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マイホームダンジョン  作者: ニケ
第4章 ダンジョン編
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マーモの新技


 翌日、セシルは水の補給などをしに行く準備をしながらマーモを見てふと思い付き声をかける。


「ねぇ?」

「ナー?」

「マーモっていつも口から魔法出しているけど角から出せない?」

「ナー?」


 ん~っと踏ん張るように試してみるが、上手く出来なかった。


「ナ~」

 

 悲しい顔で首を振って否定する。


「出来ないか~。あっ出せなくてもいいや。ライライ達みたいに雷魔法を身体で動かして角に雷魔法集められない?」

「ナ~?」


 マーモが雷魔法を角に集める。


 バチバチッ


「おっやっぱり外に飛ばさなければ全身どこでも持っていけるんだね。マーモの角で魔物に体当たりして角が刺さった所に雷魔法流したらどうかと思ったんだよ」

「ナー!?」


 マーモはようやく自分だけのオリジナルの技が出来たかと大喜びする。


「さらに」

「ナッ!?」

「尻尾で剣が使えるようになれば、剣で相手の注意を引き付けた所で角を刺せる!」

「ナー!?」


 マーモは満面の笑みだ。

 少し前に木の剣で失敗して皆に笑われた事を忘れてしまっているらしい。


「そして!」

「ナッ!?」


 マーモはまだあるのかと小さい目を見開く。


「その剣がここに!」

「ナー!!」


 キースから取った剣だ。

 今までは移動の邪魔になる為、セシルの剣鉈と雷鎖しか武器が無かった。。


「尻尾で持ってみて」


 鞘を付けたままの剣の柄を向けると、マーモは短い尻尾で掴み剣を持ち上げる。


 剣を持つマーモの顔は必至の形相だ。

 剣を振る為に横に倒していく。


「重たい?」

「ナッナァアアァァ」


 歯を食いしばり剣の重みに耐えていたが、ジワジワと剣が倒れ地面に落ちる。


 カランッ


 木の棒程度なら振れるくらいの力があるが、本物の剣は重さのレベルが違う。


「ナハハァ~~~ン」


 マーモが四つん這いで慟哭する


「ぶはははっ」「ピーピッピッ」「ピョーッピョッピョッ」


 以前と同じ姿に思わずセシル達は笑ってしまう。


「ナーッ!!」

「ぶふっ。笑ってごめん。ぶふふっそんなに怒らないでよ。重たかったんだね」

「ナ~」

「これから毎日練習しようね」

「ナー」


 ヨシヨシと撫でてあげる。

 ライアとラインも一緒になってマーモを撫でると、機嫌を取り戻したのか目を細めて気持ちよさそうにする。


「じゃマーモの新しい技が使えるか魔物狩りに行ってみようか。ゴブリン相手ならどうにかなるでしょ」

「ナー」「ピー」「ピョー」

「僕も一応剣鉈と雷鎖も持っていこうかな」


 セシル達はゴブリンの集落があるだろう帝国側の方面に向かって行った。

 その方向に行くと、いつもすぐ出会うことが出来る。



「どんだけいるんだろうね。ゴブリン」


 家から出て程なくすると2匹のゴブリンを見つけることが出来た。

 2匹とも手ぶらだ。

 虫を指さしてギャッギャと言っている。


「僕は雷鎖で左側のやつ攻撃するから、マーモは右のやつに突っ込んでみて」

「ナー」

「ライライ達は雷魔法危ないから離れて見ていてね」

「ピー」「ピョー」


 ライライが少し離れるとセシルは雷鎖を手に持ち構える。


「行くよ」


 静かに声を掛ける。

 マーモは新しい技を試せる事に興奮しているのか、突撃前に関わらず角に雷魔法を流し始めた。

 それを見たセシルはいつもは鎖が巻き付いてから雷魔法を流すのだが、今回は雷魔法を先に流しながら攻撃してみることにした。

 相手がまだ自分たちの存在に気づいておらず、さらに無手のため失敗しても挽回できると判断しチャレンジしてみることにしたのだ。


 パリッ


 バチバチッ


「ぎゃあ! 何!? 止めて止めて」


 マーモの角と雷鎖の間で雷が飛んで繋がったのだ。


 雷鎖用に設えた専用の柄を持っていたので大した痛みは無かったが、至近距離で雷が空中をバチッと飛んで来たのにびっくりして思わず声を出してしまった。


 2人とも雷魔法を止め雷が収まるとホッと息を吐く。

 マーモも特にダメージは無さそうだ。


 大きい声を出してしまったことで、ゴブリン達にバレてしまった。

 ギャアギャアと鳴きながら襲ってくる。


「見つかった! 予定通りで。僕は左! 雷鎖使うのやめとくからマーモは雷魔法使って良いよ」

「ナー」


 セシルは腰に差していた剣鉈を取り出し、ゴブリンに対応する。

 イルネの指導と幾度の戦闘を熟したセシルは、正面に向き合った状態で無手のゴブリン相手なら余裕で対応できるようになっている。


 ゴブリンは4つんばいになって飛び掛かってくるが、冷静に力を抜いて相手の肩口から剣鉈を斜めに切り付けながら血が自分に掛からない様に一歩身体を横にズラす。

 切り付けられた勢いで地面にひっくり返ったゴブリンに素早く近付くと首に突き刺し止めを刺した。

 ゴブリンの口と首からゴポゴポと血が溢れて動かなくなった。



 マーモの方を見ると、ゴブリンのお腹にマーモの角が突き刺さり雷魔法を流されているゴブリンがギャアアと泣き叫びながらマーモの頭と背中をバシバシと叩いていたが、次第に力が無くなり息絶えてしまった。


