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第2話 転校生の正体

 あれから何とか気を持ち直した俺は、目の前で正座しているおふくろを問い詰める。


「それじゃあ、おふくろの言い訳を聞こうか」

「私は悪く無いの!お父さんが『勇也に教えたら絶対あいつ調子に乗るだろうな。面倒臭いな……』って言ったのが原因よ!」

「おやじの意見に賛同したおふくろも共犯だよ!しかも、面倒臭いって何だ!?」

「だってもし教えてたら、あんた頻繁に変な想像してニヤニヤしてたに違い無いわ!」


 それは確かに面倒臭そうだ……


「実の息子を何だと思ってんだよ……」

「えっと…………実はこの前、家計簿ソフト使いたくて、あんたの部屋のパソコン借りたんだけど、最近の子は本じゃなくてパソコンなのね。知らなかったわ」

「!!?……ま、まさか見たのか?」

「まあ、あんたも年頃だからそういうのに興味があるのは分かるわ。でもあれは………ね。おかあさん育て方間違えたのかと本気で悩んだわよ」


 いや、そんなまさかな。

 開いてすぐのそれっぽいファイルはダミーだ。

 あれを見られたくらいじゃ俺の精神は揺るがない。

 ……本命はごみ箱に保管してあるからな。


「で、でもあれくらい今の若者だったら普通な筈だ」

「あれが普通ですって!?我が息子ながら大物ね!」

「ああ、話がだいぶ逸れたけど、おふくろも共犯だからな!」

「あっそうそう。ごみ箱のやつ戻したままだから。捨てておいてね」


 ……何………だと…………?





 嫌ああああああ!!!!!!!!


 嘘だ!嘘だ!!嘘だ!!!

 身内にバレるってこんなに恥ずかしいもんなの!?



「お父さんにちょっと相談しようかしら?流石にあれを普通と豪語されると、息子の将来が心配だわ」

「母上様!困った事があれば、わたくし目に何なりとお申し付け下さい!そして、出来れば今回の事はご内密にお願い致します!」

「わ、分かったわよ。……亜弥ちゃん、ごめんね。こんな馬鹿な息子だけど宜しくね」

「はい♪私はゆうくんの許嫁です!どんな性癖でも受け入れて見せます!」


 そりゃあ隣に居るんだから全部聞かれてるよね……

 まあ、まだ真実を知っているのはおふくろのみ。口を滑らさないようにせいぜいおべっか使って機嫌を取っておこう。


「でもあれは………心の準備が必要だと思うから、後で教えてあげるわね」

「ごめん、おふくろ。俺今日から旅に出るわ!」

「ゆうくん、待って!」

「亜弥、止めてくれるな。男には行かねばならない時があるんだ!」

「私も一緒に行きたい!」

「えっ!?それは………。今のは冗談だよ」

「亜弥ちゃん、本当に良い子ね~。ほら!内緒にしておいてあげるから、馬鹿な事やってないで荷解きの手伝いでもしてきなさい!」


 こうして、おふくろへの追及は有耶無耶にされた。

 後でおやじに聞くとしよう。




 向かったのは2階の亜弥の部屋。

 丁度空き部屋になっていたので今は亜弥の荷物しかない。


「ゆうくんの部屋の隣だね♪」

「何から手伝おうか?開けられたら困るものもあるだろうから、亜弥の指示に従うよ」

「開けたら困るもの?無いと思うけど」

「ほら……何だ。その……し、下着とか?」

「別に困らないよ?」

「そこは困ってくれよ!そうじゃないと俺が困るよ!!」

「わ、分かった……」


 しかし、俺に対しての羞恥心が全く無いのはどういう事だ?

 ここはひとつ苦言を申さねばなるまい。


「なあ、亜弥」

「はい♪」


 亜弥が俺に向き直って笑顔で応える。

 あ~、もう何でそんなに可愛いんだよ!

 言いづらくなるだろ。


「亜弥は俺の許嫁なんだろうけど、その前に嫁入り前の女の子なんだ。過度なスキンシップとかは避けて適度な距離を……」

「嫁入り……ゆうくんとの新婚生活…………」

「お、おい。お~い、亜弥さ~ん」


 亜弥は暫くトリップして戻って来なかった。

 ……全然片付かなかった。



 夕飯が出来たとおふくろから呼ばれダイニングに向かう。

 おやじも丁度帰って来たみたいだ。


「いらっしゃい、亜弥ちゃん!前に会った時はこ~んなに小さかったのに、物凄く別嬪さんになったな!」

「おじさまもお元気そうでなによりです。今日からお世話になります」


 おやじはタバコの箱を掴みながらこのくらいと言っているが、最早胎児ほどの大きさである。


「おやじ!後で説明して貰うからな!」

「喜べ勇也!お前には許嫁が居た!……以上だ」


 俺は目の前のむかつく顔をぶん殴っても許されるだろうか?


 ……おふくろも何も言わないし、何か特別な事情でもあるのか?

