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ココロクローバー ファントム  作者: ひこてる
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「第1話:ホムホムの来訪・メタルハートその1」Aパート

挿絵(By みてみん)


ココロクローバー。

崩れゆく世界をつなぐため、4人の大精霊と正しき心をもった人間が創り出したといわれる「人間と精霊の絆の証」、平穏の約束の証。

それを巡る旅の軌跡。

「精霊使いのトレフィ」のワクワクとドキドキの変身冒険譚。

この物語はそんな冒険譚を補足する、とある探偵と怪盗の事件簿である。

時は冒険譚の少し前。

新星歴2007年。




「第1話:ホムホムの来訪・メタルハートその1」Aパート




私の名は「シャーロック・ホムホム」。探偵だ。

本名じゃない。「シャーロック・ホムホム」は先代からの襲名。

本当は先代の行方が知れないので勝手に名乗っているだけだが。

私は普段「最近ちょっぴり煙たいベーコン街」でこじんまりとした探偵事務所を開いている。

ベーコン街はその名の通りベーコンが特産の「世界地図」の東にある街。

私の灰色ウェーブにまで香ばしい匂いがついていないといいが。

朝は……苦手なので昼頃に、コーヒー……も苦手なのでココアを片手に依頼者が来るのを待っている。

依頼と言っても普段は何を探してくれとか喧嘩の仲裁役になってくれとか、そういう他愛もないものばかり。

10歳の探偵、となれば客観的に見て頼りないのは分かる。

「ホムホム」としてもう少し頼れる存在であることを周知させていくことが目下の目標である。

そして今回、遠方の名のある人物から私宛に依頼が舞い込んできたのだ。

またとない活躍の機会。

しかし、事件が起きたことに喜々として奮起しようとは、私は俗な探偵だ。

事務所のペットのモップみたいな犬のモンモン。伝言インコのゴンゴンを近所のおばさんへ預け、私は「太陽の国オラクリア」へと向かった。




ベーコン街発の「汽車」から馬車へ乗り継ぎ2日目の夜。

今回の依頼主の待つ、「太陽の国オラクリア」の門前にやっとたどり着いた。

太陽の国、とはいっても海沿いに涼しい風の吹く青と白の美しい国だ。

今は暗くてよく見えんが。

外壁の向こう側からは街灯のオレンジ色が溢れ賑やかな声が聞こえるので、長い入国審査の列もさほど退屈はしない。


オラクリアは砂漠、吹雪、大空からなる4大国家の中でも最も経済、軍事力がともに強いという。

流石、「世界地図」の中心にあるだけのことはある。

この国だけでも確認されている人類人口のざっと4割……40万人近くもいるらしい。

人が多ければ多いほど犯罪も増える。ここに引っ越したらさぞ忙しい毎日だろう。




入国の手続きを済ませ、観光街の煌びやかな貸し切りのレストラン、指定されたテーブルへと向かう。

そこにいるのはピンク髪の青年。今回の依頼者だ。


「長旅ご苦労様、名探偵。会えてうれしいよ」

「こちらこそ。ペルジック殿」


ペルジック・ローザリン。確か歳は20よりは下だったか。

ローザリン家は世界の流通の4割を抑える大企業。大富豪。

自社による多分野の生産業にも余念がなく、私の着ている「探偵っぽい衣装」一式もローザリンブランドだ。

私の目の前にいるのはそのローザリン家の御曹司。

いや、確か……


「最近は個人スポンサーとして活躍されているようですね」

「そっちでも噂になってる?そ。家出て今は俺一人なんだ」


噂に聞くペルジック殿は自分好みの事業を見つけたら気ままに出資する、ローザリンの名前をもつ個人スポンサー。

出資を受けること自体もそうだが、才能ある彼の目に留まるということが何より意味を持つと言われている。

この貸し切りレストランも恐らく彼がスポンサーのようだ。

ともかくその「ペルジック・ローザリン」と繋がりが持てるのは非常に良い機会だ。


「才能を見抜くのは得意だと思うんだけど、経営とか人事管理とか俺嫌いでさぁ。そういうのは多分、俺より妹の方が向いてるね」

「妹さん、確か私と同じくらいの歳だったでしょうか」

「だね。もし見かけたら仲良くしてあげてよ。俺に負けずわがままだから女の子の友達いないみたいだし」


まぁ俺もいないけど、と呟きながらペルジック殿は近くのウェイターへ合図を送った。


「しかし、なぜわざわざ私に連絡を?この国にも探偵とは言わずとも自警団や騎士団もいらっしゃるでしょうに」

「ちゃんとした秘密主義の名探偵を呼びたかったからさ。それに君の噂は聞いてたから、一度会ってみたかったし」


お、来た来た、とテーブルに香ばしい「ジャガイモ」のポタージュが運ばれてきた。

そういえば何も食べていなかったな。失礼、と口に入れる。

……うまい。


「俺が出してるだけあるでしょ」


顔にでていただろうか。

まぁいいか。

ほどなくして、ペルジック殿は "絵" の描かれた紙を数枚私の方へ並べた。

本題へ入ろう、ということだ。

そこに描かれていたのはうっすらと虹のように輝く鉄のハート型。

そしてぼやけているがマントのようなものを羽織った白黒の残像。


「これが……依頼の調査対象ですか」

「謎のお宝メタルハート、そしてそれを狙う怪しい白黒フード。その正体を探って欲しい。」


ペルジック殿はテーブルに膝をついて真剣な顔を始めた。


「1週間ほど前にボルル火山で発掘された謎のお宝メタルハート。それを調査のため保管していたウチの……ローザリンの倉庫が謎の白黒フードに襲撃されたのよ。」

「襲撃?それでそのメタルハート、は盗まれたのですか?」

「幸い何も盗られなかったけど、倉庫が荒らされて親父カンッカン!んで、また襲撃されたらたまったもんじゃないけどよそに回すわけにもいかないしってことで俺に諸々の調査ごと回されてきたの。俺、巻き込まれ~」


