1話、猫って可愛いよね。
はじめまして、楽しんでいただければ何よりです。
交際1周年。
その日、悲劇は起こった。
甲高い音を立てて止まろうとするトラック、目の前にいる子猫。
それが地球での最後の記憶になった。
そう、地球で最後である。
何の因果か僕は異世界で世界を救うことになってしまった。
最愛の彼女を置いて。
「今日は彼女と付きあって一年の記念なんだけどぉ、何買おうかなぁ〜?」
声だけで自分がいかに浮かれているかがわかった。
「はぁ、いい加減に惚気に付き合わされるうちの気分も察してくれん?」
電話先の友人も、呆れたように返してくる。
「まだ高校生なんやし、適当に料理でもしたら?」
むむっ、料理か......
「でも料理苦手なんだよなぁ......」
「ぐちぐち言うな!他に案は流石にもうださん!」
一喝されてしまった。
「なら料理作ろうと思うんだけど、朝日さんは何が好きとか聞いたことある?」
百貨店に向かおうとしてたが、スーパーのほうが良さそうだ。
「流石に自分の彼女のことくらい覚えときや......確か朝日は好き嫌いがないわ」
まさかの好き嫌いがないのか......
予想以上にハードルが高くなってきたな。
僕の彼女、望月朝日はどこまで行っても完璧のようだ。
「流石にうちもそろそろ食事の時間やから、一回通話切ってええ?」
そう言われ、手元のスマホに目線を落とすと19時を回っていたようだ。
流石に付き合わせすぎたか......
「ほーい。ありがとサンバ」
「ぷっ、なにそれ!まぁ、がんばんなよ、じゃあね。」
ツー、ツーとスマホが通話が切れたことを知らせてくれる。
ちょうどスーパーに着いたので、初心者でも作れそうなものをスマホを見ながら一通り買い揃え揃えようとしたらクリスマスセールのポップが目に付く。
「ローストビーフは簡単なのか......」
一人ごちると、近くにいた主婦が聞いていたのか、くすくすと聞こえてきたので少し気恥ずかしくなり、一通り買った食材を買って早足で外に出る。
「うぅ、やっぱ12月になると一気に冷え込むなぁ」
流石に部屋着でダウンを背負っただけでは寒さに太刀打ちできない。
「にゃ〜」
足元を見ると可愛らしい子猫があしに擦りついている。
「人懐っこいな〜よしよし、かわいいなぁ〜」
猫は喉をゴロゴロ鳴らし、ひとしきり撫でを満喫した後、走り出す。
赤信号の、横断歩道へ。
そこへちょうど、トラックが。
買った袋をほっぽり出して、猫のために、走る。
次いで、衝撃。
「ーーーーー!ーーーーを!!」
「ーーーだ!ーーーー無理だ!!」
ぐわんぐわんと頭が揺れる。
「早く救急車を!!!」
「その傷をみろ!もう助からない!!!無理だ!!」
誰かが、怪我したのだろうか、あたりを見渡そうとしても体は動かない。
そうか、僕はトラックに跳ねられたのか。
最期に目にしたのは、僕の血を身に纏いながらも、走り出す猫。
無事ならよかった。
ツー、ツーと会話の終わりを告げる。
「また何も言えんかった......」
思えばいつから失恋が確定していたのだろうか。
まさか高嶺の花と、想い人が付き合うなんて、信じられない。
失恋のところを攻めようと思ったのに。
直向きに頑張る彼を応援する気持ちが芽生えてしまった。
一年間、ずぅっと惚気られてきた。
私の好きだと言う気持ちは一年間も積ったのに。
せっかくのクリスマス、一緒に過ごしたかったクリスマスは、電話で惚気話を聞く惨めな日になった。
「死んじゃえばいいのに。」
思わず出た、黒い気持ち。
何を言ったんだろう私。
二人は最高の友人だからこそ、幸せになって欲しいのに。
「最低だ、私って。」
どこかでいもしない猫が泣いた気がした。
そして、救急車のサイレンも。