表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

(12)く、くるしすぎる…

文化祭当日朝、重いヒヨコちゃんを抱えて、純也と一緒に登校した。


「何時にどこでビラ配るの?」

「え、10時に正門前」

「じゃ、俺、見に行こ!」

「何を?」

「華奈のコスプレ」

だから、これはコスプレじゃないって! 着ぐるみだから…。


私は、ヒヨコちゃんを持ってマンガ研究部の部室に行き、ヒヨコちゃんに変身した。

みんなに「華奈ちゃん、かわいい~ヒヨコ!」とおだてられ、少しの喜びを快感。

が、マン研の部員は、かわいくアニメキャラにコスプレ。

私も本当は、そっちがいい…。


10時になり、みんなで揃って正門に立ち、来客の人たちにビラを配り始めた。

私は歩く度に「ピョコピョコ」と音を鳴らし、いつの間にか、私の後ろには数人の近所からやって来た子供たちが付いて回り、「ピヨちゃん」と名づけられていた。


「ピヨちゃん、明日もいるの?」

小さい女の子に訊かれた。

「うん! いるピヨ!」


「ピヨちゃん、いつも何食べてるの?」

栗みたいな顔の男の子に訊かれた。

「え゛!? えーと…」

ヒヨコって何食べてんだ?

真剣に考えてしまう。

「えーと、甘栗?…かな~ピヨ?」

坊主の顔を見ていたら思わず言ってしまった。


「あっ、ボクも好き! くり!」

「ピヨちゃんと一緒ピヨ? へへへ~…ピヨ…」

不思議だ、なんだか、気分がヒヨコになってきた…ピヨ。


視線を感じ、顔を向けると純也が立っていた。

笑ってるし。

「華奈、お疲れ~ピヨ~!」

純也が、片手を挙げて言った。


「バカにしてる? それ」

「してねーよ。かわいいよ、ヒヨコの華奈も」

あっ、嘘でも力が抜けるような事は言わないでぇぇぇぇ。

思わず、下を向いてしまった。


「あ~ぁ、今日と明日、あさって、あと5回ヒヨコになるんだよね…」

「いいじゃん、子供にも人気じゃん。なんか不満なの?」

「別に…」

「それ配り終わったら、模擬店見に行こう。本間たちが、焼きそば屋やってるから」

「じゃ、着替えたら電話する」

「いいよ、そのままで。ピョコピョコうるさいけど」

「……」



……結局、私はヒヨコのまま校内を歩いている。

くちばしを手でぶら下げながら。

私のピョコピョコ音が、前の人に近づいていくと、振り返られては驚かられる。

そのたび、純也は楽しそうな顔になり、私は下を向く。


「あっ…」

私は、立ち止まってしまった。

廊下を歩いていると、純也に告白した二年生女子が、反対側から歩いてきた。

「どうした? 華奈?」

純也は知らないんだった。

あの日、私があの場面に遭遇していたこと。


「ううん、なんでもない…」

私は、ピョコ音を響かせ歩き、そのまま、彼女とすれ違った。


「ぶっ、すごく似合ってるぅ。あはっ! そんなの着ても着なくても同じじゃない」

彼女が通りすがりに、私に聞こえるように笑いながら、言った。

その通りなお言葉が、胸をグサグサと刺さる。


「テメェ、」

純也が足を止めて、二年生女子の腕を掴んで睨んだ。

彼女は驚いた顔をして、ビビりはじめた。

純也の顔が本気で怒っていることに、私も正直ビビッた。

「純也、止めなよ。女の子だよ? ね?」

私の言葉に、純也の手が、彼女の腕から離れた。


「ごめんなさい。純也、行こう」

私はとりあえず、彼女に謝り、純也の腕を引っ張って、その場を足早に離れ、文化祭の間、荷物置き場として使っている教室に入り、純也に言った。


「ダメだよ、純也。女の子にあんなことしたら。

 どんなに強く見えたり、しっかりしているような子でも、女の子はみんな弱いんだよ?」

「ごめん…。だけど、華奈のこと侮辱するやつは、男も女も関係なく腹立つから。

 俺、華奈のこと守りたいし、」


純也の言葉に、私は耐えられなくなった。

恋人同士なんかじゃないのに、嘘でも「私のことを守る」とか言わないでほしい。

ものすごく、辛くて惨めになるだけだ。

もう嘘なんて…、いらない。


「……もう、いいよ。もう、止めよう。私、本当に誰にも言わないから、

 純也がお酒飲んでたことも、「ぼくちん」発言も、誰にも言わないから…。

 もう、彼氏彼女ごっこは止めよう? だから私のこと守るとか言わないでいいから…」

私は、純也の顔をまっすぐ見て言ったけど、声は震えている。


「彼氏彼女ごっこ…? 俺、そんな風に思ってないよ?ごっことか…。俺本気で、」

「あと、5ヶ月で終わる恋人ごっこじゃない! だったら別に今おわって、」

話している途中の私を、純也は引き寄せてキスをした。


驚いた私は、純也を突き飛ばし、言った。

「私は…私は、久美ちゃんじゃない! 久美ちゃんなんかじゃないもん!

 本当は代わりになんてなれないもん。代わりなんてなりたくない!

 大島華奈で純也と付き合いたかった!

 だけど、純也は久美ちゃんが大好きで忘れられなくって…。

 久美ちゃん交通事故で死んじゃって…可哀相だけど…、それは純也のせいじゃなくて…。

 生きてたら私たちくらいの年齢だったかもしんないけど…

 私は久美ちゃんみたいにかわいくないのに、似てるっていうし…、えーと…え……と」


いろいろなことが頭を駆け巡り、支離滅裂な説明で、自分でも全くわけが分からなくなっていく中、涙だけが流れつづけていた。

声を出して泣きたい!


「……華奈、あのさぁ、久美ちゃんのこと、なんで知ってんの?」

純也が、妙に落ち着いた声で訊いてきた。


「……琴未ちゃん…が、教えてくれた」

「ぁあ? 琴未?」

「純也の家にお邪魔したとき…」

「ハァ…。でさぁ、生きてたら俺たちくらいの年齢って?」

なんだ、この純也の呆れた声は…?


「見せてもらった、しゃ、写真の久美ちゃん…純也と同じくらいだった…し」

「写真!? 久美ちゃんの!?」

「うん、かわいい女の子だった。

 私と全然似てないのに、琴未ちゃんも私をはじめて見たとき、久美ちゃんだと思ったって…。

 純也もはじめて私を見た時、そう思って喜んでたんでしょ…?」

「華奈、ちょっと来い!」


純也は、急に私の手を掴み教室を出て、校門を出て、何も言わず、駅に向かって走り出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