 家の中の明るい雰囲気に誤魔化されそうになるが、急に自分の許嫁が現れて、しかも一緒に住むなんて普通じゃない。

 それこそドラマやアニメならあり得るだろうけど、それはフィクションだ。


 今になって、詳細を語らない親と隣に座る亜弥の存在が急に恐ろしく感じた。

 一度違和感を感じてしまうと疑念が止められなかった。




「ご馳走様、俺ちょっと疲れたから部屋に戻るわ」

「全然食べてないじゃない。具合悪いの?」

「たぶん疲れてるだけだと思うから心配しなくて良いよ」


 食事が喉を通らなかったので、早々にダイニングを出る。

 階段を足早に駆け上がり自分の部屋のベッドに倒れ込んだ。


 絶対におかしい……。

 一番おかしいのは亜弥だ。

 いくら許嫁とはいえ、5歳の頃に一度会ったっきりの男にどうやればあそこまで好意を抱ける?

 普通ならどんな人間なのか判断出来るまで、少しくらい警戒しても良さそうなものだ。

 おやじ達が何も言わないから、結局亜弥の素性は分からないまま。

 帰り道で亜弥と話しはしたが、おふくろに聞く予定だったのでそこまで入り込んだ会話はしていない。

 せいぜい互いの嗜好や趣味、5歳の頃に会った時の話だ。


 今まで一緒に過ごしてきた両親を疑いたくはない。

 逆に本人に確かめる方が確実か?




 コンコン♪


 部屋の明かりも点けずに仰向けなって考えていると、誰かがドアをノックした。


「ゆうくん。具合大丈夫?入っても良いかな?」

「ああ、良いよ」

「ありがとう。お邪魔します」

「ごめん。明かり点けるな」


 照明のスイッチを入れると亜弥の落ち込んだ顔が見えた。

 座布団を用意し、テーブルを挟んで対面で座った。


「ゆうくん、ごめんね。私が急に来たから色々と慌ただしくて、ゆうくんを疲れさせちゃったのかなって思っちゃって……」


 もう、いっそのこと直接確かめよう。


「………なあ、亜弥。お前は一体何者だ?」

「えっ?……な、何者って。ゆうくんの許嫁の九龍亜弥だよ」

「良く考えると許嫁って言われたから納得してただけで、証明するものなんて何も無いんだよな」

「そ、それはゆうくんのご両親と私の両親が決めた事だから…」

「でも、おやじ達は説明を放棄してる………振りをしてる」

「振り?」

「そうだよ。たぶんおやじ達も詳しい事は知らないか、もしくは説明が出来ない内容なんだろうな」

「……そんな事」

「だからもう一度聞くよ。お前は何者だ?」


 俺の問いかけに、亜弥は目を見開いたまま涙を流した。


 えっ?ちょっと待って!

 そこは「バレちゃてたのね♪平凡そうな顔してたから騙せると思ったんだけど♪」とかじゃないの!?


「ひっく…。ご、ごめんなさい。5歳の時に会ったゆうくんに一目惚れして、私の親にゆうくんにまた会えるようにお願いしたら『じゃあ、2人の縁が切れないように婚約しとこう』って、ゆうくんのご両親と約束してくれたの。それから会えない日々もゆうくんへの想いがどんどん募っていって、会えた時は嬉しさが抑えきれなくて抱き付いちゃって……」


 ほ、本当なのか?

 ただの俺の勘違いだったのか……


「だけど、ゆうくんのご両親が説明出来ないのは私のせいなの。私が普通じゃないから……」

「普通じゃないって……」

「今から私の秘密を見せるね。それでゆうくんが私を嫌いになるなら此処を出て行って、もう二度とゆうくんの前に現れないようにする。でも、もしゆうくんが許してくれるならこれからも側に置いて下さい!」

「ちょっ、ちょっと待って……」


 亜弥は俺の制止を聞かず立ち上がった。

 どこから取り出したのか、頭の上に一枚の葉っぱをのせて……



 ポン!


 軽快な音と共に白い煙のような物が辺りに立ち込める。

 煙が晴れるとそこには一匹の狐が鎮座していた。



「は?」







「これが私の秘密……。幻滅したかな?」


 亜弥は狐の姿でも言葉を喋れたのだが、違和感しかなかったので人の姿に戻って貰った。

 だが、先ほどと違うのは頭に生えた尖った耳と腰の辺りから伸びるフサフサの尻尾。

 その姿はどこか神秘的で神々しくもあった。


「……私は狐人の一族で、里に居る九尾の狐である『千幻妖狐』様の不思議な力で人の姿に化けられるの。私の両親とゆうくんのご両親は昔から交流があったみたいで、ゆうくんが5歳の時に来たのが狐人の里なの。……これが私の秘密の全てです。ゆうくんを騙していてごめんなさい!」


 俺は何も言葉を発せられないでいた。

 喋り終えた亜弥は俯いて床に涙を落とす。



 お、俺は………

 俺はーーーーー









 うおおおおおお!!!

 本物のケモ娘が来ちゃった!!!



 こ、こんな美人で可愛い女の子が俺の許嫁で、しかもケモ娘だと!?

