前夜
「うぉっ、でかい……」
「なるほど……」
神殿騎士のシヴァとサルカッテは月明りに照らされたアンキロドラゴンの骨に圧倒される。
「なっこれで十分だろう。戻るぞ」
「いや、持ち帰れる部位も確認したい」
「だめだ。今回は案内までだ。勝手に見に行くのは構わないが俺達は帰る。お前1人で見に行け。死んでも知らんがな。もう1人は案内したという証拠人として俺達と一緒に戻ってもらう」
「いやいやいやちょっと見るだけだろ」
「シッ、声を抑えろ。馬鹿め」
「ばっ!? 貴様っ」
神殿騎士は普段敬われる立場なので暴言に対する耐性が全くない。
「静かにしろっ」
興奮するシヴァの口をヌーファが慌てて抑える。
「ムゴッ」
サルカッテがそれに反応しそうになるが、それを手で制する。
「落ち着け。こっち側に来てよく見てみろ。謎の光があるぞ。あの影のサイズからするとゴブリンか?」
サルカッテもここで争うのはまずいと思ったのか素直に視線を送る。
「確かに……何かいるな。ウルフ系もいるか? なぜ一緒に? かなりの数だな。風向きが変わったらまずいぞ」
実際はセシル達とマーモットの大群である。
「ここがどんだけやばい場所か分かったか? すぐここを離れるぞ。いいな?」
口から手を離されたシヴァも大人しく返事をする。
「……分かった」
「おいおいおい、やばいっあいつらこっちを見ているぞ。早く離れろっイケイケイケッ」
冒険者の焦った声に神殿騎士達も慌ててアンキロドラゴンの死骸からなるべく音を立てず、しかしなるべく速く足を動かし離れて行く。
無事にある程度移動した所で一息付く事が出来た。
「見ただろ。どんな魔物かは分からなかったが蠢く様にかなりの数の魔物がいたぞ。ここは得体の知れない魔物がいるんだ。臆病すぎるくらいでちょうどいい」
「……そうだな。理解した」
「なあ、本当にあんな所に賢者の卵がいると思うか?」
案内した冒険者の1人が同じく冒険者のヌーファに問いかける。
「あぁバッカが言っていたやつか。さっきの魔物達を見て確信したが、いないだろう。子供がこんな所で生きていくのなんて無理だ」
「そりゃそうだな。くそっあんな奴の言う事を少し信じてしまったぜ」
「なぜか全員があいつの言葉を信じて洞窟前で作業してしまっていたからな。結果的に無事に素材を回収出来て良かったが、今思うと信じられない行動をしてしまったな」
「あいつがあまりにも自信満々だったからな……よくよく考えたら、いやよく考えなくても賢者の卵がいた理由が勃起したからってなんだよ……何で信じたんだよ。夢でも見ていた気分だ」
「……人生の汚点だな。もう考えるのはやめよう」
冒険者の会話にシヴァとサルカッテが怪訝な顔をする。
「勃起? 俺の聞き間違いか?」
「おい。関わるな……多分聞き間違いじゃねぇよ」
「そうか? やはりこの森では冒険者に一日の長があるからな。少しでも知識を吸収したいと思ってな」
先ほどの件で冒険者達の経験値に気付いたようだ。
「やめろやめろ。あいつらの性事情なんて考えたくもないし何の参考にもなんねぇよ」
「おいっ聞こえているぞ。性事情の話なんかしてねぇわ」
「……そうか」
「……」
何となく気まずい空気になりその後4人は無言のまま拠点である水源まで戻る事が出来た。
到着後すぐに神殿騎士のシヴァ、サルカッテはファンブルに報告をする。
「どうだった?」
「はい。おそらく竜種であろう巨大な素材は確認できました。持ち帰る事が出来ればかなりの額になるかと」
「ダンジョンはどうだ?」
「入口らしき場所は確認しましたが、魔物がいて近づけなかったのと、竜種の素材が手に入ればダンジョンに入る必要は無いかと」
「ダンジョンは魔物がいて近づけないか……素材は離れた所にあるのか?」
「いえ、ダンジョンのすぐ前です」
「ん? 竜種の素材の近くに魔物は?」
「はい。ですので、たくさんいました」
「たくさん? そんな中で素材の回収は出来そうなのか?」
「それは……明日になってみないと魔物の数は分かりませんので」
「魔物の種類は?」
「ゴブリンやウルフ系かと」
「ん? 争っていたのか?」
「いえ、それがお互い竜種の肉を食べていたのか大人しい様子でした」
「大きい食材の前には争う必要もないのか? では荷台に乗せて持って帰れそうな素材は確認出来たか?」
「それも……明日になってみないと……」
「はぁ、もう少し仕事が出来ると思っていたのだが」
「……申し訳ございません」
「もう良い。ポストスクスも連れて行けばある程度の魔物は追い払えるだろう。とりあえず今日は休もう。明日、朝一から素材の回収とダンジョンの確認をするぞ。奴隷共とローテーションで見張りを立てる事を忘れるなよ。冒険者共の事も警戒するように」
「ハッ」
☆☆☆☆☆☆
その夜、ワイバーン敷布団を失い寝心地が悪い思いをしているセシル。
「あいつら絶対に許さん。絶対にだ……よく考えたらさっき来ていた人影のやつらが犯人だったのかな? くっそ。王国側から来たからうっかりしてた! 見逃すんじゃなかった! くっそくっそくっそぉ!」
「セシルうるさいっ!!」
「ナー!」「ナー!」
「ピー」「ピョー!」
「ごっごめん」