表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

(1)タイプじゃない!

ホームに続く階段を駆け上がり、電車に飛び乗る。

切れる息を押さえ、空いている席に腰をおろした。


やっぱ、体が重い…。ダイエットしようかなぁ? 

無理に決まってるよねぇ。

ダイエットなんて、いままでに何度試みてもその日だけで終わってるし。

どうせ食べたいもの食べちゃうし!

自分で自分に言い訳をしてダイエットは、また却下だ。


肩での呼吸が収まり、ふと顔を上げ、前を見た。

“うぉ! うぉ~、マジタイプ! キョホッ!”

向い側に座っている男子学生は、モロに私の好み。

短いけど柔らかそうなクリクリッとした黒い髪。

色白なお顔。

ぽっちゃり系の体系。

眼鏡かけてるし、マンガ本読んでるし、少し短そうな制服のズボンからのぞく白い靴下。

“あ~完璧。こんな人が彼氏だったらなぁ…言うことなし! なのに”

一度収まりかけた酸素不足の心臓音が、ときめき音に変化していく。

私は、胸に両手を当て、目のまえの男子学生の頭からつま先までを行ったり来たり、目だけを動かし、彼を見つめた。


彼に酔いしれていると、制服の袖口がひっぱられ、名前を呼ばれた。

「華奈…、おい。……おい、華奈」

その声を、無視したまま私は目の前の彼を見続けたが、「おい、って、言ってんだろ?」と、苛立ちの声で私の頬を摘み、横を向かされた。


「……痛いんですけど…?」

頬を摘まんだまま放そうとしないそいつの手を掴んでみたものの、奴の指先に力が入り、私の頬からその指は放れない。


「痛いってば!! 放してよ!」

「どこ見てんだよ…。つーか、明日提出の宿題、俺の分もやれよな、おまえが」

私の隣に腰かけているコイツ……ふざけたことを言いなさる。

「はぁ? 冗談でしょう。自分でやりなさいよね、そんくらい!」

私は、そいつの頭を一叩きしてみた。

「ッ痛! なにんすんだよ!」

コイツの声に、目の前の男子学生が顔を上げ、私たちを見た。


あっ、ヤバイヤバイ、どうしよう、隣のこいつとカップルと間違われたら…。


「お兄ちゃん! うるさいから静かにして、電車の中だよ?」

「はぁぁ!? なんで俺がおまえの兄ちゃんなんだよ!」

デカイ声を出すな、ってーのよ! 

とっさに兄弟に仕立て上げたが、余計目だってしまった。

私は、もう一叩きヤツのおでこを、ピシッと、叩いた。

「華奈、なんで俺がおまえの兄ちゃんになんなきゃなんねーんだよ。同い年なのに」

「あ~はいはい、ごめんなさい。私が悪ぅ~ございました!」

とりあえず、コイツをだまらせようと、一応謝るが、まだゴチャゴチャと話しかけてくるコイツの声に、男子学生は私たちをジッと見つめ、私は彼に軽い微笑みを投げたが…シカトされた。

あんたのせいで、変な目で見られたじゃないのよ!

もう一度、隣のうるさい男のおでこを一叩きしていると、電車が馬鹿田毛駅に着き、男子学生は、降りて行ってしまった。


あっ! ちょっと、そこのタイプの人~。

私は、席から腰を浮かし、男子学生を追いかけてしまいそうになったが、隣のヤツにスカートを引っ張られ、座りなおした。

私は、ヤツを睨んだ。

「まだ降りる駅じゃねーだろ? っていうか、何、睨んでんだよ、華奈…」


私の横のこの男、濃い目のブラウンのロン毛で、髪質サラサラ。

シャープな顔立ち、少し鋭いお目目、身長高め、ボディ細め、お勉強普通、男友達多め、女のファン非常に多い。

見た目、世間一般ではこういう男を『かっこいい男』と呼ぶのだろう。


私は、160センチ、60キロ、ふくらはぎ太目、二の腕太目、でも手首だけは細い。

肩までのおかっぱ、髪質、太くて健康な直毛の黒。

お勉強は、コイツよりは少し成績優。

顔はとりあえず、普通ということにしておいてほしい。


こんな私とコイツが、なぜ恋人同士か…。

その前に、コイツは私のタイプではぜんぜんない、のに私の彼氏。

勝手に彼氏になってくれました。

正直、100%迷惑なんです。

確かにコイツは『かっこいい』。

それは、私も認めるけど、人間には好みというものがあって、私にとってコイツは『薄らぼやけた顔』程度で、胸にグッとくるような男ではない。


ぜんぜん不釣合いな二人。

世間の女子学生の方々からも、学校の女子のみなさまからも、「ありえな~い」的な視線をあびながら、高校最後の生活を始めて、早二ヶ月半。



あの日、もう少し帰宅が早ければなぁ……




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