第10話 戦いの最中
≪side九龍亜弥≫
私は目の前の女狸を睨む。
ゆうくんを誘惑してきた奴なんて、名前でなんか呼んでやらない。
昨日の朝の交戦だけで彼女が普通じゃないのは分かった。
油断せずに最初から五柱で挑む。
『2人とも用意は良いか?今一度確認するが、亜弥が勝てば狸は今後亜弥と勇也に近付かない。狸が勝てば勇也の身柄を引き渡す。これで良いな!』
「はい。大丈夫です」
「私の名前は狸じゃ無い!!」
『それでは始めるのじゃ!』
葉子さんの開始の合図と共に彼女が接近してくる。
いつの間にかその両手には大きな青龍刀を持っていた。
鋭い斬撃を体をずらして避ける。
避けた直後に次の斬撃が迫るが、まだ目で追えているし彼女の体勢から次の刀の軌道はある程度予測がつくので、慎重に避けていった。
彼女が攻撃の手を止めた。
「やっぱり当たらないか~」
「あれだけ動いて息一つ切らさないのね」
「それは貴女も同じでしょう?言っておくけど、これ普通に切れるんだよ~」
そう言って青龍刀を地面に突き立てる。
刀身の半分くらいが埋まっていた。
「まあ、当たらなければ斬れないからね」
「……じゃあ、次の手に行きますか!!」
彼女の手から新しく手に持った苦無が放たれる。
1本……2本……4本……8本………16本………
今は五柱の段階だが、普通の投擲なら数が増えようが全然捌ける。
どうやら一度に放てるのは16本が限界のようだ。
このまま避け続けて………
「『千刃瀑布』」
彼女の声で気付いた。
私の周辺に影が出来ている?
徐に顔を上げると頭上を覆い尽くす苦無が!!
……ズドン!!!!
「……まさか傷一つ無いなんて、貴女も大概ね♪」
「……結構ギリギリだったよ」
六柱で何とかなった。
一度に大量の苦無を払ったので手の甲を痛めたようだ。
罅が入ってるかも……
周りには無数の苦無が散らばっていたので、私は彼女から目を離さぬまま立ち位置を移動した。
それを見て彼女も私から距離を取る。
「私も負けておめおめと帰れないからさ。次で終わりにするわ」
「そう。私は負けないけど」
「次のはちょっと強烈だけど、死なないでね♪」
彼女は右手を頭上に掲げて指を鳴らした。
「『龍ノ咬撃』」
ゴゴ………
ゴゴゴゴ………
ゴゴゴゴゴゴゴゴ………………
………地面が揺れてる!?
……っ!!不味い!!!
………ガオオオオオン!!!!
運動場の地面が割れ、大きな金属製の壁が両側から迫ってくる。
壁の内側には念入りに金属製の棘が敷き詰められていた。
私は地面が割れる直前に跳び出していた。
彼女が私から距離を取った意味……
一緒に巻き込まれる筈なのに余裕のある表情からその理由を瞬時に察した。
「くっ!まさか気付いて!」
私は彼女に飛び付いた。
彼女は私の急な動きに対応出来ずなすがままだ。と言うかそもそも彼女はその場を動けないのだが。
そして、爆音と共に壁が閉じられた……
「ふう、何とかなったわね」
「くそっ!放せ!」
私の読み通り、そこには彼女を中心にして人2人分くらいの空間が出来ていた。
真っ暗だから何も見えないけど……
私は彼女の両腕を封じたまま抱き付いているので、彼女は身動きが取れずに腕の中で踠いている。
「……どうせ、貴女には攻撃手段が無いのでしょう?このままじゃ決着なんてつかないわ。それに私にはまだ奥の手が……」
「攻撃手段が無いなんて誰が言ったの?」
「えっ?……うそ………ぐっ!………放しなさいよ!!」
「実は私、里でも随一の力持ちなの♪このまま締め落としてあげるね♪」
「そ、そんなの………聞いて………無い………」
「……だって言ってないから♪」
「ぐっ………が…………あ………」
彼女が暴れ回って頭突きやら、足に仕込んだ暗器やらで結構ボロボロにされているが、ここで放す訳には行かない!
暫くすると、彼女が動かなくなった。
どうやら気絶してくれたようだ。
同時に閉じられた壁が徐々に開いて行く。
何かの駆動音がするから機械仕掛けなのかな?
私が腕の力を緩めると彼女は地面にずり落ちていった。
そして、壁が開き終わり元の景色に戻った。
校舎の方を見るとゆうくんが下まで降りて来ていた。
「亜弥!!!」
「ゆうくん、勝ったよ♪」
私はゆうくんに向けて笑顔でVサインをした。




