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第21話 婆と渋おじ

 研究所から助け出された次の日……



「む………」

「モナ、どうしたんだ?」


 昼休みに屋上で食事していると、急に葉子さんが険しい顔になった。


「いや、何でも……無くはないのう。勇也よ、心して聞け」

「……お、俺か?」

「亜弥達狐人は妾の妖力で人の姿に化けておるのは知っておるか?」

「はい。前に亜弥から直接聞きましたけど」

「うむ。たった今、その亜弥との妖力の繋がりが切れおった」

「それって……」

「亜弥本人の命が途絶えておるか、もしくは妾の妖力が必要無くなったか……。亜弥の実力的に死んでおる可能性は低いと思うがの」

「……そ、そんな。でも、妖力が必要無いって言うのは?」

「己で妖力を扱えるようになれば、そもそも妾の力など必要無い。じゃが、どうやって……」


 葉子さんが何やら考え込み始めたが、龍児が葉子さんの頬を軽く引っ張った。


「モナ、取り敢えず食べ終わってから考えよう」

「………そうじゃな。では旦那様、あ~んじゃ♪」

「あ~ん。……やっぱりモナの作った料理は格別に美味しいな」

「隠し味の愛情を隠しきれん程に入れておるからの♪」

「道理で美味しい訳だ!」

「まあ、様々な時代の料理を食して来たから、舌は肥えておるつもりじゃ」


 納得の理由だった……

 ついでに、俺は前から聞きたいと思ってた事を聞いてみた


「……なあ、2人とも何で周りの目を気にせずにイチャイチャ出来るんだ?」

「妾からすれば、その周りと言うのは有象無象でしかないからのう。有象無象を気にするなぞ愚かの極みじゃ」


 ……滅茶苦茶辛辣だった。


「まあ、俺はそこまで割り切れてないけど、周りの目なんて散々気にしてきたからな。気にするだけ無駄って結論に至っただけだ」

「気にするだけ無駄か……」

「周りの目とやらがお主に何かしてくれるのか?それよりも面と向かっている相手に自分の想いを伝える方が余程大事じゃ」

「そうそう。自分が気にする程、周りは自分達を意識して無いからな。そんなの気にするだけ無駄だろ?」

「……そうだな。俺も頑張ってみるよ!」

「……じゃが、お主の場合は相手が嫌がっておるかどうかは気にした方が良さそうじゃの」

「確かに。親友が捕まるのは見たくないしな」

「……………」


 俺、泣いても良いかな……


「今のは冗談じゃが、亜弥の居場所くらいは把握しておいた方が良さそうじゃの。……………ほう。狸人の里か。大狸に愚痴でも溢しに行ったか」

「狸人の里!?まさか『金剛羅刹』って奴に会いに?」

「でも、九龍さんが頼みに行ったら勇也からは手を引いてくれたんだろ?良い奴じゃないのか?」

「『羅刹』などと呼ばれておる時点であやつも妾と同類じゃ。何が目的かは知らんが、凡そ別の悪巧みでも考えておるのではないかの」

「……でも、亜弥から会いに行ったんなら、亜弥にも何か目的があるって事か」

「………噂をすれば何とやらじゃな」

「えっ?」



 ズドン!!!


 葉子さんが呟いた瞬間、空から何かが落ちてきた。

 落下の衝撃で屋上が軽く揺れる。

 下の階に貫通するほどでは無かったようだが。


 落下地点に立っていたのは男着物を来た渋いおじさんだった。

 おじ専だったら眉唾物の渋さだ。


「くくっ♪婆、久しぶりだな!」

「大狸か。……まともに話すのは主様が亡くなった時以来かのう?」

「……あの人の話はよせ!思い出しただけで震えが止まらなくなるだろうが!」

「……そうじゃな。それよりも一体何の用じゃ?直前になるまで気づかんかったのも気になるが……」

「お前が引き込もってた間に時代は進んでるって事だ。ステルス戦闘機っつう探知に引っ掛からない便利な乗りもんだ。お前の出鱈目な気配察知もすり抜けられたみてえだな」

「……確かに。妾もスマホを見た時は衝撃を受けたぞ」

「まあ、今回の用事は大した事じゃねえ。狐の嬢ちゃんはこっちで預かってるから余計な手出しはするなって言う忠告だな」

「やはりお主が……」

「ああ、嬢ちゃんが力を望んだからな。俺は手助けしてるだけだ」

「そう言って利用出来そうなら使い潰す算段じゃろう」

「くくっ♪やっぱり俺の事を良く分かってるじゃねえか!……で、こっちのイケメンがお前の旦那か?」

「そうじゃ。妾の最愛の旦那様じゃ♪」

「……因みに、お前の正体を知った上でか?」

「そうじゃ!旦那様は驚きもせずに、そんな事は気にせんと言ってくれたのじゃ♪」

「いや、驚きはしたけど……」

「………お前、大物だな。俺も気に入ったぞ!今度祝儀を送ってやる」

「因みに金塊じゃったら邪魔になるから要らぬぞ」


 えっ!?この前俺の家に金塊を送るって言ってなかったか?

 もしかして、不要品の押し付け!?


「まあ、楽しみに待っておけよ!」

「……あ、ありがとうごさいます。で良いのか?」

「くくっ♪本当に面白え奴だな。お前も良い拾い物をしたじゃねえか♪」

「くふふ♪ほんに自慢の旦那様じゃ♪」


 葉子さんも龍児を褒められて嬉しいのか、龍児にくっついたまま笑って返していた。


「……それでこっちが『影』か?」

「そうじゃ。お主が利用しようとした、な」

「お前、何で嬢ちゃんじゃダメなんだ?愛想良し、器量良しの別嬪じゃねえか」

「いや、それは……」

「ん?何だ、こいつは普通っぽいな。嬢ちゃんが惚れてるくらいだから余程の男かと思ったが……」

「普通なのが勇也の良い所だからな。昔はその普通っぽさを少しでも分けて欲しかったくらいだ」


 ここで龍児がカミングアウト。

 何だよ、普通っぽさを分けるって……


「まあ、嬢ちゃんはお前のために強くなりたいそうだ。その気持ちを少しは汲んでやってくれ。俺が言いたいのはそれくらいだ。邪魔したな!」


 そう言って、『金剛羅刹』はそのまま颯爽と屋上から飛び降り、待ち構えていた戦闘機と共に空へと消えて行った。

 最近は驚くのにも慣れてきたが、戦闘機を間近で見れて人知れず感動していた。



「あやつの言う事はどこまで信じられるか分からんな」

「でも、羅刹って感じじゃ無かったけど」

「今は戦っておらんし、本性は実際に見てみんと分からぬものよ」

「因みにどれくらい強いんだ?」

「妾にとっては相性が悪い相手じゃが、何度か殺り合って妾が勝ち越しておるくらいかのう」

「……途轍もなく強いと言うのだけは分かった」

「『金剛』と呼ばれる所以か分からんが、術が一切効かんから大体は肉弾戦じゃ。……そうじゃ!新しい術なら一泡ふかせられそうじゃな♪」

「……神だからな」


 ???

 一体何の話だろう。


「まあ、亜弥本人の希望であるなら仕方あるまい。こちらも精々あの2人を強くして帰りを待つとするかの。危機感を与えるために木人くんエクストラとやらせるのも有りじゃな」

「……絶望しそうだな」



 それから、葉子さんが式神に屋上の修繕を命じた後、教室に戻った。

 途中で月詠が廊下の隅に隠れるようにしゃがみこんで震えていた……










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