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マイホームダンジョン  作者: ニケ
第1章 大賢者の再来編
25/222

領主挨拶


「なるほどな。そのような事が」

「あなたが余計なサプライズを……」

「なっ!? そなたも賛成していたではないか!」

「いえ、セシルと長い事一緒に居たのは我々です。我々がセシルの事を分かってやれなかったのが問題でした」


 コルトがそう言い、その隣ではダラスがズーンと沈んでいる。


「こう……何と言ったら良いか、不謹慎ではあるがダラスがそんなに沈んでいるのを見るとつい笑ってしまいそうになるな」

「あなたっ!」

「仕方ないだろう? だってあのダラスだぞ」

「揶揄うのはお辞めください。ダラスの騎士人生最後の仕事がこれだったのですよ?」

「ばっ! その言い方は卑怯だぞ! 余計笑ってしまうでは無いか!」

「笑わせるつもりはありませんっ!」

「あの、その辺で……」


「「あ……」」


 さらに沈んでいるダラスを見て2人が反省する。


「すまんな。つい」

「いえ、セシルをここまで連れて来るまでが最後の仕事と思っておりましたが、王都に送り届けるまで儂にやらせて貰えないでしょうか?」

「しおらしいダラスだと調子が狂うな」

「あなたっ」

「ゴホンッ。よろしい。セシルを無事王都まで届けるのを最後の仕事と認めよう」

「ハッ! ありがとうございます」


「これからの事を相談してもよろしいでしょうか?」

「ああそうだな」

「セシルは親元も離れたばかりですし、今回の件もあって心がかなり不安定になっていると思われます。ですので、騎士のイルネをとりあえず専属で付けていただけないでしょうか?」

「イルネ……と言うと、先ほど居た女騎士か?」

「ハッ。村でもずっとセシルの指導をしておりセシルも心を許しているように思われます」

「なるほど。それが良いだろうな。サルー、その様に連絡を。それとセシルが目覚めたら、吐いたからと言って罰などないから安心するように伝えておいてくれ」


 執事長のサルーに声をかける。

 侍女長のサルーと執事長のサルエル。親戚ではあるが名前が似ているのは偶然である。


「承知いたしました」


 サルーが丁寧に頭を下げて下がっていく。


「まさかこの様な事になろうとはな。学院生活が不安になるな」

「リビエールに気にかけてもらうようにしましょう」

「そうだな。手紙を書いておこう。年齢も1つしか違わないから仲良くしてくれるだろう」

「それと、今日の夕食はルーレイとマルエットには外してもらいましょう。気を使う相手は少しでも少ない方が良いでしょう」

「うむ。急な予定変更になるが仕方ないな。連絡しておこう」




 セシルが目覚めると知らない天井だった

(ここどこ?)


「あっ起きた? 体調は大丈夫?」


「イル姉……体調? あれ? 何これ? 見たことない服着ている……あっ!」


 色々思い出して青褪める。


「ごっごめ『大丈夫よ』んな……さい」


 セシルが謝ろうとしたところで慌ててイルネが抱きしめて頭を撫でる。


「大丈夫よ。何も問題ないわ。落ち着いて。あれは私達のミスよ。あんな思いさせてごめんなさいね」


 抱きしめたままイルネが優しく声を掛けていく。


「でっでも僕、吐いちゃった」

「それも大丈夫よ。もう綺麗になったから何も心配しなくていいのよ」

「お父さんとお母さんも大丈夫?」

一瞬、どういう事? と思ったイルネだったが、すぐ思い至って返事をする。


「大丈夫よ。ロディとカーナも何もされないわ。セシルのせいで誰かが傷つく事は無いわ。大丈夫」


 イルネは殊更優しく話しかけると、安心したのかまた寝てしまった。


 セシルが1刻程で目覚めるとまだイルネが側にいた。


「大丈夫?」

「うん。お腹減った」

「ちょうど夕飯の時間よ。領主様と奥方様と一緒にご飯を食べる事になっているけど、もし体調が優れないようだったら、挨拶は明日にしても大丈夫だと仰ってくださっているわ。どうする?」

「大丈夫かな? 怒られないかな?」

「ふふ。大丈夫よ。もう一度言うけど、セシルは何も悪くないわ。それに領主様はとても心の広いお方だと聞いているから、そんなに緊張する必要はないと思うわよ」

「うん。今日領主様と会う」

「ほんとに大丈夫?」

「うん。謝らないと」

「そっか。じゃあ準備しないとね。あっえっとサルエルさんでしたっけ? 今日夜ご飯をご一緒すると領主様にお伝えしてもらえますか?」

「畏まりました。食事の際はイルネ様もご一緒するようにとの事です。それと私に敬語は不要です」


 サルエルは貴族出身ではあるが、次女でどこにも嫁がなかった為、特に爵位が無く侍女として働いている。実家に残れば貴族としての立場で偉そうに過ごす事も出来たが、それを良しとせず家を出て働いている。


