王都への伝令
セシル達が到着する10日ほど前に、辺境伯領に派遣されていた使者が王都に帰ってきた。
かなり飛ばして帰ってきたようだ。
使者からの報告は下の位から階級順に然るべき位の人まで届くことになっている。
とは言え、今回は近衛騎士が使者の任を受けており、大賢者関連に関しては国の重要案件でもあるので、セシルについての報告は念の為、国の実質ナンバー2である宰相が直接対応していた。
使者は王城内の一室である宰相の部屋で報告をしていた。
「ご苦労であった。大賢者の卵は王との謁見には間に合いそうか?」
「ハッ。先方もちょうど出発間近だったようで、モルザックのトラール男爵、サルーンのロック子爵に挨拶周りをしてから来たとしても十分余裕のある日程かと」
「うむ。ではパレードの予定もそのまま実行可能だな」
「あっいえ、それがその……」
「なんだ? 言うてみよ」
「トラウス辺境領でセシルにサプライズでパレードを催したようで」
「ふむ。まあそれくらいやるだろう。それがどうした?」
「セシルは辺境領の中でも、さらに辺境の100人程度しか住んでいない田舎村で育ったもので、いきなり道を埋め尽くすような人の群れに好奇の目を向けられて、緊張とプレッシャーから吐いてしまい、さらに過呼吸に……そして気を失ったと」
「それは……まずいな……?」
「ええ、非常にまずいかと。王様の肝いりでパレードが行われると伺っておりますが、このままでは失敗に終わります。今はパレードの2週間前ですが、中止にした方が良いのではないかと?」
「しかしまずいぞ。もう触れを出してしまっている……クソッ。すぐ王様に確認して参る。そなたはここで待つが良い」
宰相は慌てて王に会いに行く。
宰相という立場は政治に置いて、王に継ぐ権限を持っている為、謁見などの最中でない限りはすぐ会う事が出来る。
タイミングよく、王は控室で休憩をしていた。
控室と言っても十分な広さがあり、侍女や執事がゆったりと座れるソファーに腰かけた王様に甘味などを出して甲斐甲斐しくお世話をしていた。
「王様、宰相がお会いに来られていますがいかがいたしましょう?」
「通しなさい」
「畏まりました」
「失礼します。王様、急ぎ伝えたき事が」
許可を貰った宰相が急ぎ足で王様に近付いていく。
「そなたが慌てるのも珍しいな。――何があった?」
先ほどの話を王様に話す。
「セシルがまだこちらに来る予定が分かってなかったというのに先に触れを出したのか?」
「いえ、それはその……予定は道を変える事でどうとでもなるかと思い……」
宰相はダラダラと汗を流す。
「さっさと触れを回収しろ。すぐにだ!! 兵士を使って構わん。いそげっ!!」
「ははぁっ」
そこから非番の兵士まで使い大慌てで触れを回収した後、横領の罪を犯して裁判を待つ身だった貴族に『王を騙り勝手にお触れを出した罪』が追加でなすりつけられ、パレードの予定だった日は公開処刑と成り代わった。
罪人の貴族は『いや、そんなお触れを勝手に出しても儂に何の得もないだろ!』
と言ったそうだ。
これに関しては誰もが『この罪は無理があるよな』と同情したが黙認された。
第二王子の学院入学を祝うパレードの案も出たが、第一王子がパレードをしていない為、継承問題を勃発させかねない。と、却下となった。
パレードを中止にするだけでなく、代わりに処刑のイベントを開催するのは、最初のお触れで仕入れなどの準備を始めていた商人に気を使っての判断だ。
商人は顔が広い為、不満を持たれると一気に伝播する可能性がある。
王に対する不満は許されない。
☆
王都内の全てのお触れが入れ替えられたその日の夜、王の執務室にクリスタ第二王子と宰相が集められた。
「良いか? セシルに国への不平・不満を抱かせるな。絶対に他所の国に取られてはならぬからな。現時点で爵位を与えてはおらぬが、平民としてではなく貴族として扱え。どうせ学院卒業後は貴族位を与えるのだ。文句を言う輩もおるまい」
「ハッ」
「父上、貴族の位はどの程度と考えて接したら良いのでしょうか?」
「クリスタと同等と思って接して良い」
「さっ流石にそれは貴族たちの反発も大きいかと……」
「ではどの程度が良いと言うのか? 男爵か? 大賢者と同等と考えれば宮廷魔術師のトップとなるのも時間の問題であろう?」
「それは……たしかに」
「現在の宮廷魔術師のトップは公爵家だ。公爵家の人物の上に立つのは王家しかあるまい? 王と同等と言っても過言である」
「おっ王様! 王様と同等など!……あっ過言ですね」
(チッ! 真剣な話している時にふざけおって。ニタニタした顔が憎たらしい)
「王である儂と同等と言うならまだしも、第二王子と同列とするのは悪い案では無いと考えるがどうだ?」
「しかし、まだ大賢者の再来と決めつけるのは時期尚早かと……」
「ふむ。確かにそうだな。直接引力と斥力の魔法を両方使えるのを見てから判断しても良いか」
「父上、私と同等とした場合は私に対して敬語も不要で、周りの貴族にも私に接するようにセシルにも接するべきだと伝えた方がよろしいのでしょうか?」
「いや、それではセシルが頭に乗ってしまう可能性があるな。平民として接した上で仲良くなることは可能か?」
「……やってみます」
「よし、謁見にはクリスタも同席せよ」
「はい父上」