無事に帰るまでが
生き延びることができる。心の底から浮かんでくる喜びで強張った表情が緩むのがわかる
ユキに近づくと僕に身を預けるよう倒れ込んできた。額には珠のような汗
無理もない。あんなに強い能力を使ったのだから
ありがとうユキ。いやこれは言葉にして、声に出して伝えないと
「守ってくれてありがとうユキ。今度は僕が君を守るよ」
瞳を閉じたまま口角があがる。頭も撫でておこう
ただ。ただ、頭の中に響く声じゃないけど僕の心に一抹の不安が浮かぶ
「フラグが立ちました」って誰かに言われた気がした
「逃げろー!!ガキども急ぐんだ!」
デカいおっさんの声だ。黒い何かが、一直線に近づいてきた
デカい。さっきのモノの2まわりはある
これが群れのボスか…雑魚戦の後にお約束といえばお約束
僕の修行でパワーアップや秘められた力の覚醒とかモロモロのイベントはスキップしたのに敵だけ強くなるってずるい。ユキもずるい、ありがとう、でもずるい
ボスモノは仲間の焼死体を見てスピードを緩めて、止まり僕たちの方を見た。目があった
憎悪に満ちた目だ。人間以外でこれほど感情が込められた目を僕は見たことがない
僕は視線を切らさないまま下がり、食堂のドアで覗き見ていた少年にユキを託す。今度は僕が君を守るよ
棒を構えた。できることをやろう
急所を狙えばダメージが通るかもしれない。狙うのだ
目か…いや的が小さすぎる。それよりは口の中だろう
方針は決まった。カウンター狙いのほうがいいか…
飛び掛かるのは習性だろう。こんなちっぽけなガキだし無警戒にいただきますてきに口を大きく開けてきたら…
やってやる。棒を握る手に力をこめる
僕の予想通りにはいかず、ボスモノはジリジリ近づき前足を袈裟に振り下ろしてきた。僕はバックステップで躱す
剣のように上段からこちらも袈裟に打つ。躱される
横薙ぎ一閃。も弾かれる
あまりの力にバランスが崩れた。ピンチ襲来!
前足の、鋭い爪の横薙ぎが僕の右腿を斬り裂いた。ぐううッ
噛みつこうと口を開くボスモノ。チャンス到来!
右手前の半身になり両手で力いっぱい口めがけつく。赤い月の光のせいかボスモノの口内も赤赤だ
バキキィン!!!
棒は噛み砕かれた…僕の希望も…
続く前足の攻撃を這う這うのていでかわし距離をとる
ふーっ。まだ終わらんよ!