月がきれいですね
僕は動かない。右足がどれだけ動くかわからない
ボスモノも動かない。手負いの獲物のダメージの確認か、真の強者は油断しない
沈黙…の中、後ろからドン!ガシャ。バラバラと音が聞こえてきた
食堂の入口に大量の槍が山積みだ!僕の闘いを見て判断し即行動って…
超優秀じゃなーい。
ありがとう子供たち生きて帰ったら温かいスープで乾杯だ!
ボスモノもそれに気づいたが僕はいち早く槍のもとに到達。右足の感覚がなくなっていく
子供たちは槍のおかわりも用意しているようだ。まずは一本投げる
一投目からまずまずのできだ。ビュッていったし
でも山なりの槍を難なく躱すボスモノ。これじゃダメだ
僕は前世の記憶から槍投げなど様々な投擲競技・球技のフォームを思い出す。最適化しろ
テイクバック、背中の筋肉を意識しろ。肩の角度、フォロースルー、もっとだ、最適化しろ
僕の山なりの槍は徐々にスピードを増す。躱すボスモノにも余裕がなくなってる
僕の右脚はもう動かせないほど重症だ。固定砲台としてこのまま槍を投げて大人たちが来るまでの時間を稼ぐのだ
はずれた槍の何本かが焼死体の残り火で燃えだす。よし見やすい
はずれた槍はボスモノの足場も悪くしている。よし当たり出した
あれほど尖らせた槍なのにボスモノを貫くことは出来ない。もっと鋭く力強く
被弾覚悟で飛び込んできたボスモノに僕の会心の一投が放たれた。地面とほぼ平行に、回転しながら、唸りをあげながら…
その槍が描く螺旋が見える…
それは深々とボスモノの肩に突き刺さった。
ボスモノが悲鳴をあげた。しかし、地面に伏してもまた起き上がり再度僕に向かってくる
距離を詰められた。投げるための溜めをつくる時間はない
僕は槍を構えて最後の決戦に臨む。奮うのだ勇気を!ただ一突きに全身全霊を込めろ!
両手を振り上げ襲ってきたボスモノの口内はさっきよりよく見える。鮮やかな赤だ
今もっている力全部を込める。さっきの螺旋を描く槍が僕の脳裏に映し出される
僕自身が一本の槍になり、赤の、その奥の深紅の円をめがけ、突く
貫いた。その後頭部から飛び出した血の噴水と槍が僕には見えたのだ
断末魔の叫びの後に訪れる静寂…
僕は勝った
生命の火が消えるボスモノの瞳には悲しみが見え
僕を襲うために振り上げた爪は
僕の腹を裂き
そしてだらりと止まった