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第26話 『千幻妖狐』VS『金剛羅刹』

≪sideモナ≫


 ちょっと急いで来たから、旦那様を家に置いて来てしもうた。


 スマホの伝言アプリで今から迎えに行くと伝える。


「中々の大根役者っぷりじゃったぞ。善人面も似合うではないか♪」

「まんまと騙されてくれて有難い限りだ。後はお前が居なくなれば大団円なんだがな♪」


 こやつの姑息な所は、利用されておる者がそう感じないように仕向ける事じゃ。

 自分は間違っていない、役に立っている、頼りにされていると思わせる事。

 亜弥もすっかり心酔しとるようじゃしな。

 使い潰されて終わりじゃと言うのに……


「で、どうするんだ?ここで殺り合ったら家が無くなるぞ」

「どうせ、お主が準備しておるのじゃろう?」

「まあな。思い切り暴れられる場所だ。……早速行くか」

「待つのじゃ。旦那様を途中で拾っておくれ」

「居ないとは思ってたが、置いてきたのかよ」

「戻ろうと思えば刹那で戻れるし、護衛も置いておる。じゃが、お主と殺り合っておったらどうなるか分からんからのう。手の届く範囲に居て貰わんと逆に集中出来ん」

「まあ、俺もあいつの事は気に入ってるからな。命を奪うつもりはねえよ」

「それは助かるが、今回は秘策もある。今の内に覚悟しておけ」

「秘策つっても2回もやっておいて対策してねえと思うか?」

「やはり勘づいておったか……」

「そりゃあ、あんだけの量の力を使えばな」

「ではいつも通りか」

「……そうだな。今回は趣向を変えて、この姿のままやるってのはどうだ?」

「名案じゃな!元の姿は裸も同然じゃからの。旦那様に見られるのは恥ずかしくて敵わん」

「今更かよ……」


 話も纏まったので、旦那様の元へと戻った。





「……あれ。モナ、おはよう?」


 丁度起きたようじゃの。

 旦那様の呆けておる顔はほんに可愛いのじゃ♪


「今から大狸と殺り合う事になった。危険が伴うかも知れんが、付いてきてくれるかの?」

「当たり前だ。俺はモナの旦那だからな!」

「くふふ♪これは勝って最高の褒美を貰わねばな♪」

「ああ、期待しててくれ!」




 2人で朝食の準備をしておると、大狸がやって来た。


「行くんじゃねえのかよ……」

「腹が減っては戦は出来ぬと言うであろうが。お主も食べて行けば良い」

「モナの料理は美味しいですよ」

「……幸せを守ろうとする時の女は一番強いからな。今回は分が悪いか?」

「お主の領域でやるのじゃから帳消しじゃろうよ」

「旦那様よ、皿を並べておくれ」

「分かった。『金剛羅刹』さんは飲み物は何が良いですか?」

「コーヒーはあるか?」

「コーヒーは食後じゃ。茶で我慢しておれ」

「なら聞くなよ……」


 食後にコーヒーで一息付き出発する。

 外に出るとこの前見たステルス戦闘機とやらが空中で待機しておった。


「流石に戦闘機に乗るのは初めてなんだけど……」

「妾もじゃ!初めて同士じゃな♪」

「大分上空にあるけど、どうやって乗るんだ?」

「ここから跳ぶに決まってるだろ」

「そうじゃな」

「決まってるんだ……」


 旦那様をお姫様抱っこして跳躍する。

 必死に妾にしがみつく旦那様を見ておると、謎の胸のときめきがあった。

 ……この衝動は一体何じゃ?




