第13話 月詠VS牧瀬
「何でそうなるんだよ……」
「流石、旦那様の友。奇想天外じゃな♪」
翌日登校すると、開口一番に呆れられた。
だが、2人が呆れているのにも理由がある。
右手に亜弥、左手に月詠が抱き付いているのだ。
端から見れば両手に華だが、実際は両手に猛獣である。
「昨日ゆうくんに言われたから、攻撃したりはしない。でも護衛中の殉職はあり得るから気を付けてね♪」
「殉職って……。それより、衆目の前で腕を組むって結構恥ずかしいのね……」
「………東谷くん。私も加わって良いかしら?」
「えっ?牧瀬さん?」
牧瀬さんに背中からそっと抱き止められる。
何なんだ!この状況は!?
「貴女そんなに強く無いけど、勇也くんを護れるのかしら?」
「……昨日まではね。親の力を借りちゃったから余り誇れはしないけれど、東谷くんをみすみす失う訳にはいかないから、苦渋の選択だったわ」
「牧瀬さんまで……。一体何の話ですか?」
「りゅうくんは私の家が何やってるか知ってるよね?」
「……ああ、世界中の最先端医療と最新技術を一手に担う大財閥だろ?他にも色んな分野に進出して功績を上げてる。そこのご令嬢が何でこの学校に来てるのかも疑問だし、そもそも何で俺の幼馴染みなんだよ……」
「ほう……。この小娘が旦那様を痛めつけておったと言う……」
「ひっ!!た、助けて……」
「モナ、やめろ!」
「うむ。了解じゃ!」
「えっ?りゅうくん、貴方何者なのよ……」
「妾の旦那様じゃ♪」
「そう言うことでは無いと思うけど……」
そして、またキャッキャッとイチャつきだしたバカップルは放っておく。
「それで?貴女の家が強さと何の関係があるのかしら?」
「まあ、手合わせしてみたらすぐに分かると思うわ」
「……この前の運動場での殺し合いを見てもそう言えるのね」
「ええ。気は進まないけど」
一応補足しておくと、俺に抱き付いた状態での会話なので緊張感は無いに等しい……
「なんじゃ?また決闘か!丁度運動場も直っておるし、昼休みで良いのか?」
「モナはこう言うの好きだよね」
「祭りっぽいのは何でも好きじゃぞ♪」
「良いわ!決闘の申し出受けてあげる♪勇也くん、良いよね?」
「ダメって言ってもやるんだろ?」
「だって、私達護衛の実力が舐められてるんだよ!亜弥さんは反応もしないし。正妻の余裕かな?」
「せ、正妻とか愛人とか無いから!ゆうくんの妻は私だけだよ!」
「……許嫁ってだけでもう妻気取りで居るなんて、確かにムカつくわね。私は九龍さんが相手でも良いわよ?何なら2人係りでも……」
「牧瀬さん!?」
「カッチーン!私は頭に来ちゃったわ。まあ、ご令嬢が泣いて許しを乞う姿を見るのも一興ね♪私が殺ってあげる!」
と言うことで、昼休みはまた決闘の観戦になった……
今回も葉子さんのご協力でお送りしております。
尚、今回は音を拾う術を使って貰っているため、2人の会話も聞こえるらしい。
葉子さんの術って万能過ぎだろ……
運動場で対峙する2人。
「私はいつでも良いわよ」
「ふ~ん。その余裕が何処まで保つか見物だね!」
『では、今から狸と牧瀬によるスペシャルマッチを開始するぞ!狸が勝ったら牧瀬は泣いて許しを乞う。牧瀬が勝ったら勇也の愛人の1人に立候補じゃ。双方、これで良いな?』
「私が勝った時のメリットがショボ過ぎない!?」
「……良いわ」
「そりゃあ、貴女は良いでしょうけど!」
『始めるのじゃ!!』
開始の合図と共に、牧瀬さんの姿がぶれたと思ったら、次の瞬間には月詠が吹き飛ばされていた。
「は?」
ガタッ!!
