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第17話 『金剛羅刹』

≪side九龍亜弥≫



 私はゆうくんにとって何だったんだろう……


 ゆうくんの許嫁になって、きっと彼も同じ気持ちなんだと思っていた。


 自分の正体を明かすのは怖かったが、ゆうくんが受け入れてくれた時は、そのまま彼と結ばれるものだと思っていた。


 私はゆうくんが大好きなのに、彼は他の女の子に目移りする。


 それが堪らなく嫌だった……



 ゆうくんと喧嘩になった。


 何で女狸の事を庇うのかが分からない。

 そもそもあの女が来なければ何事も起きなかった筈なのに。


 それなのに、ゆうくんからは私が来なければ良かったと言われた……

 でも、ゆうくんの事は嫌いになんてなれない。

 やっぱり悪いのはあの女狸だ。

 しかも、牧瀬さんまでゆうくんに擦り寄って来た。

 元々好意があったのに今更なのは私への当て付けだろうか?


 千幻妖狐様も龍児くんに会って変わってしまわれた。

 初めてお会いした時のような威厳は微塵も無い。

 以前の様に敬えなくなっている。

 私だけ鍛練から除外されたのも納得がいかない……




 色んな事が頭の中をぐるぐるして、思考が安定しない。


 気付くと私は狸人の里の入り口に居た。

 どれだけ歩いたか覚えていないが、どうやら無意識の内に移動していたようだ。


『金剛羅刹』様なら話を聞いてくれるだろうか?

 この前、私の事を気に入ってくれたらしいので、面会だけでも出来ないかな。



「おい、止まれ!狐人が何の用だ?」

「お、おい。コイツって確かこの前来た……」

「!?……ち、ちょっと待ってろ。親分に確認してくる!」

「俺を1人にするなよ!?俺も報告に行く!」


 そして、門番は居なくなった……



 暫く待っていると、男着物を着て口に煙管を咥えた渋いおじさんが現れた。


「おう、狐の嬢ちゃんじゃねえか!あれからまだ間も無いが何かあったのか?」


 そう、つい先日この方に直々にお願いして、ゆうくんに手を出さない様に頼んだのだ。

 勿論、寸なりと面会出来た訳も無く、狸人との連戦に次ぐ連戦で満身創痍だったのだが……


「『金剛羅刹』様、突然の訪問をお許しください」

「堅苦しい挨拶は止めようぜ。あと、俺を呼ぶ時は親分で良い」

「……分かりました。ありがとうございます」

「まだ堅えけど……。それで、何の用だ?」

「突然ですがお訊ねしても宜しいですか?」

「ああ、良いぜ」

「何で男の人は色んな女性に好意が向けられるんですか?……………じゃなくて!どうやったら強くなれますか!?」

「……最初の問いが本命じゃなくて良かったぜ。因みにお前の言う強さってのは何だ?」

「……愛する人を護る強さ」

「まあ、確かに前に来たときは鬼気迫る感じだったな。最初はあの婆が攻めて来たのかと思ったぜ」

「私は間違って無い筈なのに、いつの間にかゆうくんの隣が乗っ取られてて……」

「あん?そいつも(したた)かな奴だな。最初から狙ってたんじゃねえのか?」

「そうなんです!この前もその女狸のせいでゆうくんと喧嘩して、私と会わなければ良かったなんて……。………っ!…………」

「おいおい、泣くくらいに堪えたのかよ。そりゃ、その女に誑かされてるんじゃねえのか?……ん?女狸って……そう言えば差し向けたのは俺だったな。だが、篭絡しろなんて命じた覚えは無えが」

「……牧瀬さんだって!……何で今になって!?」

「他にも居るのかよ……。『影』には雌を惹き付ける特殊な力でもあるのか」

「……そうだ!私はゆうくんを護りたいんです!私とゆうくんの仲を割こうとするなら、例えどんな敵だって!!」

「(大分拗らせてんなぁ~)……それが例えお前らの主であってもか?」

「……はい!『千幻妖狐』様も神様では無かった。私達はずっと化かされていたんです。元は同じ狐なのに……」

「(くくっ♪あの婆が神?どう見繕ってもただの化け物だろうが♪)まあ、お前の気持ちは分かった。だが、今のお前が反抗した所で何も出来やしねえ。最悪、狐に戻されて終わりだ。そうだな、まずは俺が妖力のいろはを教えてやる。それで漸く同じ土俵に立てるかもな」

「本当ですか!?」

「(こりゃあ、面白くなってきやがったな♪)ああ。ついでに俺が戦い方を教えてやるよ」

「あ、ありがとうございます!」

「取り敢えず屋敷に移動するか」

「はい!」


 まさか『金剛羅刹』様に教えを乞えるなんて!

 ゆうくん、待っててね。私が強くなって、貴方を護るから!!


「(まさかこの俺様が弟子を取るとはなあ。しかし、婆も含めて壊しがいがありそうな奴らだ。楽しみだぜ♪)まあ、余り肩肘張らず気楽にやろうや!」

「はい!」




 ゆうくん。


 絶対に強くなるから……


 私だけを頼ってね♪









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