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第18話 所長と用心棒

≪side◯◯◯≫



 朧気な意識の中、俺の目の前には別の記憶が映像の様に流れている。


 幼い頃からその2人はずっと一緒に居た。

 村の端に住んでいる2人は、他の村人達からも夫婦などとからかわれるくらいに仲が良かった。

 当の本人達もそんな未来を容易に想像出来たし、そうなるものだと信じて疑わなかった。


 ある日、新しく村を管轄する領主が変わるとの事で、領主が村に訪れる事となった。

 村長は慌てふためきながら村人に指示を出す。

 男達はいつも以上に狩りに精を出し、女達は村全体の掃除や着るものの洗濯を行い、村をあげて歓迎する事になった。


 そして領主が村に訪れた日。


 その日から全ては狂い出した………




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「………ん?ここは何処だ?」


 確か、俺は公園で体調が優れない人に声をかけて、それから……


 体を起き上がらせようとしたが、身動きが取れなかった。

 視線だけ下半身に向けると手足、腰、首までが拘束されていた。

 辺りを見渡すが壁も天井も白一辺倒の部屋、どうやらベッドに寝かされているようだ。

 何だこれ……



 ……にしても、さっきまで見ていた夢は何だったのか?

 その夢は、ずっと幼馴染みを望んでいた俺にとっては理想の夢だった。

 まあ、所詮夢だったのだが……


「あの幼馴染み可愛かったなぁ~」


 俺が夢の幼馴染みに想いを馳せていると、部屋の扉が開いた。


「やあ、やあ♪東谷くん、初めまして!目覚めは如何かな?」

「手足を拘束されて最悪ですね」


 白衣を着た医者っぽい見た目の女性だったので、疑問は尽きないが取り敢えずこの場は合わせておいた。


「因みに私の名前は草加園霧葉(そうかえんきりは)。この研究所の所長をやっている」

「研究所の人が何で俺なんかを?と言うか、俺一般人なんでこの拘束外してくれませんか?」

「ああ、すまないね。起きた時に急に暴れられたら困るから念のために付けておいたんだ。今から外すよ」


 呆気なく解放された。

 同じ部屋の椅子に座り直して話を聞く。

 本当に、一体何なんだ?


「だけど、君が一般人と言うのは無理があるね。私達も何も知らない訳じゃない。君の中の『影』とやらに興味があるんだ♪」


 またか……

 やっぱり巻き込まれるんだな。

 まあ、亜弥達が日常会話の様に話していたから、そりゃ情報もどこかで漏れそうだ。


「それで、俺にどうしろと?言っておくが助けが来ると思うぞ」


 龍児辺りが心配して葉子さんに相談してくれるよな………たぶん。


「そんな事は百も承知さ!私としては君の取り巻き連中も捕獲して研究したい所だ♪」

「そう上手くはいかないと思うが……」

「まさか幻想上の生物が本当に生きているとは誰も思わない。私は幸運に恵まれているみたいだ♪」

「……葉子さんは規格外だから楯突かない方が良いと思うぞ」

「まあ、私もただの研究員じゃ無いし、心強い用心棒も雇ってある。紹介しておこうかな、『間宮狂矢(まみやきょうや)』くんよ!」


 草加園が声高らかにそう呼ぶと、彼女の背後から男が姿を現した。

 一体いつから居た?

 男は全身に黒のフード付きの外套を着ていた。

 俺が男の顔を見ると背筋がゾッとして体が動かなくなった。

 この感覚には覚えがある。そうだ、殺気だ。


「何だ?コイツを殺れば良いのか?」

「違う違う!今から大物が現れるから君にはそちらを対処して欲しい。相変わらず血の気が多いな君は」

「ふん。暴れ足りないんだよ。次の相手は生け捕りなんて言うなよ」

「まあ、生け捕りなんて出来るほど生易しい相手でも無いからね。勿体無くは思うけど殺しちゃっても良いよ♪」

「そうか!血が騒ぐぜ!」


 何でコイツらこんなに自信満々なんだ?

 もしかして……


「……その顔を見てると東谷くんが考えてる事も分かるね。その通り、彼も人外の者だ。彼女とも引けを取らないような、ね♪」

「色々喋り過ぎなんだよ、テメエは」

「ああ、悪い悪い。まあ、そう言う事で彼女を殺してからゆっくり君の相手をしてあげるから楽しみに待っててくれたまえ♪」

「いつもの場所で良いのか?」

「そうだね。流石に相手の力量が読めなくても、弱体化させれば君の相手にはならない。念には念を入れての策も用意してあるし」

「そこまでの相手か……。良いねえ♪久しぶりに命のやり取りが出来そうだ♪」

「それじゃあ、東谷くん。この部屋は好きに使って良いからゆっくり過ごしてね♪」


 そう言って2人は出て行った。

 葉子さんが負ける姿なんて想像つかないけど、何か嫌な予感がする……


 ……絶対龍児も一緒に来るよな。







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