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推理パートへ~老人は痴呆か~


 トイレと風呂が外にあるボロい平屋。犬小屋の跡。小さな家庭農園。

 おそらく手作りであろう古いブランコ。

 ここが『岡崎太郎』の家か。

 俺とノドシロ。俺たちから少し離れた所でパルモデは俺たちのターゲットの家を草むらから見ていた。


「おっ? 出てきた。あれがとーちゃんだ」


 どことなく熊っぽい体型の髪もヒゲも白髪の老人が薪割りを始めた。

 いくつかは分からないが年の割には力強いスウイングだ。

 ボケているようには見えないが、まぁボケってのは突然発動するもんだ。


「子供の時は俺ととーちゃんとかーちゃんと、おとーとのター坊とあそこで暮らしていた」


 ノドシロが懐かしそうに語る。

 ノドシロは岡崎をとーちゃんと呼び、岡崎の息子をおとーとと呼んでいた。

 子熊と中年の夫婦とその子供があそこに住んでいた。

 だが、時は経ち。子熊は巨大熊ノドシロとなり追い出され岡崎の妻が去り、おとーとも家を出ていった。


「本当に幸せだったな。あの頃は。俺が熊じゃなくて犬とか猫だったらなぁ」


 俺はノドシロに「恨んでいないのか?」と聞いた。


「なんでだ?」


「お前は3人を家族だと思っていた。けど岡崎は妻と子供を守るためにお前を追い出した訳だ。恨んでも誰も責めない」


 ノドシロはため息を付き「愛だよ。愛。お前は本気で誰かを愛したことがないんだな。そいつの痛みが自分の事のように感じるほどの愛を」と言った。


 少しムカついた後に大いに嫉妬した。

 たしかに俺にそんな経験はない。

 俺の余命も数年か数ヶ月か。愛を知らずに俺は死ぬんだろうな。


「……愛かよ」


「愛だ」


「なぜ岡崎がボケていると?」


「言い出したらキリがないよ。俺は時々ここでとーちゃんの様子を見るんだけど。いきなり叫んだり泣き出したりうずくまって唸ったり……「どーしようもないけどどーにかしてやりたいけどどーにもならん!」とかブツブツ言ったりな。畑作業も以前出来たことが出来なくなったりだ」


「ふぅん」


「その「ふぅん」やめろよ。軽いなぁ」


 ふぅんとしか言いようがない 

 ボケと言われればボケだ。動物にもそんな奴は沢山いる。

 老化と言えば老化。年を取るってのもそんなもんだ。

 まぁ心が病んでるのは間違いなさそうだし病院へ連れて行くのは賛成だ。


「時々ター坊がとーちゃんの様子を見に来る。ター坊は近くに俺がいるかどうか警戒しているからここよりもずーっと離れた所からしか見えないが、猫のお前なら近づいても警戒されないだろ?」


「俺が何とかター坊に岡崎の異変を気づかせて病院へ連れて行かせる……わかったよ」


「やってくれるんだな?」


「ああ」


 得意の安請け合いだがな。何の策も思いついてはいない。

 まずは岡崎が本当にボケているのか確かめよう。






「……」


「……」


 熊と一緒に住んでいただけあって猫一匹がフラッと家に入ってきても岡崎はリアクション一つ取らずボーっとテレビを見ていた。

 それともこれも痴呆の症状なのだろうか?


「んぁ」


 間抜けな一声と同時に立ち上がり台所に向かう。夕飯だろうか? ズボンは下がり。お尻の割れ目が見えるし靴下は片方しか履いていない。

 ボケていると言えばボケている。ただだらしないといえばだらしない。

 ぶつ切りにした野菜をぶち込んだ味噌雑炊とキムチと煮魚と酒がディナーか。

 豪勢だ。

 岡崎は刺し身1枚サイズに魚を切って俺の目を見てそれを投げたので俺は有り難く口でキャッチして頂いた。


「おめぇうめぇな」


 うめぇよ。キャッチも魚もな。

 魚を食べながら家の中を観察する。

 あれだな。汚い。

 痴呆……だらしないだけか?






「んぁ」


 飯を食って1時間。どうやら寝るらしい。かなり早めの就寝だな。

 今日は風呂には入らないのか。人間にしてはいい心がけだ。

 なぜ人間はお湯に浸かりたがるのだろう? あれはさっぱりわからん。


敷きっぱなしの布団に潜り込んでモゾモゾしている。

 とりあえず今日はこの辺で引き上げてヒートビートに帰るとするか……


「……いてぇ」


「ん?」


 布団から出て引き出しから何やら白い粉の入ったパケを取り出して粉を水で飲み込んだ。

 顔色が悪い。汗の量も異常だ。


「……我慢出来なくてもするしかねぇ」


 引き出しから何かを取り出し、それを懐にしまい。また布団に潜り込んでウンウン唸りながら「ちくしょう」だの「たまらんたまらん」と呟いている。


 ボケだか老化だか病気だか知らないが俺はやっと全力で岡崎を病院へ連れて行く覚悟が出来た。

 岡崎の姿が怪我をしたのに病院へ連れて行って貰えず傷を舐めて治した昔の自分と重なってしまったのだ。

















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