「そう言うわけには……え!? 私もご一緒するのですか? この格好で大丈夫でしょうか?」

「はい。問題ありません。ダラス様とコルト様も参加されますので安心してくださいませ」

「でしたら大丈夫ですね。よろしくお願いいたします」

「では四半刻後に呼びに参ります」


 セシルとイルネは待機していた侍女に髪などを整えて貰う。

 イルネも領主様と直接言葉を交わしたことが無い為、二人してソワソワして待っているとサルエルが呼びに来た。


「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」


 2人で付いて行くが歩き方がどこかぎこちない。


「イル姉、歩き方変だよ」


 セシルが小さく笑うとイルネも反論する


「セシルも手と足が一緒に出てるよ」


 2人で顔を見合わせて声を抑えながら笑う。

 心なしか前を歩くサルエルの肩が震えている。笑うのを我慢しているのかもしれない。


「失礼します」


 開けられた扉の中に入ると縦長の大きな部屋でシャンデリアが明るく、サイドには侍女が複数人控えており、真ん中にドンッと置かれているテーブルは10名ほどが使える程大きく、その上には豪勢な食事が並んでいた。


 席には領主夫妻、ダラス、コルトがすでに着いていたが領主であるリンドルが立ち上がった為、全員が立ち上がる。


「私がトラウス辺境領が領主リンドル=カンタール=トラウスである。こちらが私の妻の」

「シャル=カンタール=トラウスですわ。よろしくね」


 リンドルは20代後半、中肉中背の茶髪で顔が整っており、温和で有能。領民に慕われている。先代はすでに隠居しており表舞台には上がってこない。


 シャルは20代半ば背中まで伸びた長い髪は綺麗な金髪でサイドが三つ編みで編み込まれており、その毛束を後ろ中央で1つに結ばれた髪型だ。

 背が高くスラリとしている。


「ご挨拶させていただきます。騎士 イルネ=ローレンスと申します」


 イルネが胸に拳を当てた体勢で挨拶する。


「トルカ村のセシルと申します」


 イルネの真似をして拳を胸に当てようとするが、イルネの違う違うと言う目で合図してきた為、これは騎士の挨拶だと思い出し、慌てて右手の平をお腹に当て左手を腰に回し頭を下げる。


 それを見ていた全員が微笑ましい顔になる。


「うむ。よく出来たな。セシル、これからよろしく頼む」

「はっはい! あっあの領主様っ」

「ん?」

「あのっあのっ馬車やお洋服を汚してしまい申し訳ございませんでした」


 そのまま深く頭を下げ続ける。イルネもセシルに対して保護者の気持ちがあるので隣で頭を下げる。


「あぁ全く気にする必要はない。こちらこそ驚かそうと思ってあのような事をしてしまって申し訳なかった。さあ! せっかくの料理が冷めてしまう。食べよう。冷めてしまったら私が料理長に怒られてしまうからな」


「怒らせると怖いのだ」と小さい声で言って、わっはっはっと笑いだし周りも一緒になって笑う。

本来、領主が平民に対して謝罪をするなどあり得ないし、平民である料理長に怒られるなどとのエピソードが出るはずもないのだが、リンドルは違う。

自分が間違っていると思えば謝る事に躊躇しないし、平民を見下しもしない。

執事長でありリンドルの幼少期の教育係でもあったサルーは『あぁ~また謝ってしまった』とため息を吐きながらも諫める事はしない。


 これがリンドルの魅力だと誰もが知っているのだ。


 初めて領主とまともに相対するイルネとセシルはあっけに取られながらも、サルーに案内され領主から一番遠い席の横に立ち、領主達が座った後に席に着く。


「では長ったらしい挨拶は置いておいて、早速頂くとしよう。アポレ神の慈しみに感謝を『感謝を』」


 挨拶前はガチガチに緊張していたセシルも、美味しい匂いに釣られて一口食べるとバクバクと食べ始めてしまう。


「セシル、どうだい? 気に入ったかね?」


 聞かれたセシルは慌てて食べる手を止めて返事をする。

「はっはい! こんな美味しい料理を食べたのは初めてです」

「そうかそうか。たくさんあるからお腹いっぱい食べて良いぞ。元気になって良かった」

「はい! ありがとうございます!!」


 和やかなまま食事が終わり、セシルを含む全員がホッとするのであった。

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