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第16話 稽古と木人くん

≪side羽賀龍児≫



「では、早速稽古をつけて行くぞ!」

「…………」

「…………」

「……何じゃ?勇也の居場所は確認出来ておるし、一先ずは心配は無いと先ほど言ったじゃろうが」

「なら、助けに行った方が!」

「右に同じく」

「3人揃って護衛すると宣ってからのこの体たらく、確かに武力は優れておるのかもしれんが、如何せん未熟過ぎる。妾がその甘えを鍛え直してやると言っておるのじゃ」

「だって、九龍さんがまさか……」

「二度目だけどね」

「それが甘えじゃと言うておる。もし、勇也が死んでおったとしてもその言い訳が出てくるのなら、あやつの前から去って今後一切関わらぬ事じゃな。勇也が護衛を望んでいる訳ではあるまいが、良い迷惑じゃろう」

「……分かったわ」

「……ぐぬぬ」

「因みに亜弥は鍛える以前の問題じゃから連れて来ておらん。意志が固まってもおらん者に教えても時間の無駄じゃしな」



 勇也が居なくなった次の日の放課後、俺達は歌穂の家の庭に来ていた。

 勇也と九龍さんは喧嘩でもしたのだろうか?

 モナに直接聞いてみた。


「まだ若いから仕方あるまい。男女間の意見の相違などありふれた話じゃ。……亜弥は論外じゃが、だからと言ってお主ら2人は何をやっておったのじゃ?」


 と言う話から今に至る。


「勿論、妾にとって旦那様の一言一句は神の啓示のようなものじゃから、意見が違う事などあり得んがな♪」

「……じゃあ、モナ。今からキスするけど良い?」

「……旦那様の馬鹿者。からかっておるのは分かっておるが、妾の気持ちが抑えきれんくなるぞ♪」

「……あ~、ごほん!」

「バカップル……」


 2人の声で我にかえる。

 どうやら俺達は度々2人の世界に入る事があるみたいだ。

 俺の妻が可愛い過ぎるからしょうがないがな!



「うむ。先ずはお主らの実力を確かめるか。殺気は飛ばさんから安心するが良い」

「りゅうくんが隣に居るけど……」

「もしかして……」


 モナは俺と腕を組んだ状態で臨むらしい。


「どうした?ハンデに決まっておるじゃろう。旦那様、妾がしっかりと護るゆえ、後でいっぱい褒めて欲しいのじゃ♪」


 そっちがメインっぼいな……

 モナは片手間でも2人くらいなら相手にならないらしい。

 実際に2人の強さを目にしている俺としては不安ではあるが……


「俺は動かない方が良いのか?」

「うん?好きに動いて良いぞ。対象が動かないとなると余計に難易度が下がる」

「……これって舐められてる以前の話よね」

「……ねえ、ちょっと……ごにょごにょ」

「ええ。分かったわ、それで行きましょう!」

「まあ、全部丸聞こえじゃが、敢えて聞こえておらん事にしておこうかの」

「……やるしかないのね」

「ええ。玉砕覚悟よ!」

「では、始めるかの。何時でも良いぞ」


 そう言い終わるタイミングで、俺の目の前でモナが歌穂の拳を受け止めていた。


 えっ?歌穂達との距離は10m以上は離れていた筈……

 速すぎるだろ!


 しかも俺の背後では何やら刃物同士の鍔迫り合いのような音がしてるし……


「ぐっ……!手が!?」

「私の全力の振り下ろしが遠隔操作に負けてるんだけど!?」


 モナが慌てる歌穂の腹に手を添える。


 ドゴン!!


「きゃあああああ!!!」


 歌穂は50mほど吹っ飛んで転がって動かなくなった。

 大丈夫なのか?


「参りました……」


 後ろを振り向くと、月詠さんは座り込んでおり、四方八方を刃物に囲われ動けなくなっていた。


 月詠さんも大概だが、モナはこれだけの量の武器を何処から出したんだ?



「ぐっ!……ごほっ!ごほっ!」


 歌穂が苦しそうに立ち上がる。


「このスーツは衝撃に強い筈なのに何で……」

「内側を直接殴ったからのう。骨には届いておらんと思うが」

「……多分数ヶ所ひびが入ってるわね」

「力加減を誤ったようじゃ。堪忍しておくれ♪」

「……ええ。訓練だし構わないわ」


 わざとじゃないよね?


