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マイホームダンジョン  作者: ニケ
第4章 ダンジョン編
219/222

あと一歩


「こっこれは……!?」

「どうした。早く逃げるぞ!」


 洞窟で雷鎖の音に反応し硬直しているバッカにトリーが訝しげに問いかけ、奥から離れようと注意を促す。


「この感覚、間違いない。やつだ。やつがいるぞ」

「何がいるって言うんだ。中から魔物が襲ってきたらどうする。早く動け」


 腕を引っ張られ無理やり入口側に連れていかれたバッカはトリーに訳を説明する。


「これを見てみろ?」

「ん? おまっ! ふざけんなよ! 見てみろじゃねぇよ! 何で勃起してんだ!!」


 服の上からでも分かる膨らみにトリーが苛立つ。


「ばかっ! お前本当に分からねぇのか?」

「何がだ!?」


 もしかして勃起じゃないのか?

 と思い、もう一度バッカの股間を見直す。


「勃起しているだろう?」

「勃起じゃねぇか!!」

「違うそうじゃない。いやそうなんだが、見覚えはねぇか?」

「ふざけるな! なんでお前の勃起に見覚えがあるんだよ!!」


 その会話を聞いていた周りの冒険者達は“なるほど”という顔をする。


「ちっ違う! 俺らはそんな関係じゃない!」

「幼馴染でずっと2人で活動しているって話を聞いた時から、そうじゃないかと思っていたから大丈夫だ。そんなに否定しなくてもいい」

「ああ、俺もお前らの関係に気付いていた。大丈夫だ」

「安心しろ。冒険者って仕事は男所帯だからな。割と良く聞く話だ。そんなに否定しなくても大丈夫だ」


 次々と大丈夫だと声が掛かる。


「本当に違うんだ!」

「おい! 話は後だ。とりあえず出るぞ」



 洞窟を出た冒険者達は入口前で休憩する事になった。


 バッカによる「絶対に安全だ。あれは賢者の卵だ」という言葉を信じる事になった結果だ。

 こんな所に賢者の卵がいるなんて通常なら全く考える余地も無い馬鹿馬鹿しい話だが、実際に中から聞こえて来た声が子供の声で王国語だったのは皆が確認している。


 さらに、竜種の素材は洞窟前に鎮座しているのでここからあまり離れるわけにはいかない。

 お宝が眠ると言うダンジョンが気になって観光感覚で中を覗いてはみたものの、竜種の死体に集る虫とゴブリンを追い払った今は、そんなにダンジョン内のお宝に興味はない。

 竜種の素材だけでも持ち帰るのが大変なのだ。

 バッカ軍団はポストスクスを1体と馬を複数しか連れて来ていない。

 荷車はあるが、かなり小さい物しか用意出来ていない。


「交代で素材を取るぞ。急ごう」


 アンキロドラゴンの骨や甲羅なんてそう簡単に切る事など出来ないので、当然関節部の筋を切り取ってせっせと積み込む。


 荷台が小さく、多くの素材を諦めざるを得なかったが、それでも全員が一生暮らしていけるくらいの値段が付くだろう素材を見て、それぞれがニヤつく顔を抑える事が出来ない。

 素材を手に入れた冒険者達は水分補給の為、ポストスクスに水場を探させる。


 ポストスクスの嗅覚を信じしばらく歩くと湧水を見付ける事が出来たが、そこには神殿騎士達が居座っていた。


「チッ」


 さっきまでのお気楽な雰囲気は消し飛び、一気に殺気立った空気になる。

 荷台を雨避けの布で覆っているのでパッと見は高級素材を持ち歩いている様には見えないが、万が一がある。

 絶対にバレないようにしなければ……


「おう。お前らか。あっちに竜種の素材がたっぷり残っているぜ。後で取りに行きな」

「なっ! おいっ!!」


 バッカの不用意な発言に冒険者達は一斉に取り乱す。

 だが、冒険者組の年長者の――年長者と言っても30後半だが――ヌーファがバッカの行動を肯定する。


「……いやっ、お前ら落ち着け、よく考えろ。ここで情報を渡しておいた方が良い」

「どういう事だ?」


 ヌーファが皆を近くに集め、小声で説明する。


「神殿騎士も無料で素材が落ちているってのに、わざわざ危険を冒してまで俺達と争うメリットは無いはずだ。そうだろう?」

「たしかに……」


 その話し合う様子を見ていた神殿騎士のファンブルがそろそろ良いかと話しかける。


「おい、さっきの話は……本当なんだろうな?」


 ファンブルは一応話を聞く姿勢ではあるが、冒険者達に疑いの目を向けている。


「ああ、俺達は荷車がちいせぇ。これ以上は持ち運べねぇんだ」

「だがなぜそんな情報を我々に渡す? お前達にメリットは無いだろう?」

「いや、俺も最初は隠すつもりだったさ。だが、さっきの俺達の慌てた様子を見ただろう? この馬鹿が喋っちまったんだ。今更無かった事には出来ないだろう。それに俺達はこれだけあれば十分な儲けになる。奪われる事を危惧するくらいなら情報を開示して安全を買いたい」

