9.王子の求婚
気がつくと見知らぬ部屋にいた。
うつぶせに倒れた私の手には、天井のステンドグラスから、色とりどりの光がさらさらと落ちてきていた。天井には星型の装飾があり、そこがくり抜かれ、色付きの硝子をはめられているらしかった。
周りを見渡すと、黒と金色の衣装を着た見知らぬ人々に囲まれていた。年齢はさまざまだが、揃って褐色の肌をしており、皆、一様に泣いている。
「聖女さまだ!」
「なんてお美しい」
「瞳までもが真っ黒だ……」
私は気圧されて、ずるずると後ずさりした。見知らぬ男性たちがにじり寄ってきて、恐怖で泣きそうになる。
どうしてこうなったのかを慌てて思い巡らせていた。
そして、ふと思い出す。それは夜道を歩いていたときのことだ。まるで宇宙のような、真っ暗でいくつもの星が輝く空間を滑り落ちていく感覚があった。
途中で、だれかが腹に手を回し、支えてくれている感覚があった。また、耳元で優しく大丈夫だと囁かれたのをぼんやりと思い出す。
そのまま空から落ちてきた。そんな感覚があったが、床に叩きつけられる瞬間、ふわりと身体が浮いて、誰かの見えない手に支えられたような気がした。
豪華な扉が大きな音を立てて開いた。そこから出てきたのは、とても美しい男の人だった。
同じく褐色の肌をしているのだが、その髪の毛は見慣れた黒い色で、瞳は深い緑色。ーーどうしてだか既視感がある。
その人は、興奮していた周囲の人々をなだめると、大仰に私の前に跪いた。
「驚かせてすまない。私は、この国、サーブルザントの第二王子。名をアイユーブと言う。この国を救ってくれる聖女を探していた。あなたこそが、まさに聖女だ」
「王子……? 聖女……?」
私は新手の勧誘を受けているのだろうか。こんなに壮大な舞台装置まで用意して?
よけいに怖くなってきて身を硬くしていると、その人は私の手を取り、くちびるを落とした。
「これからあなたには、私と一緒に魔王の討伐に向かってもらう。そして、この国を救ったあとは、共に王妃として歩んでほしい」
そう言うと、王子はまっすぐに私を見つめた。周囲の男性たちが、おお、と歓喜の声を上げる。
おかしな世界にいることが恐ろしくて、泣きそうになっていると、天井から吊るされていた星や天体の模型が、矢のように降ってきた。
だがしかし、それは誰にも刺さることはなかった。王子が手を空中に向けており、その手から、半円状の障壁のようなものが出ているのだった。
上のほうから舌打ちが聞こえた。