「あの~。生きた心地がしないんですが……」


 刃物に囲まれたまま、月詠さんが声をあげる。


「決死の覚悟で振り払えば良かろう?」

「さっきからやってたけど、ビクともしないの……」

「まあ幻術じゃからな」


 月詠さんの声色は明らかに戦意を喪失していた。




 気を取り直して稽古を再開する。


「次はこの『木人くんスーパー』が相手じゃ。妾は向こうで旦那様にご褒美を貰っておるから、倒せたら呼びに来い。旦那様、いっぱい撫でて欲しいのじゃ♪」

「頭を撫でれば良いのか?」

「……今日は出来れば耳と尾が良いのう♪」


 ポン!っと言う心地良い音と共に、モナの頭とお尻に耳と尾が生えた。


「えっ?狐耳と九つの尻尾……。もしかして九尾の狐!?」

「言っておらんかったか?」

「有名な大妖怪じゃない!りゅうくん、平気なの?」

「何がだ?」

「何がって……。妖怪なんだから食べられたりとか?」

「確かにそんな時期もあったのう。何百年か前じゃったと思うが」

「別にモナが望むなら食べられても良いけど」

「妾の望みは旦那様と共に在る事じゃ。食べたい位に愛おしいがの♪……はむ♪」

「ちょっ!?いきなり耳はやめて!」

「くふふ♪……はむはむ♪」

「おうふ!?……くっ!俺も後でモナの耳噛むからな」

「!?妾の耳は敏感じゃからダメじゃ!旦那様、許しておくれ!」

「ダメだ。モナにもこの恥ずかしさを味わってもらう!」

「そ、そんな殺生な!(……ドキドキ♪)」


 言葉とは裏腹にモナは少し期待しているみたいだ。

 頬は紅潮しており、体をもじもじさせていた。

 ……是非とも期待には応えてみせよう。


「……え~っと。仲が良いのは十分分かったわ。それで、この木人を倒せば良いのね」

「そうじゃ。さっきの手合わせの後に強さを合わせておるから、全力でやるのじゃぞ」

「……嫌な予感しかしないわね」



 その後、俺達はその場を離れて玄関の横に用意された休憩スペースで寛いだ。

 宣言通り互いに甘噛みしあっていたら、気持ちが昂ってキスしそうになった。

 だが、俺もモナもこの一線を超えないもどかしい感じが堪らなく心地良いので、軽く頬に触れる程度のキスで済ませた。

 ずっと胸がドキドキしっぱなしだ。


 向こうで必死に木人と戦っている2人には申し訳なく思うが、モナが可愛いのでしょうがないのだ。




「ただの木の分際でデタラメに強いわね!」

「な、何で私の攻撃全部受け流されてるの?」

『因みに木人くんはハイパーとエクストラも控えておるから頑張るのじゃぞ!』

「嘘でしょ……」

「し、死ぬ……」


 モナが拡声器で檄を飛ばす。


 それから約30分後、2人は地面に大の字で倒れていた。



「はあ!はあ!……負けた」

「……うっ!動き過ぎて吐き気が……」

「何じゃ、だらしないのう。木人くんも『もっと強い奴と戦いたい』と言っておるぞ」


 さっきからギギギと音が鳴っていたが、木人くんが喋ってたのか。

 しかも、AIでも搭載しているのかと思ったら、歴史上の武人の魂を憑依させているらしい。

 道理で強い訳だ……


「木人くんを倒せるまで続けるからな。折角2人居るのじゃから、次は色々と考えて来るのじゃぞ」

「……はい」

「……因みに女王様なら木人くんスーパー倒すのにどれくらいかかりますか?」

「そうじゃのう。木人くんよ、殺り合ってみるか?」

「ギ!?ギギーギギギ~。ギー、ギギギ!ギー!!!」

「何々?『えっ!?そんなの瞬殺されるに決まってるじゃないですか~。おい小娘、変な事言いやがって!ぶち殺すぞ!!!』だそうじゃ」

「あっ……はい。すいませんでした」


 先程と言っている事が矛盾していた……

 強すぎてもダメとは贅沢な奴だな。



 木人くんの憑依を解除して、帰路に着いた。


「3人とも勇也を慕ってるの筈なのに難しいもんだな……」

「妾達のように互いに惹かれ合う事の方が珍しいからのう」

「それより、勇也は助けに行かなくても大丈夫なのか?」

「うむ。狸共よりは大人しい集団のようじゃから心配なかろう。今は人体実験前の事前観察と言った所かの」

「……それって大人しいのか?」

「まあ最悪『影』が周囲を破壊し尽くして依り代に戻るだけじゃからな。その集団も何を相手にしておるのか完全に理解はしておらぬのじゃろう。好奇心の代償が組織の壊滅とは同情してしまいそうじゃ」

「それはヤバいな……」

「『影』は限りなく不死に近い存在じゃが、基本封じておけば人畜無害じゃ。昔から情報が来れば気にかけるようにはしておるがの」

「勇也だけの話じゃ無いんだな」

「依り代が死ねば、別の依り代に生まれ変わる性質を持っておる。『影』がいつ頃生まれたのかは妾も知らぬが、余程の怨念か呪いの類いじゃろう」

「……そうか」

「のう、旦那様。明日は学校も休みじゃし、デートでもせぬか?ちょっと行きたい所があるのじゃ♪」

「………モナ。………ありがとう」

「旦那様の悩みは同様に妾の悩みじゃ。旦那様の落ち込んだ顔も見たくはないしの♪」

「本当に手間がかかる奴で申し訳ない」

「そう言いながらも顔は笑っておるぞ♪」

「まあ、一応親友だからな」

「くふふ♪一応じゃな♪」


 まあ一応親友だし、無事を祈っておいてやろう。









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