 そんなの俺得でしかないじゃないか!!

 遅れて来た興奮に先程までの疑念は綺麗さっぱり吹き飛んでいた。



「亜弥、顔を上げてくれ!」

「……ふえ?」

「疑ってごめんな。許嫁を疑ってしまうような失礼な男だけど、俺は亜弥と一緒に居たい。許してくれるか?」

「ゆうくん…………わ~ん!ゆうくん、嬉しいよ~!」


 2人で抱き合って仲直り。


 確かに、おやじ達が説明出来なかったのも理解したが、許嫁の存在を教えてくれなかったのとは何の関係もない事に気付いた。


 俺は亜弥と手を繋いだまま、改めておやじ達を問い詰めに行くのだった。






 翌朝……


 カーテンから差し込む光で目が覚める。

 昨日は怒涛の一日だったな……

 夢であれば良いと願っていたが、今はそんな気持ちは微塵も浮かんで来ない。

 逆に夢だったら大泣きして落ち込みそうだ。


 う~ん。だいぶ早いけど起きるか。

 布団の中で軽く伸びをして上半身を起こした。


 ふと隣に布団が膨らんでいるのが視界に入る。

 何だ?


 俺が掛け布団を退かすと、中には亜弥が丸まって寝ていた。


 ………何故、亜弥が同じ布団に?

 服は着ているから(やま)しい事は何も無かったと思うが……


 それにしても、昨日も思ったがなんて美しい耳と尻尾なんだ!

 俺は惹き付けられるように手を伸ばし……


「う……ん」


 僅かに残った理性が手を引っ込めさせた。

 お、俺は一体何をしようと……


「亜弥、おはよう」

「わあ♪ゆうくんだあ~」


 亜弥は寝惚けているのか、急に俺に抱き付いてきた。


 ちょっと待って!ストップ!ストップ!

 朝から抱き付かれるのは刺激が強すぎる!


 俺が何とか亜弥を引き剥がすと亜弥の意識が覚醒した。


「……あっ!ゆうくん、おはよう♪」

「……おはよう」

「起きたらゆうくんが側に居るなんてまるで夢みたい♪」

「夢じゃないよ。俺も昨日の事が夢じゃなくて良かったって思ってる」

「ゆうくん……」

「因みに、何で亜弥が俺のベッドに?」

「昨日は荷解きが何も出来てなくて、夜中に段ボール開けてうるさくするのも申し訳なかったから、ゆうくんに毛布でも借りようと思ってゆうくんの部屋に来たの。ゆうくんが気持ち良さそうに寝てるから、私もついゆうくんの隣で横になって……」

「そう言うことか……。今日学校から帰ったらちゃんと片付けような」

「うん♪」



 顔を洗ってリビングに行くとおやじ達がソファーに2人並んで座っていた。


「2人とも起きたか。勇也と亜弥ちゃん。そこに座りなさい」


 おやじに言われて対面に座る。

 いつに無く真剣な顔だ。


「急に改まってどうしたんだ?」

「勇也、亜弥ちゃんが狐人である事は絶対に周りにバレないようにしろ。良いな?」

「勿論、分かってるよ。他に何か気を付けないといけない事とかあるのか?」

「……孫の顔は見たいけど、あんた達はまだ学生なんだから避妊はするのよ!」

「ああ、分かった…………って、朝っぱらから何言ってんだ!」

「だって念を押しとかないと『おふくろ、子供出来ちまった!』なんて急に言われても困るんだから!」

「そんな事言われてたった今困ってるよ!亜弥も何か言ってやれ!」

「あう………」


 亜弥は顔を真っ赤にして俯いていた。

 その反応は………困る……


「まあ、さっきは絶対なんて言葉を使ったが、『千幻妖狐』様ならもしパレても何とかして下さると思うから、余り肩肘張らなくも良いかもな」

「おやじ達が狐人の人達と交流があるのが驚きだよ…」

「お前が生まれる前だったな。夫婦で遠出した時に里の近くの道で事故ってしまってな。2人とも暫く里で療養してたんだ」

「その療養してた家が亜弥ちゃんの家なの。その後、勇也が産まれて落ち着いた頃にその時のお礼をしにまた里に伺ったのよ」

「あの時は沢山お土産を頂いて皆喜んでました。ありがとうございました」

「携帯の電波も届かない場所だったから、あのままだったらた多分2人とも死んでた。感謝の気持ちとしては全然足りないくらいだよ。無事に勇也達2人の再会も出来た事だし、また挨拶に行かないとな」

「はい♪今度は私達がおもてなしさせて頂きますね」


 あれ?狐人の事を抜いて今の内容を話してくれていたら、納得までは出来なくても疑ったりはしなかったような気が……


 おやじと亜弥が話している横でおふくろが俺にこそこそと喋りかけてきた。


「亜弥ちゃん、あんたの好みにどストライクでしょ♪嫌われないようにしなさいよ」

「…………ああ」

「これが本当のサプライズよ♪」



 ま、まさかそう言うことなのか……

 全てがおふくろの掌の上だったみたいだ。








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