 戦闘機で運ばれる事半刻。



 岩山に囲まれた採掘場に着いた。


「昔の特撮ヒーローの定番みたいな場所だな」

「爆発が本物だからしょうがなかったんだろ」

「CGも良いけどやっぱり本物の火薬は迫力が違うからな」

「まあ、今日は身近に体験出来るだろうぜ♪」


 むむっ!2人で妾の知らぬ事を楽しく話しおって。


「旦那様!帰ったら妾にも特撮ヒーローとやらを見せておくれ♪」

「良いけど、余り女の人向けじゃ無いよ?」

「良いのじゃ。旦那様が知る事は妾も知りたいのじゃ♪」

「無事に帰れると思ってんのか?婆もそろそろ生き飽きただろうから消滅させてやるよ!」

「その言葉そっくりそのまま返すぞ。いい加減お主の馬鹿面も見飽きたからのう♪」

「俺はどうしたら良い?」

「あそこに丁度良い感じに座れる岩がある。妾の勇姿を見守っておくれ♪」

「わ、分かった!」


 去っていく旦那様の周りに強力な結界を張る。

 妾の読み通りなら、常に結界を張っておけば問題無い筈じゃが……





 改めて大狸と対峙する。


 妾はいつもの鉄扇と懐に式神を準備した。

 こやつに術は効かんから『幻界』ならいけると思うておったが、始める前から旦那様は何ヵ所かから超遠距離で狙撃されておる。

 一撃の威力が高い故に結界を何度も張り直しておるから、ほぼ全ての妖力を必要とする『幻界』は使えそうに無い。

 妖力の量だけでここまで見破られるとはのう。


 旦那様は自分が狙撃されておる事を気付いておるようじゃが、妾の結界を信じて真っ直ぐにこちらを見詰めておった。


「これは無様な姿は見せられんのう♪」


 妾は着物を更に着崩し気合いを入れ直した。




「じゃあ、殺るか!!」


 大狸の合図と共に上空から落ちて来たのは大きな背負い籠。


 これがこやつ得意の『刀喰らい』

 様々な相手から奪った武器が籠からはみ出さんばかりに詰められておる。

 しかも、本人以外は籠と中に入ったままの武器には干渉出来んと言う徹底ぶり。

 厄介極まりない代物じゃ。



 まあ、妾も己にかける術の準備を終えておるが……


「『幻視ノ羽衣(げんしのころも)』」


 薄碧色の羽衣が妾を包む。

 本来は回避、浮遊、魅了の効果がある優れた術じゃが、こやつの前では浮遊でしか使えん。


 妾の体が宙に浮く。

 僅かばかり高所の優位を取らせて貰うかの。



 大狸が籠に手をかけ武器を取り出した。


「喰らえ!!『千手鞭』」


 大狸が振るった鞭が数多に増え、津波の如く迫って来た。


「『大玉狐火』」


 妾の前に大きな火の玉が現れて大爆発を起こす。

 鞭はその衝撃波で押し戻された。

 大狸自身に術は効かんが、流石に武器には有効じゃ。


「チッ!」

「やはり、術が使えるのは華やかで良いのう♪妾に有利な気もするがな」

「(元の姿なら一足飛びで狙撃手が殺られるだろうが!婆の変な自信からすると、秘策とやらは使われたら絶対にヤバイ奴だからな)期間限定の特別サービスだ。獣の見た目同士の殺し合いなんてあいつも見たく無いだろうしな」


 確かに、いつもの肉弾戦では無くて良かったのじゃ。

 あれはほんに品性の欠片も無いからのう。



「では、次はこちらから行くぞ♪」


 懐から大量の式神の札を取り出し宙に放る。


「風よ」


 妾が起こした風によって札が上空に舞い上がっていった。




「一体何だ………!!?」


 ドン!!!



 ズガガガ!!


 鉄扇が大狸の横腹に直撃した。

 吹き飛ばされた大狸はそのまま岩壁を突き破り途中で止まった。


 おお!今のはかなりの手応えじゃ♪



 ガラッ!


