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マイホームダンジョン  作者: ニケ
第3章 学院編
48/222

女帝キリエッタ


「従魔は何処にいるのかしら?」

「呼びますね! ライム、マーモ!」


 セシルがそう声を掛けると、マーモとその背中に乗ったライムが奥から歩いてきた。

 マーモの体が若干濡れている。

 どうやら家の中の運動場で砂まみれになっていたのをイルネが大慌てで洗い流して、ギリギリまで風の魔法で乾かしていたようだ。ちなみにライムの体はツルツルの為、一拭きで乾かすことも出来るし、体表面の水分を吸収して乾かす事も出来る便利な体だ。


「あら可愛いわね。触っても良いのかしら?」

「濡れたままで問題なければ触っても大丈夫です。マーモットのマーモとスライムのライムです」

「もうちょっとネーミングセンスどうにかならなかったのかしら?」

「どういう意味でしょうか?」

「……いえ、何でもございませんわ」


 マリーはセシルの圧に負けた。


「かっ噛まないだろうね?」


 クリスタは温室育ちなので、実はビビりだ。


「こちらが酷い事しない限り噛まないので大丈夫です」

「キリエッタ、ちょっと触ってみてくれ」


 連れてきた侍女に先に触らせるクズ……もとい慎重派の第二王子。


「はい。畏まりました。しかし、怖いからと言ってか弱いレディに先に触らせるのはどうかと思いますけれども」


 マリーの従者カイネと同様にキリエッタも中々に厳しい事を言う。


「怖くなんぞないわ! そもそも何処にか弱いレディが居るのだ?」


 キリエッタは40後半で恰幅がよく、黒髪をギュっとお団子にして縛っており、肝っ玉母ちゃんみたいな雰囲気を醸し出している。

 背筋はピンとして、か弱さは何処にもない。


「クリスタ様……本日はご学友の前という事で随分とお調子に乗り遊ばされている模様。夜のお勉強会が楽しみで御座います」


 クリスタは脇汗だけでは済まず、顔にダラダラと冷や汗を流す。

 キリエッタは侍女と言うよりも教育係という面が強く、王様にもクリスタに対してどれだけ厳しくしても良いという免罪符を貰っている。

 おそらく相当厳しい罰が待っているのであろうが、周りの誰も聞くことが出来ない。


 そして、全員が気付いた。

 ここにいる面子のトップはクリスタではない。キリエッタだと。


 キリエッタがマーモを優しく撫でる。


「ほら、安全ですわよ。クリスタ様」

「ふむ。ご苦労。――思ったよりバサバサしておるな」


 クリスタはマーモよりキリエッタの方にビクビクしながら触っている。


「毛を乾かして櫛を通せばサラサラになりますよ」

「そうか。ではまた後ほど触らせていただこう」

「では私も後で触らせていただきますわ」

「そろそろお食事の準備が整いますので、お手を洗われてお座りになってくださいませ」


 マリーとクリスタは素直に手を洗い席に座る。

 クリスタは当然のように上座に座る。

 キリエッタとカイネは主と同じ席に座る訳にはいかないと、後で立っている。

 食事は教室に迎えに来る前に済ませている。


 イルネはセシルと一緒に食べる予定だったが、侍女がクリスタとマリーに同席する訳にはいかないのでお客様が帰るまで我慢だ。


 配膳を終えると、提供した側の主であるセシルが毒見として一口だけ口にする。

 これは無礼には当たらず、毒ではないと証明するための義務だ。


「アポレ神の慈しみに感謝を「感謝を」」


 セシルの毒見を確認すると上位であるクリスタが挨拶の音頭を取り、先に食べ始める。

 それを確認するとマリーも食べる事が出来る。


「ふむ。美味しいな」

「ええ。このスープ、短時間で作った割にしっかり味が出ていますわ。どうやったのかしら?」

「マリー様、元々セシル様とイルネ様が食べる為に時間をかけて煮込んだ物をお出ししているからですわ。セシル様は毒見の時だけお二人にお出しした長時間煮込んだ物を食べ、後は先程短時間で作ったものを召し上がっておられます。どういう意味かお分かりになられましたか?」


 またしてもカイネの言葉のパンチは、マリーだけでなくクリスタも一緒に殴っている。


「突然の訪問はもうしないので、それくらいにして頂けないか?」


 クリスタはもう限界だったようだ。

 カイネは失礼いたしました。とペコリと頭を下げる。

 なんとも気まずい空気になったが、空気を変えようとクリスタが話を振る。


「セシルともっと仲良くなりたいと思っている。普段からもっと気軽に話しかけて欲しい」

「いやそれは、平民の僕から話しかけるのは……」


 セシルであっても、それがマズい事だと理解している。


「問題ない。父上にも了承を取っている」


 クリスタは王から『同程度の立場として接して仲良くなれ』と『あまり頭に乗らせてはならない』という、ある意味でダブルスタンダードな命令を受けており、セシルとの距離感を測りかねている。本当はセシルに呼び捨てにしてもらい気軽な関係にした方が楽なのだが、それだと虎の威を借る狐よろしくセシルが増長してしまう可能性がある。

 8歳にして中間管理職の苦悩をヒシヒシと感じている。


「でも、周りの貴族の方がよく思わないので」


 出来るなら関わらないでくれと思うセシルである。

 そう言う意味ではマリーも上級貴族な上、顔が整って可愛い為、周りからのやっかみがあるので友達になるのは難しいと感じていたが、グイグイ話しかけてくるので、もういっか。という気持ちになっていた。

 何よりあまり友達が居なかったセシルにとって、話かけてくれる同学年の子の存在は嬉しい。しかし、第二王子は別格だ。


 クリスタとはまだ距離感があるので、今の内に近付かないようにしたい。

 第二王子と話す時に感じる周りからの視線は、マリーと話す時の数倍突き刺すような感じを受ける。

 子供達にはまだ年齢的にマリーの色気より第二王子という立場が優先されていないというのが大きい。

 あと数年もすれば、マリーの可愛さから来る嫉妬がセシルに突き刺さるだろうが、まだそこまでは想像出来ていない。


「ぬぬ。あやつらには困ったものだ。私から言っておく」


(……そんな事言ったら、僕に対する当たりがもっとキツくなりそうな気がするんだけど)

 これ以上、第二王子を否定する訳にはいかず、グッと言葉を我慢する。



 食事が終わり、食後の紅茶を飲みながら8歳らしからぬ余所余所しい会話が続いている時、マリーが席を立った。


「失礼。お花を摘み(トイレ)に行ってまいりますわ」


 お花を摘みに行ってくるというマリーの後ろ姿をボーっと見ていたセシルだが、その時、雷が落ちたような衝撃的な天啓が降りた。


 サッとライムに目配せする。


 『時は来た』と。


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