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マイホームダンジョン  作者: ニケ
第3章 学院編
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セシルの実力


 入学試験で実技を行った場所に移動するとライオットが話し始める。


「まずは現在の実力を見てみたい。試験の時と同じようにやってみてくれるかな?」


 セシルは言われた通り2センチほどの水玉を的に当てその後、風車をゆっくり回転させる。


「話には聞いていたが、直に引力と斥力を使う所を見ると驚かされるね……次は手元に火を出してみてよ。出来る限り全力で」


 セシルは、んっと力を入れて火を出す。

 すると蝋燭の火程度の火が着く。


「これが全力なの?」

「はい」

「その火を飛ばしてみて」

「どこまで飛ばせば良いですか?」

「そうだね、出来るならあの壁まで」


 遠くに見える土壁を指差す。


「分かりました」


 そう答えるとセシルは手に灯している火を壁まで飛ばし、当てた。


 魔法は魔力を継続して出し続けると、強風などの外的要因が無い限り飛ばし続ける事が出来る。

 しかし通常は遠くに飛ばすほど魔力が続かない。遠くに行くほど魔力を喰うからだ。

 普通の魔術師は魔法をある程度飛ばした所で、自身から出している魔力の接続を切り、残骸の魔力と、魔法が飛んでいる勢いで目的の場所に届かせる方法を取る。

 魔力の接続が切れると燃料が消えるのと同義であり、接続が切れた後の残骸の魔力が無くなると驚くほど簡単に火は消えてしまう。

 その為、残骸の魔力の持ち時間と、火の勢い、さらには外的要因を計算して魔力の接続を切る。この作業は非常にセンスが問われる。


 しかしセシルはセンス云々の次元にはいなかった。

 土壁まで火が届いた。と言う事は、魔力の接続を繋げ続けた事になる。 

 セシルが出したような蝋燭の火程度の火力では接続を切るとほぼ同時に消えてしまうが、セシルは魔力を出し続けられる為、接続を切る必要が無かった。

 

「なるほど。魔力量は確かに問題なさそうだね。小さい火とは言え、魔力量がそれなりに無いと届かせるのは難しいだろう。と言う事は、出力量のみの問題かな? 他に出来る事はあるかな?」

「土を掘ったり、視力を上げたり出来ます」

「ん? もう視力強化が出来るの? 魔法はほとんど習っていないと聞いていたけど……」

「はい。魔法を習ったのは2日と、盗賊を見る為に教えて貰っただけです。あっ魔法の測定した時も教えて貰ったから3日? 全部合わせて4日? です」

「えー? そんな事あるの……」


 魔力量さえあれば魔力の出力を上げるという事は誰でも簡単に出来る。そんな簡単な事は出来ないのに、覚えるのに長時間かかるはずの魔法がすぐ出来たと言う。

 ライオットの知る常識が通用しない。


「視力強化やってみてもらっていい?」


 セシルは両目に魔力を集めて、水でレンズを作る。


「――出来ました」

「えー? 両目出来てるじゃん。そんな事あるの……普通出来るようになるにはかなり時間かかるよ? 私もそこまで出来るのに3年はかかったよ」


 ライオットでもかなり早い方である。身に付ける事が出来ない人の方が多いくらいだ。


「えー? しかも余裕の表情で続けてるじゃん。疲れないの?」


すでにライオットに師匠っぽい喋り方は欠片も残っていない。


「全然疲れないです。でも、続けてると酔っちゃうのでもう辞めて良いですか?」

「ああ、もちろん辞めていいよ。これは困ったなぁ。どう教えたら良いんだろう? とりあえず手元で風を出し続けてくれるかな? 限界が来るまで」


セシルが風を出したままボーッと立っている間に、ライオットはボソボソと独り言を喋りながら考え事をする。



「どうしたら良いか……まだ判断できないな。セシル、君はどれくらいで魔力切れを起こす?」

「魔力切れした事無いです」


(……出力が小さいから出すのより回復が早いのか? いやいや小さいと言ってもそんな事あるのか? それなら出力が小さい一般人も使い続ける事が出来る事になってしまう。……流石は大賢者の再来と言われているだけはあるね)


「とりあえず、魔力を自由に扱えるようにしていこうと思う」

「はいっ! ありがとうございます!」

「まずは肉体強化をしようか。肉体強化には精密な魔力コントロールが必要になってくる。体内の魔力コントロールが上手く出来るようになると出力量も増やせる可能性もある……と思う。さらに、魔力は身体の外に出すと基本的に真っすぐにしか飛ばせないけど、魔力コントロールを極めると身体の外に出した魔力も自由自在に動かせるようになるらしいよ。大賢者伝説の1つだから普通は出来ないけどね。ハハッ」


