第19話 森の中の研究所
≪side羽賀龍児≫
勇也が居なくなった翌々日……
モナと一緒に訪れたのは、森の中にある大きな施設だった。
これは、病院か何かか?
「この中に居るみたいじゃな。早速行くか」
「モナ、待ってくれ!やっぱり俺は足手まといじゃないか?」
「大丈夫じゃ。それに、妾が旦那様と離れとうない……」
「……そうか。分かった!俺も覚悟を決めるよ」
「旦那様のキリッとした顔もカッコいいのう♪」
間違いなく俺は足手まといになる自信があるが、モナの望みだからな。
俺も決死の覚悟で向かう事にした。
建物に入ると普通に受付があった。
そこに居るお姉さんに話し掛ける。
「あの~、すいません」
「はい。どのようなご用件でしょうか?」
受付嬢は笑顔で対応してきた。
「あれ?何か普通の対応だな」
「表向きは普通の企業なのじゃろう。おい、小娘。ここの責任者を出すのじゃ」
「こ、小娘……。こほん!アポはお取りですか?」
「アポとは何じゃ?」
「前もって会う約束してるのかって事かな」
「面倒臭いのう。おい、何でも良いから責任者を出すのじゃ!」
「……少々お待ち下さい」
受付のお姉さんはそう言って手元の備え付けの電話で誰かと話しだした。
確かに今のやり取りでは、俺達は究極に面倒臭いただのクレーマーである。
「え~っと。お待たせしました。責任者がお会いしますので、あちらの5番通路を真っ直ぐにお進み下さい」
「では行くかの」
俺達は2人並んで手を繋ぎ、5番通路を進んだ。
途中で自動ドアを何ヵ所か通過し、最後にドーム型の広い空間に出た。
広間の真ん中には白衣を着た女性と口に猿轡をした勇也が立っていた。
「ふが!ふがが!ふがー!!」
何言ってるのか分かんねえよ……
「やあやあ。ようこそ、当研究所へ!良くいらしてくださいました。私は当研究所の所長の草加園霧葉と申します。千石葉子さんと羽賀龍児くんですね。私は貴方達お二方を歓迎致しますよ!!」
一目見て分かった………コイツは胡散臭い奴だ。
「勇也を解放しろ!」
「致し方ありませんね。私もそちらの方を相手にはしたくありませんので。どうぞこちらに」
「う~む。明らかに罠じゃが……。どうするかの」
「勇也をこちらに歩かせろ!」
「………はい。やむを得ませんね。どうぞ東谷くん、ここでお別れのようです」
勇也がふがふが言いながら近付いてくる。
助けに来てあれだが、若干気持ち悪いな……
そして、触れられる距離まで来た勇也に背を向かせ、猿轡を取り外した。
「龍児、「ありがとな!」」
そう言った勇也の声が重なる!
突如、勇也の影から何者かが飛び出して来て、俺と勇也を草加園の方へと吹き飛ばした。
「はは♪こうも簡単にひっかかってくれるとはな!案外大したこと無いんじゃねえか!?」
「勇也よ。怪我はしておらんか?」
「はい。大丈夫です」
「心配かけさせやがって。帰ったら飯奢れよな!」
「……お前ら何でそこに居る?」
「狂矢!幻術よ!そこからすぐに離れて!!」
「くっ!」
ズドン!!!
