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グロ注意


 山で浮浪者の『肉無し死体』が発見された事件の話はあっという間に秋刀魚ノ村中に広まった。

 明け方の事だと『タヌキ』から聞いた。

 俺たちがノドシロの洞窟から帰った後にあの山で人が殺された。

 タヌキはいい匂いのする場所を掘っていたら人間の骨を発見したと言う。


「骨をしゃぶったら美味しかった。肉があったら食べたかったなぁ」と残念そうだった。

 動物なんてこんなもんだ。


 タヌキが骨を掘り起こした事で死体は発見され、秋刀魚ノ村中にパトカーが走るようになった。


『犯人が逮捕されるまで外出はお控え下さい』


 村放送でもそう繰り返し言うものだから村民達は事件発覚の翌日はほとんど外出しなかった。


 俺もパルモデに外出を控える事と皆にもそれを伝えろと命令した。

 パルモデにとってはフランクとの決闘が延期になったので幸運だったろう。


『秋刀魚ノ村の肉剥ぎ魔』


 は一晩で人間も動物も震え上がらせた。


 俺を除いてな。

 ノドシロにも外出を控えるように言って俺は事件現場からかなり近い岡崎の家で彼を警護する事に決めた。

 そんな義理は無いのだが、岡崎が肉剥ぎ魔に襲われたら俺は一ヶ月は気分が悪くなるだろう。

 きっと魚を食う度に岡崎の顔がチラつく。

 あくまで自分のためにそうするのだ。






「……」


 岡崎は鼻の穴に丸めたティッシュを詰めてボーっとしている。

 ある意味いつも通りと言えばいつも通りだ。


「……風呂行くか」


 待て待て。風呂に行くのになぜ熱した包丁と斧がいる? 俺は風呂が嫌いだから今まで風呂にはついていかなったが……待てよ? 岡崎は今まで『風呂に入った事』があっただろうか?

 俺は濡れることを恐れず岡崎に付いていくことにした。


「……こりゃあ」


 そう発するのが限界だった。

 衝撃的な情報があまりにも多すぎる。

 まず岡崎の背中には熊の入れ墨が彫られていた。

 両足の腿。両肩にエグられた様な傷がある。

 見覚えのある傷だ。


「……俺のと似ている」


 俺の身体に刻まれた傷。

 医者に行かず自分で治した傷跡。

 だが俺と違うのは『容赦』を感じるのだ。

 殺すつもりの無い傷。変な言い方だが岡崎の傷には愛がある。


「んーとね」


 右肩の傷はまだかなり新しいのか血が止まっていない。

 岡崎は傷の周りの肉を少量、包丁でエグリ、熱によって止血した。


「よしよし」


 こいつに痛みは無いのか? そんな平気な顔で何でそんな事が出きる?

 いつも通りのぼんやりとした岡崎の顔に逆に恐怖を感じた。


「細かく細かくな」


 風呂桶は何かの肉がギチギチに詰めてあり、血溜まりが出来ていた。

 いや。何かってのは嘘だ。

 俺はこの肉の正体に気づいている。


「ふぅ。ふぅ」


 包丁と斧で肉を細かくしていく岡崎。

 傷だらけの老人が血だらけの浴槽で肉を捌く光景はまるで異世界だった。


「あいつ。口ちっちぇから。しばらくは飢えないように……俺じゃあ駄目だったか? 骨見つかったのはな。どこ置こう?」


 ノドシロとの会話を思い出した。


(あ〜。とーちゃんがな。時々『おいでー』って呼ぶ夜は家まで言って肉を食わせてもらってた。何の肉かは知らないけど美味くてよ〜。一口だけで物足りなかったけどそれでも幸せだった。とーちゃんが俺のために用意してくれた肉……でもそれだけだけだ。あとはすぐ帰った。とーちゃんもついて来ようとしたけど。とーちゃんは夜目が効かないし俺の洞窟も知らないしな)


「くっ……そ」


 俺はこんなに弱かったか? 歳を取ると涙脆くなるのと一緒か?

 俺は自分の想像で吐きそうになっている。


『岡崎が笑顔で人の肉をノドシロに渡し、ノドシロは口の周りを血だらけにしながらそれを美味そうに食べる』そんな想像。


 ボケ老人? とんでもない。岡崎は凶人だ。


『警察だ! 岡崎いるか! 岡崎! 警察だ!』


 母屋の方から聴こえるこの声に気がついていない訳がないのに岡崎は肉を切るのを止めない。

 とうとう口笛を吹き始めた。


『岡崎! 早く開けろ!』


ドンドンドン! ギコギコギコ。


 警察がドアを叩く音と岡崎が肉を切る音。

 世界最悪のシンフォニーだな。











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