 魔法の研究者は独立独歩で開発をする人が多く、普段ライオットの話を聞いてくれる人が居ないので、つい気持ちよくなって話している。


「分かりました。どうしたら良いのですか?」

「まず根本的な事だけど肉体強化とは、魔力を身体中の筋肉に巡らせ無理やり筋肉を動かす事だよ。もちろん無理をすれば筋肉が千切れ使い物にならなくなる。さらに全身を魔力を張り巡らせると魔力が直ぐに尽きてしまう。諸刃の剣だね」

「……良く分からないですけど、危ない技って事ですか?」

「ぬぬ。簡単に説明したつもりだったけれども……まあそう。危ない技だよ。だからまずは身体中を細い魔力で隅々まで動かし満たす練習をする」

「どうするのですか?」

「自分の好きな体勢になって。――楽な体勢で、座っても良いし寝転んでも良いよ……あぁ外でやる事じゃないね。教室に行こうか」

「はい分かりました」


 2人は演習をやっている他の生徒達を横目に教室に戻って行った。





「じゃ改めて始めるよ。」

 床に胡坐をかいて座ったセシルに説明を始める。


「出来るかどうかは別にしてやる事は簡単だ。体内にある魔力を出来る限り細くしてゆっくり身体中に巡らしていく。筋肉の形、内臓の形、骨の形全てが分かる用に髪の毛より細く細く。魔力の流れに全神経を集中させて、全身の身体の形が分かるまでやる。空いている時間があればひたすら繰り返しなさい」


 目を閉じて言われた通りにやっていく。


「分かりました。これ……すごく疲れますね。魔法で疲れるの初めてです」

「そうだろう。繰り返し練習をすると慣れてくるが、それまでは神経を使うからね。まだ絶対に魔力で筋肉を動かそうと思っちゃダメだよ。手や足が使い物にならなくなる可能性があるからね。ただひたすらに魔力を身体に巡らせるように」

「はい」


 集中してやっているとジットリと汗をかいてくる。

 疲れて肩で息をし始めた頃、ガヤガヤと人が教室に入ってくるのが分かった。


「今日はここまでだな」


 目を開けるとライオットも胡坐をかいて座って汗をかいている。

 セシルに合わせて魔力を巡らせていたようだ。


「では私は帰る。また明日」

「はい! ありがとうございました」


 ライオットは颯爽と去って行きつつも、こっそり足を震わせていた。

(うっわキッツ~。足ガクガクだわ。魔術師のコートが長いお陰で足が震えているのが誤魔化せて良かった~。柄にもなく意地になってセシルに張り合ってしまった。これ以上続けると立てなくなる所だったわ。しかし、今後セシルに合わせて私もトレーニングしようか。一段階成長できるかもしれないな。それにしても出力増やすのどうしたら良いのよ? 万が一上手く行かなかったら、怒られるだけじゃすまないよな。あぁ胃が痛い……)


「おい! チビ! 早くどけよ」

「はっはい。すみません」

 魔法の授業が終わり席に戻ろうとしていたセシルに貴族が悪態をつく。

 セシル以外の子供たちは授業で魔力がほとんど枯渇しており疲れている為、普段よりイライラしているようだ。


 それを見ていたマリーが小さい声で話しかけてくる。


「子爵家のゴライアス=サッタね。いつもセシルを馬鹿にした様な事を言っているのはアイツよ。気にする必要はないわ」


マリーも魔力切れでしんどそうな顔をしている。


「ありがとうございます。……ゴライアス=サッタ様って言うのか。覚えておかないと」


突っかかってくる貴族程ちゃんと覚えておかないと大変な目に合いかねないので、必死に覚える。


「セシルは今日何をしたのかしら?」

「魔力のコントロールです」

「あら? 随分と基礎的な事やっているのね?」


 確かに基礎的な事だが、マリーがイメージしている魔力循環とはレベルが違う。


「魔力のコントロールって基礎的な事なのですか? でも、僕は魔法習ったことがほとんどないので」

「なるほど。ほとんど習った事なかったのですね。魔力のコントロールは最初の方に習う事ですわ」

「マリー様はどんな事をされたのですか?」

「私たちはそれぞれ得意な魔法で限界まで魔法の発動をしましたわ」

「それに何の意味があるのですか?」

「本当に何も知らないのね? 使い切ることを繰り返していくと少しずつですけど魔力の総量が増えるのですわ」

「へーそうなのですね。知らなかったです。教えていただきありがとうございます」

「よろしくってよ。そんなに畏まらなくても、気楽に何でも聞くといいわ」

「はい。ありがとうございます」


 そこで先生がやってきて本日の授業の終わりを告げた。

 他の学年はまだ午後まで授業があるが、新入生の初日は午前で終わりだ。

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