亜弥も思わず椅子から立ち上がった。
「ほうほう♪何とも不思議な術じゃのう。狸も2発は防いだようじゃが、まともに3発ほど喰らっておる」
「術じゃ無いと思うが……」
「仕組みが分からんからのう。術と言う表現で括っただけじゃ」
「牧瀬さん……何で急にあそこまで……」
「う~む。薬か何かかのう?もしくは着ている物に仕込んでおるのか?」
確かに牧瀬さんは見た目何も変わっていなかったから、その予測しか出来ないだろう。
昨今の技術の進歩なら身体能力を上げる薬や衣類があってもおかしくはない。
親の力とはそう言う事か。
「痛たた………やってくれるじゃない♪それと、貴女を舐めててごめんなさい。これは手は抜けないかな!」
まだ余裕そうな月詠が大きな鎌を取り出した。
鎌をくるくると回し始め、遠心力で加速させていく。
その結果、鎌の残像が一つの輪になった。
「触れたら真っ二つだからちゃんと避けてね♪」
月詠の鎌が牧瀬さんに縦横無尽に襲いかかる。
遠目から見ると速すぎて良く分からないが、牧瀬さんは紙一重で避けているようだ。
「亜弥さんもそうだけど避けるの上手いよね……」
「今は動体視力も普通じゃないから」
「じゃあ、次はこれかな~」
一旦間合いを取った後、月詠が空中に何かを大量に放つ。
それは2人の周囲を浮遊し漂い始めた。
機械のようにも見えるが……
「派手にいくわよ!」
月詠が指を鳴らすと周囲の浮遊物が放電し始めた。
牧瀬さんが動こうとするが、滞留した電気に弾かれる。
「『雷神の一撃』」
牧瀬さんの体が電撃に包まれた……
放電が収まると、黒焦げになった人の姿が……
「牧瀬さん!!」
俺は思わず叫んでしまった。
「ごめんね。死んじゃったかな……」
月詠は黒焦げになったものに近付いていく。
その瞬間、地面から手が湧き出て月詠の足を掴みそのまま月詠を地面に引き摺り込んだ。
「ぐっ………くそ!!」
「よいしょっと!」
牧瀬さんが離れた位置から這い出て来た。
地面の中を移動したのか?
牧瀬さんが見下ろすのは地面から首だけ生えた月詠だ。
「まんまと騙されてくれたわね。まだ続ける?」
「………その余裕ぶった顔が気に入らないわ!……………あれの使用権限はまだ私にあった筈。………良し!!牧瀬さん。今度こそ私の奥の手よ♪防げるものなら防いでみなさい!」
「『星落とし』」
月詠は身動き取れない状態でそれだけを告げた。
…………
………………
……………………
……何も起こらないようだが?
「!!?………狸め。やってくれるのう」
「モナ?一体何が……」
「頭上じゃ。今も物凄い速度で此処に向けて落下しておる。あと1分と言った所かの」
「?」
「あれは何と言ったかのう。………そうじゃ!衛星じゃ!そこから金属の塊を落下させよった。まあ、学校に落ちたら跡形も残らんな」
「モナ、どうにか出来ないか?」
「妾を誰じゃと思うておる。旦那様の妻じゃぞ♪」
「いや、それは説得力無いよな……」
「まあ見ておれ。どれくらいの強度が必要かのう?」
葉子さんは右腕を頭上に上げる。
「ほっ、ほっ、ほっ……っと!中々に難しいのう。ほっ、ほっ………」
葉子さんは腕を動かして何かを操っている様に見える。
ずっと頭上を見上げていると何かが光っているのが見えた。
その光は時折何かに当たって微妙にずれていく……
まさか!!?
落下の軌道をずらしてるのか!?