 崩れた岩の中から大狸が姿を現す。


「下らねえ術を使いやがって……」

「じゃが、効いたじゃろう?」

「まあ良い。全部燃えろ!」


 大狸が杖を地面に叩き付けると、杖を中心に熱風が広がった。

 札は一枚残らず燃えてしもうた。


「妾に火は効かんぞ?」

「鬱陶しいから燃やしただけだ。術で移動して直接殴るとはな」


 妾は式神があれば、術で位置交換が出来る。

 旦那様の部屋に戻ったのもこの術じゃ。

 先程は大狸の近くに1枚舞い降りておったから幸運じゃったな。



「ちまちまやってても埒が明かねえな。出来れば使いたくは無かったが……」


 大狸が渋々籠から取り出したのは一本の槍。

 ん?あれは見覚えがあるのう……


「ちょっと待つのじゃ!?その槍はシヴァの小僧の……」

「勘違いすんな!あの悪ガキが神になった時に『私にはこれはもう必要無いですね』って言うから貰っただけだ」

「嘘をつけ!そもそも口調からして違っておる。『俺、もうあの人無理……』とか言って隅でブルブル震えておったであろうが!」

「震えてたのは俺もお前も一緒だろうが!自分は平気でしたみたいな言い方すんな!……あの悪ガキは主から解放されて悟りを開いたみたいだな」

「そうか……。確かに、妾も解放された後は強さに固執せんくなって、一皮剥けた覚えはある。理不尽には抗うなとな」

「まあ、この槍の威力は知ってるよな。精々防いでみろ!」



 あの槍は破壊力一点特化の破壊の権化じゃ。

 こんな場所で使えば、辺り一面が灰塵と帰してしまう。

 主様は素手で受け止めておったが……


 妾だけならどうにでもなるが旦那様が居る。

 ……どうするか?




 はっ!?


 その時、妾の頭に天啓が降りてきた。



「待て!お主がそれを使うなら妾にも考えがあるぞ」

「この期に及んでひよっちまったか♪」

「妾が憑依の術が得意なのは知っておるか?」

「ああ。その術使って一時期は世界の3割を支配してたくらいだしな。って…………まさか!!」

「そのまさかじゃ。主様の魂を呼び戻すと言ったらどうする?」

「……冗談だよな?」

「冗談でこのような恐ろしい事を思い付くと思うか?」

「最早脅迫ですらねえぞ!絶対に止めろよ!もし機嫌が悪かったらどうするつもりだ!?」

「機嫌が悪かったら…………全員まとめて冥土に行くか」

「ふざけんなよ!何回地獄を見たと思ってんだ!婆と道連れなんて御免だからな!」

「……道連れか。巻き込むのなら旦那様の意見も聞いておかねばな」

「そうだな。お前の旦那が嫌と言えば良い話か……」


 大狸が合図して狙撃を止めさせる。

 妾も結界を解除し、旦那様に手招きした。


 旦那様は自分を指差して「お、俺か?」と言った表情になった後、こちらに駆けてきた。


「旦那様よ、すまぬ。今、大狸と意見が別れておってな。旦那様の意見も聞いておかねばと思ったのじゃ」

「それは別に良いけど、戦ってたんじゃないのか?」

「その戦いを左右する重要な選択なんだ。俺の意見に同意してくれ、頼む!」


 大狸が旦那様に頭を下げた。

 自尊心の塊のこやつが頭を下げるなぞ、余程会いたくないようじゃな。

 まあ、妾も会いたくは無いが。


「どういう意見なの?」

「大狸が強力な武器を使おうとしておる。使われると妾は旦那様まで守りきれる自信が無い。よって、妾と大狸が昔仕えておった主様の魂を呼び戻すぞと脅しておる途中じゃ」

「話が斜め上を行ってんだよ!なんでそこで主が出てくるんだ!?」

「モナ達の主って前に話してたやつか」

「そうじゃ。どちらにせよ、旦那様を巻き込むのでな。ズバッと決めておくれ!」

「そうだな……」

「そ、そうだ!祝いの品がまだだったよな?別荘なんて欲しくないか?温泉付きの良い物件だぞ!主は物凄く危険人物なんだ!俺の言いたい事分かるよな?」

「…………俺は会ってみたいな」


 大狸の最後の悪足掻きも無駄に終わり、この世の終わりを見た様な顔をしておるが、旦那様が望んでおるなら叶えねばな。


「了解じゃ。依り代は………この特製の式神に憑依させるしかないか」

「俺はもうどうなっても知らねえからな。……いや、待てよ。この男なら主も気に入る可能性が……」




 大狸の一縷の望みを聞きながら、妾は術を行使した……









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