身振り手振りに怒り顔、泣き顔。思っていたより表情豊かな人だ。


「それではメタルハートは今もペルジック殿が所有されているのですね」

「そうだよ。でも、俺だけじゃないみたいよ」


そういうとペルジック殿は懐から「招待状」を取り出した。


「3日後、コレクターで有名な富豪がそのメタルハートを展示するからってパーティに人を呼んでるんだよね」

「メタルハートは……複数あるものなのですか?」

「わかんない。俺の持ってる方が偽物かもしれないし。実際に見てみないとわかんないね」

「そこの真偽はさておき、襲撃者の狙いがメタルハートであるならまた現れる可能性は高いですね。パーティをやめさせるというのは……」


ペルジック殿はムリムリ、と肩をすぼめた。

招待状を配った手前、取り下げるというわけにもいかないだろう。

私は事件現場の倉庫の様子と思われる"絵"を見つめた。

砕かれた木箱、凹んだ鎧。風穴の空いた壁。

その痕跡からは武器は使わず、まるで素手で破壊したような印象を受けた。

しかしまぁ随分と繊密な "絵" だ。

まるで見たまんまこの紙に閉じ込めたような。


「とりあえず、襲撃者のことを参加者には周知させたうえでパーティにおとり捜査と行くしかないでしょうな」

「じゃ、そこらへんは俺の方で軽く手配しとくよ」

「助かります」


私は改めて襲撃者の "絵" を見つめる。


「とりあえず改めて、ご依頼承りましょう。メタルハートを狙う襲撃者の目的と正体の調査。最善を尽くします」

「頼りになるね」


この世界は少し掘り起こすとやれ "古代兵器" だの、やれ "ソルモンの魔道具" だの、やれ "マジン" だのと物騒なモノが見つかる不安定さの上に成り立っている。

私が今まで解決してきた事件の中にもそういったものを悪用しようという連中はゴロゴロいた。

今回のこのメタルハートとやらも、何か大きな企みが裏に潜んでいそうな……予感がする。


他愛もない世間話の後、食事を終えレストランから出ようとしたときペルジック殿から一言。


「そういえば……最近 "出る" から気を付けてね」

「ゴースト……いや、精霊のイタズラでも?」

「いやぁ」


「怪盗」




怪盗。「探偵のライバル」としてもよく描かれる存在。

美学を持ち、殺人を良しとせず、所謂義賊的な「泥棒」。

いつも格好よく描かれやがって。

4、5年ほど前まで実際に「ムース」と呼ばれる怪盗が活躍していたのを記憶している。

当時は "探偵見習い" としてもし「その時」がくれば容赦はしないと構えていたが、ついぞ出会うことなく「ムース」に関する噂は途絶えた。

もし、私「探偵シャーロック・ホムホム」と同じように「怪盗」の名を冠するものがいるのであれば相対してみたいものだ。




時刻は日付の変わったころだろうか。

人の声は消えキャリーケースのゴロゴロ音が響く。

旅人向けの宿屋はすでにどこも満室。こんなことなら手配してもらうべきだったか。

心は元気だが身体は限界。

少し休憩、と夜空を見上げる。

今日も月は綺麗だ。時刻はもう深夜近いだろうか。

