7.メガネとK介(2)
「心霊スポットにはよく行くのか?」
慧介さんがラーメンをすすりながら聞いた。よほどお腹が空いていたのだろう、あっという間になくなっていく。
「そうっすね。ダチが心霊スポット巡りが好きなんで。この辺だと、海辺の廃ホテルとか、鬼ヶ崎病院とかに行きました。動画を取りつつ、建物の中をくまなく探索するんですよ」
慧介さんは目を丸くする。
「――よく無事だったな」
「え?」
「俺は、霊的なものが子どものころから視えるんだが、……身を守るすべを持っていないんだ。だから、出張前に近づかないほうが良さそうな場所を調べた。――その二つは、本当に危険な場所だぞ。逆にどうして無事なのか……」
慧介さんはため息をついた。
「知っているだろうが、興味本位で心霊スポットに行くのは本当に危険なことなんだ。何より、そういう場所というのは、過去にひどく苦しんだ人がいて、そうして悪いものが生まれたケースが多い。だから、おもしろ半分で行くのは死者への冒涜じゃないかと俺は思う。――それにしても、行ったあとは本当に何もなかったのか?」
「ありませんでしたねぇ。みんなピンピンしてました。あ、ただ、ネットでも書いたんですけど今回はRって女の子がいなかったんですよ。違いはそれくらいかなあ」
「うーん、強力な霊能者だということなんだろうか……」
「霊視できないんですか? ここに突撃してきたみたいに」
「俺にはそうした能力は別にない。予知夢のようなものを見ることはあるけれど、自分で情報を選べるわけじゃないんだ。今回は、君のおばあさんに呼ばれてきたというのが正しいな」
「えー。じゃあ、どうして天狗森山に行ったってわかったんですか?」
「感覚的なものだから説明しづらいんだが、頭の中に文字が浮かんできたイメージだな。ああいうものは、霊からのメッセージだと考えている」
「イケメンなのにキモい……」
「おい!」
それから俺たちはぽつりぽつりと色々な話をした。もうすぐ就活が始まるので、進路についての話だったり――ちなみに慧介さんは誰もが知っている大企業に勤めていた――、慧介さんの家族の話も聞いた。
奥さんや子どもの写真も見せてもらったが、こんなにも人間離れした美貌の人の妻にはちょっと見えなかった。容姿に関していうなら、中の上という感じ。それを言ったら殴られそうだったから口をつぐんだ。
「それにしても、いろいろな女性を弄ぶのはやめたほうがいいと思うのだが……」
慧介さんは、部屋の中を見回して言った。
一応片づけているのだが、気配のようなものでわかったりするのだろうか。
この人は見た目からは考えられないくらい、地味で残念な性格をしているのだと、俺はすでに知っている。
「弄んでるわけじゃないっすよ。好きな子と付き合えたら一途っす」
俺が言うと、慧介さんはじとっとした視線を寄越した。俺はR……璃珠がいかにかわいいかを話した。
いろいろと話しているうちに、夜が明けた。
「もう外に出ても大丈夫……かな」
「ああ。とりあえずは大丈夫だろうと思う」
俺は、慧介さんに朝食もねだり、そして名刺をもらって別れた。
しかし、慧介さんとはまたすぐに出会うことになる。大学に行ってみると、美紗希が家に帰っていないことがわかったのだ。