結婚したら密室に閉じ込められた件
「マモル君、大好き! ずっと私のものだよ!」
「うん、勿論!」
「手始めに、あなたの会社に今日付けで退職届出してきたから!」
「……え?」
「でね、スマホも解約してきた! 貯金も全部下ろしてきたし、それで適当に新幹線の切符も買ったから! これで今マモル君がどこにいるか把握してる人は私しかいないし、捜索しようにも足がつき難くなったよ!」
「え……え?」
「そしてほら! ここが今日からマモル君のおうち!」
サプライズと言われて付けられていた目隠しが、外される。そこで目にしたのは、がらんとした真っ暗な部屋だった。
「え? チカちゃん……?」
「それじゃ私、まだ用事が残ってるから! マモル君はここで大人しくしててねぇー!」
最後に、彼女は光の中でにっこりと笑い――。
バタン、と俺の目の前でドアは閉められた。
結婚初日。
俺は、奥さんに監禁されてしまった。
ドアは勿論開かない。1LDK内にある窓はどこもかしこも外から塗り固められており、虫の這い出る隙間も無かった。
これで俺の趣味が脱出ゲームとかブラジリアン柔術とかなら良かったんだけどな。残念ながら、豆苗を育てて食べることを史上の幸福とする俺にできることは何も無かった。
……ん? いや、待てよ?
豆苗さえあれば、ここでも全然幸せに暮らせるのでは……?
冷蔵庫を開けてみる。人の目玉っぽいものや爪が詰まったタッパーはあったものの豆苗は無かった。野菜室にも冷凍庫にも無い。がっかりする。人の腕とか足を凍らせるぐらいなら、切った豆苗をフリーザーパックに入れて保存しといてほしかった。
いや、もしや既に育ててくれているのかもしれない。そう思って押し入れを開けると、所々白骨化した男の死体の入った圧縮袋とご対面した。思わず舌打ちする。俺は豆苗がほしいんだよ。
ため息が漏れた。せっかく結婚したのに豆苗が無ければ意味がないではないか。こうなれば、何とかチカちゃんの隙をつき逃げるしか……。
「ただいまー」
そんなことを考えていると、チカちゃんが帰ってきた。重たそうに提げたビニール袋には刃渡り十センチの包丁と……。
「豆苗! マモル君、好きだったよね!」
「チカちゃーん!!」
思わず彼女を抱きしめ、精一杯の愛を伝える。
可愛くて気の利く彼女と、美味しい豆苗。それさえあれば、俺の人生監禁されることなど何でもないのだ。