忘れ形見
恋敵でもあったのでしょう。
年老いた黒猫 一匹 忘れ形見に
おまえは時代の荒波に 藻屑と消えた
とぼけたこいつを膝のうえ 撫でてやるたびに
可愛いちーちゃん 泣かせたおまえを憎いと思う
へたくそな鼻歌 ひとつ 忘れ形見に
おまえは都会の粗塩に もまれてとけた
誰のかわからぬメロディを 吹いた横顔に
愛しいちーちゃん まかせちゃおけぬとなじったもんさ
しょぼくれたこのおれ ひとり おいてけぼりに
おまえはさだめの荒縄に 曳かれて散った
尖った襟したワイシャツの 袖をあまらせて
おぼこなちーちゃん 抱いてたおまえを憎んでやまぬ