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第15話 彼を好きな理由

≪side牧瀬歌穂≫



 最初は幼馴染み兼サンドバッグであるりゅうくんの友達以外の認識は無かった。

 こちらからは声をかけたりもせず、りゅうくんを交えて話をしていても彼の言葉には相槌を打つくらいだったかな。


 それが今では、いつでも彼の姿を目で追っている。

 彼の言葉を聞き逃さないように聞き耳を立てるようになった。


 本当に私らしく無いと自覚しているが、その私の価値観を覆してくれたのも彼だったのだ。




 それは、雨が降りしきる夕暮れだった……


 今日も私を容姿でしか判断していないような男に告白され、断ってもしつこく言い寄って来たせいでかなりの鬱憤が溜まっていた。

 その鬱憤を晴らすためにりゅうくんにサンドバッグになって貰おうとしたが、奴は先回りして逃げ帰っていた。


 明日どうやってりゅうくんを血祭りにあげようかと考えながら帰宅していると、公園の屋根が付いたベンチに彼が雨宿りをしていた。

 彼は傘を持っていないみたいで、空を見ながら途方に暮れているようだった。


 流石に目の前を素通りするのは失礼かと思って彼に声をかけた。


「東谷くん、雨宿りしてるの?」

「ん?牧瀬さんか……。いや、傘は持ってたんだけど、濡れて凍えてたからあげちゃったんだ」

「誰に?」

「あそこの子」


 彼が指を差した方を見ると一本の木の根本に確かに傘が置いてあった。

 傘の下には段ボールが置いてある。

 捨て猫か何かだろうか……


「俺って昔から動物に嫌われてるみたいでさ。触ろうとすると絶対に逃げられるんだ。だから傘だけでもと思ってね」

「そう……」

「ああ、本当は家で飼ってあげて毎日モフモフしたいんだけど」

「モフモフ?」

「そう!あの滑らかで程よい量の毛を撫でて、頬擦りして、顔を埋めて匂いを嗅ぎたいんだ!……って、ごめん!何か変な事言ってるな、俺」

「別に良いんじゃない?趣味嗜好は人それぞれだし」


 私だってりゅうくんを殴ってストレス発散してるしね。


「そんな事言ってくれたのは牧瀬さんが初めてだ。ありがとう!」

「別に礼なんか要らないわ。それより、これからどうするの?雨が止むのを待つ?」

「そうだな、もうちょっと小降りになってから走って帰るよ」

「そう。私も暇だし待とうかな」

「牧瀬さん?」

「傘があってもこれだけ大降りだとね……」

「まあ、確かに……」


 会話も終わって沈黙が場を支配する。

 特に私から話しかける理由も無いので黙っていると、彼はまた空を見上げて佇んでいた。


「空に何かあるの?」


 どうしても気になって聞いてしまった。


「えっ?別に何も無いよ。ただ、早く止まないかなぁ~って」

「ふふ♪何それ。とても感慨深い表情だったから、もっと凄い理由があるのかと思ったわ」

「……俺は至って普通だから、思考や行動に理由付けなんてしないなあ」

「私も普通だったら何か違ったのかな……」

「何も違わないんじゃない?牧瀬さんは牧瀬さんでしょ」

「私は私か……。ねえ、東谷くん。例えば自分の親が悪どい事に手を染めてると知った時、貴方ならどうするかしら?」

「……俺の意見で良いなら、特に何もしないかな。流石に協力しろとか言われたら抵抗するかもしれないけど」

「……もし親が捕まっても?」

「まあ、世間的には身内ごと責められるとは思うけど、別に俺は人を裁けるような立派な人間じゃないし。さっきの牧瀬さんの言葉じゃないけど、正義の解釈なんて人それぞれだろ」

「正義の解釈なんて人それぞれ………」

「あっ、俺の意見ってだけだからね」


 別にその言葉に感銘を受けた訳では無い。

 彼の言うようにただの個人の意見なのだろう。

 だけど、その時の私は彼の言葉に心が救われた。



 結局、私は特に行動を起こさないまま日常を過ごす。

 だが、彼の事を目で追うようになり、彼の言葉に耳を傾けるようになった。


 ……彼への興味はいつしか好意に変わっていた。



 そんな想いを己の内に秘めたまま、暫く経った。

 私達は高校2年生になり、幸運な事にまた同じクラスになった。


 人から告白されることは多々あれど、自分からなんて怖くて出来る筈もなく、いつも通り遠巻きに彼を眺めていた。

 だってもし断られたら、そこから先が無くなってしまうから……



 そんなある日。


 東谷くんの許嫁を名乗る女がやって来た。


 嘘でしょ!?

 東谷くんは出会ってから今までそんな素振りを見せたことも無かったのに……


 だが、案の定小さい頃の話みたいで、私にもまだチャンスは残っていた。


 ここで身を引いてしまったら後悔しか残らないだろう。

 私は外聞も気にせずアプローチする事にした。



 そこから先は目まぐるしく状況が変わり、このままでは同じ土俵にも立てない事を察した私は、親の力に縋った。


「歌穂が我が儘を言ってくれるとは!!……良し!何でも叶えてやるぞ♪」

「あらあら、まあまあ♪今夜はお赤飯かしら?」


 両親は私に頼られたのが嬉しかったのか、公私混同も無視して最新のテクノロジーを駆使したインナーをプレゼントしてくれた。

 とある遺跡で発見されたオーパーツを元にしているらしく、外部からの衝撃を吸収、自動修復、身体能力の向上など、破格の性能付きだ。

 だが、完成したのは最初の一点のみで、それ以降は明らかに性能的に劣化した物しか出来上がらないらしく、量産計画は頓挫したらしい。


「一つしか無いから仕事では扱えなくてな。強さを求める歌穂には丁度良いだろう♪」

「私からも、いざと言う時のためのお薬をあげるわ♪効果はどれもデタラメなものばかりだから、どうしようも無くなった時にだけ使ってね♪」


 そう言って私にプレゼントを渡す両親は本当に嬉しそうだった。

 私が勝手に悪だと決めつけていたせいで、親子の交流も疎遠になっていたが、両親からしたら私はずっと可愛い娘だったのだ。

 そんな単純な事にも気付かないくらい視野が狭まっていたし、気付かせてくれた東谷くんには感謝の念しか湧いてこない。



 最近の彼には危険が付きまとっているから、彼の為に私はもっと強くなりたい。

 そして、出来ればこれからの人生を彼の隣で一緒に笑って歩めたら最高かな♪








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