「最後に強力なやつを置いて………これで良いじゃろう♪」
その後、葉子さんの遠見の術と写映の術で落下の様子が眼前に映しだされた。
落下中の物体は少しずつ軌道を変え、最後に何かにぶつかるとその軌道は地面と平行になり、飛行機が不時着するように横滑りで海に着水して沈んで行った。
海が割れてるんだけど……
「……これは流石に説教じゃな」
「ああ」
「異議なし!」
「今のが奥の手……」
最早、奥の手じゃなくて最終兵器だろ……
『この勝負、狸の反則負けじゃ!己で御せぬ力など使うで無いわ!』
「説教って聞こえたけど……」
「いやあああああ!!!」
月詠の絶叫が木霊した……
「うっ……ぐすっ!」
「妾が居るのを見越しての策ならまだ情状酌量の余地もあろうが、まさか考え無しじゃったとは……」
「ごめんなさい……。2度と使いません………」
「謝罪で済む程度を超えておるぞ。口約束だけでは不安じゃな……呪いでもかけるか」
「ひい!!」
月詠は体をガタガタと震わせしゃがみ込んでいた。
「葉子さん、それくらいで……」
「勇也は事の重大さを理解しておるのか?もし妾が居らんかったり、あの塊を止めれんかった場合、学校に直撃して死人が溢れておったのじゃぞ?全員が全くの赤の他人であれば別に良いのかも知れんが、少なからず学友が居るのじゃろう?」
「………そうですね。すいません、軽率でした」
「まあ、聖人でも無い妾が言った所で、お前に言われたくは無い!などと言われそうじゃがな」
「そんな事無いよ。今のモナの言葉には説得力があるから、自虐なんかしないでくれ」
「旦那様……。そうじゃの、別に罰は科さんから、妾の言葉を先人の忠告として受け取っておけ」
龍児のおかげで葉子さんの赦しが出たので、俺もしゃがんで月詠を慰める。
「月詠……」
「ひっく………。うっく………」
「やった事はもう戻らないからさ、2度とやらないようにすれば良いと思うぞ。誰だって大なり小なりそんな経験あるだろ」
「勇也くん……」
「俺はさ、護ってくれるだけで物凄く助かってるし、感謝もしてる。月詠達の実力がどうとかそんなの関係無いんだ。逆にこんな弱っちい男で申し訳なく思ってくらいだしな」
「……まあ、それはそうね」
「うぐっ!だ、だから何が言いたいかと言うと………俺の為に戦ってくれてありがとう。これからもよろしくな♪」
「……………ありがと♪少し元気出たわ」
月詠が笑顔で腕に抱き付いてくる。
葉子さんからのプレッシャーで、この世の終わりみたいな顔してたから、元気が出たなら良かった。
「それでは、私も東谷くんのボディーガードに加わらせて貰うわね」
「まあ、約束だしね」
「私、許嫁なのに……」
「最終的には東谷くんに選んで貰うとして、それまではアピール期間って事で良いんじゃない?この先、また東谷くんが狙われることもあるんでしょう?」
「まあ、あの大狸が手を引いたとして、『影』を利用しようとする輩は他にも居るじゃろうしな」
「葉子さんは『金剛羅刹』様をご存知なのですか?」
亜弥は先日会ったばかりだから、まさか知り合いだとは思わなかったのだろう。
「……大昔に一時、同じ主人に仕えておっただけじゃ」
「へぇ~そうなんですね。……って葉子さんが仕えてた!?」
「……その話はまた今度じゃ。まあ、お主の周りに腕の立つ者が3人になったのじゃ。余程の者が来ん限りは安心じゃろうて」
「フラグ立てたな……」
「旦那様。フラグとは何じゃ?」
「えっ~と。お約束みたいな感じかな。今モナがその台詞を言っちゃったから、その余程の者が実際に現れるみたいな……」
「おお!そんな不思議な法則があるのか!?妾も初めて聞いたのじゃ!」
「まあ、漫画とかの話だから信憑性は無いけど」
「でも、それを知ってしまうとそんな気がしてくるのう♪」
葉子さんは笑っているが、俺にとっては笑い話では無い……
亜弥と月詠と牧瀬さんでも護れないなんて、もう葉子さんクラスのボス級の相手しか居ないんじゃないだろうか。