「……なるほど……な」

「なんなら案内してやってもいい」

「そこまでするのは流石におかしいだろう」

「もちろんただじゃない」


 ファンブルは聞こえない様に舌打ちをする。


「……言ってみろ」

「お宝を手に入れた俺達は何より安全が重要になって来る。あんたらはポストスクスを2体も連れてきているんだ。出来れば帰路は同行したい。というか、護衛を兼ねて欲しい。それに俺達のポストスクス1体も含めればあんたらの安全性もグッと増す。悪い話ではないだろう?」


 ファンブルは頭に帝国人陣営を思い浮かべる。

 先程は逃げ出してしまったが、この冒険者達を含めれば自分達の方が戦力は上になる。


「……素材を見てみなければ分からん。そもそも我々の目的はダンジョンだ。すぐ帰路に着くかどうかは判断出来ん」

「ふん。まあいい。だが案内する最低の対価としてこの水場を俺達も利用させてもらう。それは最低条件だ」

「……分かった。呑もう。案内はあんただ。すぐ案内しろ」

「はぁ、分かった。その前に水だけ飲ませてくれ」

「おい、シヴァ、サルカッテお前達が確認して来い」

「「ハッ」」


 素材の確認は流石に奴隷では無く神殿騎士が担当するようだ。


☆☆☆


 神殿騎士が素材を確認に行っている間、バッカがロディとカーナに話しかけていた。


「ああ間違いないね。あそこにセシルが居る」

「ほっほんとなの!? 本当にセシルがいるの!?」


 カーナは震える手でバッカの腕を掴む。


「おいおい、こっちは好意で話してやってんだぞ。手を離せ」

「あっごめんなさい」


 カーナは慌てて手を離すが、それでも興奮を抑えられない。


「それでセシルを見たの?」

「セシルを……見たんだな!?」


 ロディも自分の心臓がバクバクと早鐘が打つのを手で抑えながら縋る様に聞く。


「いや、見てないが?」

「どういう事だ? 何故セシルがいると分かった!?」

「鎖だ」

「くさり?」

「ああ、あいつは武器に鎖を使う」

「その武器を見たって言うの?」

「いや、見てないが?」


 ロディとカーナは少しイラッとする。

(こいつの会話、もうちょっとどうにかならないか?)

とトリーを見るがトリーは肩を竦め、首を横に振るだけだ。


 トリーが代わりに説明をしようにも、セシルがいると判断した根拠がバラック(バッカ)の勃起だけなのだ。

 そんなの説明出来ないし、したくもない。


「じゃあ……なぜセシルがいたと分かる?」

「そりゃー……あー、まあ、その~だな、俺くらいのレベルの……そうっ! 俺くらいの一流冒険者は手の内を晒す事はない。悪いが秘密だ。俺の特殊能力だと思ってくれればいい」


 流石にバッカもセシルの両親の前で息子の鎖の音で勃起する特異体質になってしまっているとは言えない。

 ちなみに他の鎖では特に反応した事は無かった。

 鎖に雷魔法が通った事で音が変わるのか、鎖ではなく雷魔法に反応しているのか、セシルに反応しているのかは定かではないがセシルの雷鎖の音だけに反応しているようなのだ。


 馬鹿馬鹿しい冗談の様なバッカの話にロディとカーナは露骨にガッカリする。

 信憑性はほぼゼロと言って良さそうだ。


「ちょっと体調悪いかも……」

「大丈夫か?」


 カーナがよろよろと膝から力が抜け、立ってられない状態になったのを慌ててロディが支えゆっくりと近くの木の幹まで連れていき座らせる。


 カーナは上げて落とされた事で、セシルが居なくなった事を知って以来ずっと張り詰めていた緊張が切れてしまい体調が悪くなったのだ。


 カーナを心配しているロディも頭がガンガンと痛むのを我慢している。

 原因となったバッカを責める気力も残っていない。


 その二人の様子を見たトリーはあまりの不憫さに慌ててフォローをする。


「俺は信憑性があると思っている」

「もう、いいよ。ありがとう」


 ロディも立っているのが限界の様子で諦めの返事をする。

 今にも人生を終わらせてしまいそうな雰囲気さえ感じる。


「いや、本当なんだ。バッカの特殊能力……と言うとバカみたいな話に聞こえるかもしれないが、えっとそうだな、あんた達の息子が使う武器はただの鎖じゃないんだよ。鎖に雷魔法纏わせて使うんだ。鎖の音と共に激しい雷魔法の光と音がした。あれは、あの音は、とりあえず可能性は高いと思う。まだ諦めるなよ」

「本当なの……?」


 幽鬼の様に生気が抜けた顔をしていたロディとカーナに希望の光が薄っすらと灯る。


「おい何しているんだ。早く食事の用意をしろ」

「……はい」


 神殿騎士からの指示が飛んで来ると、まだ体調不良が治らないロディとカーナはのろのろと神殿組の方に向かって行く。

 その姿をトリーは黙って見送る事しか出来なかった。

 

 バッカは良い事をしたと満足気な顔をしていた。


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