少し前まで寝る前には月を眺めながらノートにポエムをたしなんでいたが、最近になって恥ずかしくなってノートを全部無やした。

人は失敗をしないために嫌な記憶を忘れないようにできているらしい。

私は満月を見るたびにポエムのことを思い出す呪いにかかっている。

しかめっ面で月を眺めていた丁度その時、


バサッ!


月の逆光を受けたマントを羽織ったような人影を見た……気がする。

あまりにも一瞬のできごとだったので見た、という自信が持てなかった。

普段だったらちゃんと観察できたかもしれないが……長旅で疲れも出ているのだろう。


その後、少し割高な気がする宿屋を見つけ私は翌日の昼まで眠りについた。




例のパーティまでオラクリアの調査という名目の観光を楽しんだ。

どうせこの先しばらく滞在して見慣れてしまうのだから、まずは旅行者の気分で楽しむこととした。

太陽の国オラクリア。

4層に重なった街並みの中央にオラクリア城。

壁に囲まれ北は私がやってきた平原、南は海。東西は山。

さすがの広さゆえか、街はずれにはちらほらモンスターも見かけるが随所に兵士もいるので危険な印象は特にはない。


特筆すべきは飯のうまさ。露店のスイーツは勿論だが、ふらっと入ったおばあさんの切り盛りする定食屋は家庭の味、という印象でとても気に入った。

家庭の味がどういうものかはよく知らないが、多分ああいう感じ。

どうも毎日は店を開いていないらしい。次いこうと思ったときに開いているといいが。


途中立ち寄った図書館も見事だったが伝記「シャーロック・ホムホム」を見つけて気恥ずかしくなってすぐに出てしまった。

私の何世代か前の「ホムホム」が自伝の本なんぞ出しやがった。

おかげでゆく先々で各々のホムホム像を期待されるので後の世代はいい迷惑だ。

少し歴史書の類に目を通したかったが、私と同じくらいの灰色の少年が熱心に読み集めていたので日を改めてということでよいだろう。


2日目の夜、ペルジック殿の根回しで、私宛にも富豪のパーティの招待状が届いた。

オラクリアでは私の顔はきかないだろうから、こういったイベントにも接触しづらいだろうと思っていたのでとても助かる。

とはいえ襲撃者が現れるかもしれないのだ。「武器」の手入れもしっかりしていこう。


あいにくドレスは持っていないが、私の正装は "コレ" だから問題あるまい。

はて……パーティ、お宝。私の脳裏にはいつぞやの逆光の人影が浮かんだ。

まさか、襲撃犯がソイツだったりしないだろうか。

「怪盗」の出現を心の底で期待している、私は俗な探偵だ。




「キタキタキタキタ! 出番来たー!」

「なぁやっぱ手を引いたほうがいいって。あのお宝、結構闇が深そうだって」

「じゃぁババットはお留守番しててね。ボク一人で行くから」

「だーめだって! 本当にヤバそうなんだって!」

「お兄ちゃんのやり残し、ボクがやらずに誰がやるのさ!」




Bパートへ続く。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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