて、純也は黙ったまま、私の手元を見ている。
私は、チラチラ純也を見ながらも、夏に見せてもらった写真を探した。
4冊目のアルバムの中に、その写真はあった。
「こ、これ…」
純也に指をさして教えた。
「……、それで、久美ちゃんは?」
「この…子」
私は真ん中に写っているかわいい女の子を、指さした。
「……はぁ…」
純也は、溜息をついて私を見た。
「な、なに…よ」
「琴未が、久美ちゃんは、この子だって言ったの?」
「この子っていうか…この写真撫でながら、久美ちゃんの思い出を語ってくれた」
泣いてたし。
「……華奈…、ぶっ、あはは~ははは~」
純也が、急に笑い出した。
「なに? どうしたの?」
私なんか変なこと言ったの?
不安になった。
「なに? やだやだーなによー! なに? 純也?」
純也の笑いがぜんぜん収まらない。
私の不安は膨らんでいく。
「華奈さぁ、…俺のこと好き?」
「へ?」
笑いが収まったと思ったら、今度は何を訊いてくるの!?
「ねぇ、俺のこと好き?」
「……う、ん」
正直にうなずいた。
「俺と、離れたくない?」
「……う、ん」
正直にうなずいた。
「うん。俺も華奈のこと好きだし、離れたくないし、離したくない」
「へっ?」
顔を上げて純也を見た私の頭を、というか、ヒヨコの頭をポンポンと叩いた純也は、いつものクシャクシャとした笑顔で言った。
「いいこと教えてやろっか。本当の久美ちゃん」
「えっ? 本当の久美…ちゃん?」
「この子、久美ちゃんじゃないよ。こっち、俺の大好きだった本物の久美ちゃん!」
私は純也が指をさしたところを見た。
「…んぁあ?……ぁあ?」
目をこすって見直した。