狂矢と呼ばれた男は咄嗟に俺達から距離を取る。
男が立っていた場所には大きな鉄扇が突き刺さっていた。
「惜しいのう。あと少しじゃったのに♪」
「マジかよ!コイツは半端ねえな!」
「……旦那様よ、少し離れておれ。思ったより手強い相手のようじゃ」
モナの言葉に従い、背後の壁まで移動する。
対峙している2人からしたら、一瞬で詰めれそうな距離ではあるが……
「勇也、大丈夫だったか?」
「拘束されてただけで特に何もされてないから安心してくれ」
「良かった」
「それより、あいつら葉子さん相手なのに妙に自信があるのが気になるんだ。最初は俺達を人質にするのかと思ったけど、そこまで重要視してない気がする」
「………モナ!油断するなよ!」
「心配せずとも良いぞ。旦那様の声援があれば妾は無敵じゃ♪」
モナは満面の笑みで応えた後に相手に向き直った。
「……お主もしや吸血鬼か?」
「そうだ!今日はお前を倒して名実共に最強を名乗れそうだぜ♪」
「最強の肩書きなんぞに何の意味がある?……はぐれの吸血鬼が粋がっても虚しいだけじゃぞ」
「てめえ……。真祖が何だってんだ!俺はもう真祖の連中を2体殺してる!実力で言えばあいつら以上だ!!」
「ほう。……じゃが、お主が見逃されておるのを見ると、もう死期を悟った相手じゃったのかも知れんのう」
真祖って言うと吸血鬼の始祖の事だよな。
で、狂矢は後から吸血鬼化した一般吸血鬼なのか。
漫画とかアニメから得た知識だけど、こんな所で役に立つとはな。
しかも、狂矢はやたらと強さに執着している様に見える。
「………マジで癇に触る奴だ。おい、霧葉。アレを頼む!」
「アイアイサー!!」
軍人みたいに元気良く返事した草加園は、狂矢に何かを投げ渡し後、手に持ったスイッチのような物を押した。
特に何も起きてはいないようだが……
「……ぐっ!何じゃこれは!?」
「私特製の弱体化装置よ♪人外の化け物にだけ効く優れものなの。しかも対象が強ければ強いほど効果が比例して上がっていくわ。貴女の場合ならさぞかし辛いでしょうね♪」
「そうか……。これが真祖を倒したカラクリかの?」
「そうよ♪私と狂矢が組めば、敵なんて居ないわ!」
「それで先程渡した物がその効果を中和する何かと言う訳か……」
「なあ、ダラダラ喋ってねえで早く殺り合おうぜ!!」
「くふふ♪……まるで虎の威を借る狐じゃの♪あっ、狐は妾じゃったわ。この場合は蝙蝠かの♪」
「………お前を殺った後にそこの2人も惨たらしく殺して……やる……!?」
空気が変わったのが分かった。
こちらに向けての殺気では無い筈なのに、体の震えが止まらない。
直撃している2人はどうなっているのか……
「お、おい!ちゃんと効いてるんだよな!?」
「……う、嘘!?む、無理よ!こんなの聞いてない……」
草加園は立って居られなくなり床に座り込む。
狂矢は急におろおろし始めた。
「……おい、お主は草加園と言ったか?」
「は、はい!」
「今すぐ旦那様達と共に安全な場所に移動せよ。勿論下手な真似をすれば命の保証はせぬぞ。装置はこのままで良いがな」
「わ、分かりました!ほら、貴方達行くわよ!」
俺達は草加園に連れられてそそくさとその場を後にした。
連れて来られた部屋には大画面のモニターに先程の広間が映し出されていた。
「……それでは蝙蝠よ。お主の大好きな殺し合いを始めるとしようかの♪因みに妾が弱っておる今でなければ、万が一の勝機も無くなるぞ」
「くくっ♪やっぱり自分を小者に見せれば、強い奴ほど面白いくらいに引っ掛かるな♪」
「別にお主の事を舐めてなどおらんよ。事実を言っておるまでじゃ。じゃが、お主を殺すにはいささかこの空間は狭すぎる。旦那様達に流れ弾でも当たりかねんからの」
「化け狐が色気付きやがって。……まあ良い、真祖2体分の『血の力』存分に味合わせてやるよ!」
そこから先は正真正銘の殺し合いだった。
狂矢は自身の体を霧化させダメージを抑えつつ、周辺に撒き散らした大量の血を使って縦横無尽に攻撃を仕掛けていた。
対してモナの方は、その攻撃の全てを体術だけでかわしていく。
時折、隙を見て鉄扇を振るっていた。
あれってもしかして九柱流護身術か?
離れた所から見るとまるで舞を踊っているようだ。
俺達2人はその光景に見とれていた。
バチィ!!
そのせいで、急な悪意の接近に気が付かなかった……




