電撃的な出会い
川の上流、岩山からチョロチョロと漏れ出る水源地まで逃げた神殿騎士のグループはようやく足を止めた。
水源地は以前セシルが水を補給していた場所だ。
ここに来るまでに水分補給をする小型の魔物と複数回遭遇したが、ポストスクス、馬、人間の大集団に驚き、逃げてくれた事で戦わずに順調に移動する事が出来ていた。
馬車もなんとか壊れずに済んでいるが嫌な音を立てるくらいにはボロボロになっている。
帝国人達と遭遇した際、馬が川に突撃していったせいで危うく車輪を壊す所であったが、手前で上手く止まる事が出来た為、九死に一生を得た形だ。
帝国人からの敗走により、またも喉に渇きを覚えた神殿騎士達と奴隷8名とで水源には行列が出来ている。
そんな中、またしても貧乏くじを引かされているロディとカーナが馬とポストスクスを100mほど川下に連れ極浅の川水を飲ませている。
本来奴隷にやらせる仕事なのだが、どんどん言う事を聞かなくなっている。
疲れている今は言い争いをする労力も惜しいので諦めて馬とポストスクスを監視している。
しばらくするとロディとカーナにようやく水飲みの順番が回り、最後に水を飲んだ奴隷から水飲み用の器を受け取った時、少し休んで周りを見る余裕が出来た神殿騎士の1人シャックから疑問符が上がる。
シャックは普段あまりしゃべらず周りを注意深く観察している事が多い若ハゲの小男だ。
ここにいる神殿騎士の中では位は低く女騎士リマの1つ上の先輩にあたる。
「おい、お前、何だその器は?」
「いや、何と言われましても……?」
ロディは自分が手に持った器を見るがよく分からない。
多少作りは雑だが、何の変哲もない木で出来た器だ。
ロディはそんな事より水を飲みたいと少しイライラを募らせる。
カーナが話の隙をついて水源に直接顔を持っていきゴクゴク水を飲み始めた。
ロディはそれを横目で見て心底羨ましく思う。
「だから何だその器は?と聞いている。俺達が持ってきた器にそんなものは無かった。どこから持ってきた?」
「は? どこから? あんたさっきそこの奴隷から渡されていたのを見ていただろう? 俺に言う事じゃ「ちょっあなたっ」……あっすみません」
疲れと渇き、イライラが溜まっていたロディはつい口が荒くなってしまった。
シャックの顔がヒクヒクと痙攣している。
「えっと、私はあいつから渡されただけで分かりかねます」
ロディはシャックの方を見ながらペコペコ頭を下げながらも水源に片手だけ伸ばし、器に水が溜まると、シャックを放置して水をゴクゴクと飲みだした。
「お前えっ!!」
明らかにキレたシャックを遮り、カーナが前に出る。
「この器ですよね! 皆さんで回し飲みしたのなら最初に飲んだであろうファンブル隊長が持ってきたのではないでしょうか!」
自分より序列が上であるファンブルの名前が出ると、口下手なシャックは口をパクつかせて動きが止まる。
話を聞いていた全員がファンブルを見る。
「知らんぞ。そこにあった。誰か気を効かせて置いたんじゃなかったのか?」
お互い顔を見合わせるが、誰も器の事など知らないようだ。
誰も知らないのも無理はない。その器を作り置いていたのはセシルなのだ。
前回の豪雨で器を全て失ったが、また作り直して1つだけ置いていたのだ。
「誰も知らないと言う事は……遥か昔、ここに人類がいた……?」「さっきの帝国人共だろ」
シャックが神妙な顔をして思考の海に沈もうとしていたが、ファンブルの一言で一気に浮上する。
隠された重大な謎を解くようなシリアスな空気を出そうとしていたシャックは
〝若い子特有のアレ〟ね。
と周りから見られた事に気付くと顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
☆セシルサイド☆
セシル達は水場の寒さから結局すぐにセシルハウス近くまで戻ってきていた。
帝国人を洞窟内で撒き、大人たちを手玉に取った事で良い気になっていたセシル達だったがセシルハウスが近付く程にセシル、ヨト、ユーナの3人とも薄っすらと、とある事が脳を掠める。
何となく空気感で。としか言い表せられないのだが、3人共がほぼ同時にその事実に気付いた事をお互いに察した。
だが、誰も口に出せない。
誰もが失態から目を逸らしたいのだ。
あんなに帝国人達を笑っていたのに。
出来れば無かった事にしたい。
ライライ達が発するビカビカとした光の元、お互いに横目に相手の様子を窺っている。
「……なぁ」
我慢出来ずに最初に声を出したのはヨトだ。
ビクッとなったセシルとユナは思わず歩みが遅くなり次に紡がれる言葉を耳を大きくして待つ。
「まあ、改めて言わなくてもお前らも気付いていると思うけどさ」
「……」
「……」
「俺らが洞窟で撒いた帝国人達さ、どのタイミングで洞窟の奥から戻って来るか分からなくなってしまったよな?」
実際はとっくの昔に洞窟を出ているが、そんな事はセシル達は知らない。
「……」
「……」
「それってさ、危険だよな? 表の魔物も気にして洞窟内も気にしなきゃいけないわけだよな。まあ元から魚っさんやらミニ魚っさんがいつ洞窟からやってくるか分からない状況ではあったけどな」
「そうだよ。元々魚っさん達が来る可能性はあるんだから、危険度は変わらないよ!」
「でもあいつらはわりかし馬鹿だっただろ。それに比べて知恵が回るやつらがいつ戻って来るか分からないってのはかなり危険じゃないか?」
「洞窟内であの人たち撒いたのは失敗だったって事?」
「ハッキリ言って失敗だろ」
「終わった事はいいでしょ!」
「終わったというか今起きている事というか」
「しつこい! だからヨトはモテないんだ!」
「モテないもなにもここには妹しかいないんだが」
「はーっ、ああ言えばこう言う! 王国語でよくそこまで喋れますね!! もういいでしょ。難しい事考えないで、とりあえず食料をどうにかしない? 今回は食べれそうな奴と出会わなかったし結構ピンチじゃない?」
「それもそうだな」
セシルは問題を棚上げすると、蠟燭の様な火魔法で先を照らしながら先頭で洞窟とセシルハウスを繋ぐ穴を跨いでいく。
するとセシルハウスの玄関側から松明の様な明かりが複数と、王国語が聞こえて来る。
「ここがダンジョンってやつか? 洞窟にしては壁が綺麗すぎる」
「ついに来たか。ここならしばらく休憩出来そうだな」
「まじか! ようやく辿り着いたのか! ダンジョン!! くぅ~!奥見て来るぜ!!」
「おい待てよバッカ!! くそっ! ここ最近は慎重になったと思っていたら、すぐこれだ!」
セシルの目には明らかに人が近付いて来るのが分かった。
「あぁぁ!!? もうっ!! 何で人の家に勝手に入ってくるんだよっ!! いい加減にしろぉよおおおお」
セシルはイライラで思わず雷鎖をバチバチとさせながら地面に叩きつける。
バチィイイ
「おい! どうしたセシル!」
「うわぁっ!? なんだなんだ!? 中から音と叫び声っ!?」
鎖のジャッっという雷鎖が擦れる音もバッカの耳に届く。
その時、バッカの脳を電流の様な衝撃が走り
〝勃起〟した。
バッカ&雷鎖=勃起は 2章 81話出立より