「こりゃいかん」


 倒す事には成功したがマーモの体がゴブリンの血で真っ赤に染まっているのだ。

 お腹に角を突っ込んで行ったので当然の結果と言える。

 このまま返り血を放置すると魔物が寄ってきてしまうのは自明の理だ。


 幸い少し移動すれば水木がある地域になるので血を洗い流すべく移動する。

 ゴブリンの死体はどうせすぐ魔物の餌になるので、ラインとマーモに良いところだけササッと食べさせ、あとは放置することにした。


 水木に着いたが、体を水に濡らす前に試したいことがあった。


「そう言えば、マーモの雷魔法が飛んできた気がするんだけど」


 セシルはそう言うと雷鎖を取り出し手に持つ。

 鎖部分は持たず、柄を持つことで痛みを防げるはずだ。


「マーモ雷角やってみて」

「ナー」


 マーモが角にバリバリと雷魔法を発動する。


「あれー? 飛んでこないな? 勘違い?」


 そう言いながら雷鎖に雷魔法を通した瞬間、マーモから雷魔法が飛んできた。


 バリィィ


「うわっ!? 止めて!!」


 マーモが雷魔法を止める。


「びっくりした。でも痛くないね。あっそうか自分で雷魔法使った場所は痛くないからか。マーモは痛くないの?」

「ナー」

「角だから痛くないのかな? 万が一ライアとラインに雷魔法が飛んだら死にかねないよね。僕たちが雷魔法使うときはライライは雷魔法使っちゃだめだよ。僕たちも気を付けないと」

「ナー」「ピー」「ピョー」

「でも雷飛んだね! 次は剣鉈で試してみようか」


 剣鉈を持ちマーモに雷魔法をお願いする。


 バチバチ


 角に雷が光るだけで飛んでくることは無かった。


「魔法止めていいよ。やっぱりお互い雷魔法使わないと飛んでこないのかな?」


 次は雷鎖に雷魔法を流し飛ぶ距離を測っていく。


 バリィィ


「おお飛んだ!! かなり近くじゃないとダメだな」


 雷魔法が反応したのは2メートルくらいの距離までだった。



「でも今までこんな飛んで行った事無かったんだけどな。近くで雷魔法を使ってなかった? イル姉が火魔法使ったことある気がするんだけどなぁ。それとも同じ魔力じゃないと飛ばないとか? ん~誰かいないと実験出来ないな。まあいっか。また機会があれば実験しよう。早く血を洗い流さないと」

「ナー」「ピー」「ピョー」


 水木で血を洗い流し、水分補給をした後に周りを散策する。

 するとゴブリンが一定の方向から現れている事が多い事に気が付く。


「あっちに集落があるのかな? 行ってみようか」


 隠れながらそちらの方に向かうと、四半刻に満たない時間でゴブリンの集落を見付けることが出来た。


「噓でしょ……」


 初めて見たセシルは衝撃を受けた。


 集落は少し高台に出来ていた。

 山脈以外はほぼ平坦な土地が多い中でこの高台はかなりの好立地と言える。

 これなら大雨も問題が無いだろう。


「トルカ村より立派じゃないか」


 セシルの位置の方が低いので全容は見えないが、集落は木で壁のように囲っており、その外には逆茂木、さらにその外側は堀が掘られている事は分かる。


 出来上がりはかなり粗雑だが、十分効果は発揮しているだろう。

 何せ、昨日セシルが逃げるしかなかったラプターの死体が掘りに2匹転がっていたのだ。

 おそらく別の個体だろうが、襲ってきたのを返り討ちにしたのだろう


「凶暴な魔物がたくさんいる中でどうやってゴブリンが生きているのかと思ったら、こんなのが出来ているなんて。速トカゲも餌食になっているし……さすがに鎧トカゲとかキングコングとか呼ばれていた奴が来たら一発で潰されそうだけど、何で見付からないんだろう?」


 実際はゴブリンが見張りや食料調達で森の中をウロウロする事で、それが大物達の餌となり集落を襲うまでもなく満足させる事になっていたのだ。

 もちろんそれでもごく稀に集落を襲われることもあるが、異常な繁殖力で何度でも復活するのだ。

 周囲の魔物もゴブリンが無限に供給される原因が本能的に分かっているのか、ゴブリンを全滅させるような事は無かった。



 セシルは木陰に隠れたまま周囲を警戒しつつ観察を続ける。


 日々の水分補給の際、度々出会うゴブリンが厄介なのでどうにかしたいと思っていた。

 

 倒したい。


「堀のおかげで周囲の木と離れているから、燃やしちゃう? ――あーでも油もないし、あまり燃えないかな? 完全に燃やしてしまうのは違うし――」


 完全に燃やしてしまうとゴブリンの死体は魔物の餌にもならないだろう。

 むやみに殺生する事はセシルの倫理観にも反する。


「……僕の水分補給が楽になるためだけに全滅させる必要あるのかな? ――うん。やめよう。やっぱりおかしいよ。水汲みに行くのは大変だけど、その為に全滅させるって頭おかしいよね」

「ナー」「ピー」「ピョー」


「ラインとマーモの食糧がこの近くに来れば手に入る可能性が高いって考えよう。勝手に育つ家畜的な。なんか全滅させるよりある意味惨いかもしれないけど、向こうも襲ってくるからお互い様だよね」

「ナー」「ピー」「ピョー」


 ゴブリンの集落を襲う事を辞めたセシルは何もせずに帰ることにしたのだった。

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