10.不幸を呼ぶ少女(1)
大学に入るまで、友だちがいなかった。
はじめは仲良くしてくれても、みんな、私から離れていくのだ。噂を鵜呑みにして。
すべての始まりは、誘拐だった。
父が市議だから家に潤沢な金があると思われたのだろう。学校帰りに車に連れ込まれ、目隠しをされたままどこかへ運ばれた。
荷物のように乱暴に降ろされたのは廃神社だった。
降ろされたはずみで目を覆っていた布がはずれた。電話をしている男には見覚えがない。
年齢は四十歳くらいだろうか。犯罪とは無縁そうな、人好きのする顔の男で、どこにでもいそうなサラリーマンといった格好をしている。誘拐には向かないであろうカチッとした格好は、フェイクなのだろう。
私は気絶しているふりをして、気をつけながら薄目で周りを観察した。
私は濡れた落ち葉の上に転がされているらしかった。背中がしっとり冷たくて、土の青臭い匂いがした。時折、ギョエーという鳥の声や羽音が聴こえるのが不気味だ。
頭上にあるのは赤い鳥居だ。ところどころ塗料が剥げており、苔も生えている。鳥居よりも大きな紅葉した木が何本も枝を伸ばしているので、空は狭く感じられた。
男の隙をうかがって、首を横に向ける。
鳥居の向こうには、朽ちた建物がある。かろうじて賽銭箱らしきものが残っているようだ。
建物の周りには水の張った場所がある。その池のようなもの紅葉した木々を反射しており、そこだけが唯一美しい。
元から池だったのか、それとも雨水が溜まっているだけなのか。ここに寝そべったままでは、とても深さまではわからない。
だが、池というには少し不思議な場所だった。水中から何本もの鳥居が生えているのだ。しかも、そのうちのいくつかは横向きに倒れている。
ここがどこなのか検討もつかなかった。体感でしかないが、車で三十分は走ったと思うので、恐らく県内の山の中なのだろう。
いったいどうやって逃げ出したものか。
私はすっかり途方に暮れていて、泣き出さないようにするので精一杯だった。
そのとき、舌打ちの音が響いた。男は、ずんずんと近寄ってくると、私の衿を掴んだ。そして、そのまま、私の身体を吊り上げて、乱暴に放った。
地面に叩きつけられると思い、反射的に目をつむったのだが、水音がした。
私の身体は、ずぶずぶと沈んでいく。もがいてはみたけれど、動けば動くほど身体は重くなり、絡め取られるようにして底へ沈んでいくのがわかった。
足がつかない。視界の端で、男がにやりと笑っているのが見えた。




