結
思ったよりも早く書けましたので投稿します。
前の話を中途半端で終わらせたのは、今回の話の内容に繋げる為でした。
前回の話を読んで、ロランが元の性別と容姿に戻ってハッピーエンドだと思った読者の皆様に一言言わせて頂きます。
……それはどうでしょうかね?
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ティアナと彼女の妹達は村人達と騎士団の手によって、村の一角に集められていた。彼女達は全員拘束されており、気を失っている。
「皆さん、ご協力感謝します。ティアナを捕らえる事が出来て、彼女によって妹にされた人達も全員助けられました」
「「「「ありがとうございました!!」」」」
団長は村人達に感謝の意を述べ、深く頭を下げる。団員もそれに続いて頭を下げた。彼らの協力が無かったら、このような結果にはならなかったからだ。
「どういたしまして、って言いたい所なんだけどよ……」
「肝心な事が解決していないから、それは言えないわ……」
「確かに……」
ブライとミカ、それと団長は一つの場所に視線を移す。ティアナ達を捕らえても、ある一つの重要な問題を早急に解決しなければならなかった。
「……どうして?何で僕は、元に戻ってないの?」
「ロラン。元気を出すのじゃ。原因が分かれば元に戻れる筈だろう」
彼らの視線の先に居たのは、金髪で緑色の瞳の少女の姿のロランが自分の性別と容姿が元に戻っていない事に呆然と立ち尽くしており、祖母である村長は傍らに寄り添って励ましていた。……そう、ロランはティアナの性別反転魔法を受けたにも関わらず、何故か元の性別と容姿に戻っていなかったのである。
ロランが元に戻っていない事に村人達は驚愕した。それは騎士団も同様である。二段構えの作戦は成功したとブライから聞かされた騎士団は、ロランが元に戻ったと思っていたが、元に戻っていない姿を見て何故だという疑問が生まれたのであった。
「……ティアナから直接理由を聞くしかないようだな。彼女を起こしてくれ」
「分かりました!」
団長はロランが元に戻っていない理由を、ティアナを問いただして聞き出す事にし、団員の一人に彼女を起こすように指示を出した。
「おい!起きろ!」
「……うぅ」
団員の呼び掛けと揺さぶりに気を失っていたティアナは意識を取り戻す。
「……はっ!ここはぁ!?私はどうしてたのぉ?」
目を覚ましたティアナは周囲を確認する。
「……って、何これぇ!?」
ティアナは動こうとしたのだが、彼女の両手と両足は黒色の手錠のような物で拘束されており、一歩も動けなかった。
「その黒い物は魔法制約の手錠だ。それを着けている限り、お前は魔法は使えない」
「何でそんなの着けるのぉ!?早く外してぇ!!」
「外す訳が無いだろう」
ティアナを拘束している黒い手錠は、身に着けた者が魔法を使えないようにする手錠で犯罪者の捕縛によく使われている。彼女の場合は念には念を入れて二つ使用されており、万が一にも片方が外されたとしても、もう片方が効果を働かせ続ける事で魔法を使えないようにしているのだ。
ティアナは団員に手錠を外すように懇願するが当然の如く却下される。彼女をやっとの思いで拘束としたというのに、そう易々と外す訳が無い。そんなティアナに団長が近づいていく。
「ティアナ、お前に聞きたい事がある。返答次第ではお前が受ける罪を軽くするように働きかける事も出来るが、どうする?」
団長はティアナからロランの性別と容姿が元に戻らなかった理由を聞き出す為に取引を持ち掛けたのだ。
「良いよぉ。何を聞きたいのぉ?」
「……随分と軽いな。お前の性別反転魔法を受けたロラン君が元に戻らなかったのは何故だ?掛けられた者の性別を反転させる魔法なら、女になったロラン君が受ければ男になる筈だが、何故元に戻らなかったんだ?その理由を答えろ」
団長はティアナに、ロランの性別が元に戻らなかった理由を直接問いただした。彼はそれを聞いて、解決策を練らなければならない。方法によっては彼女に着けた手錠を外す事も考慮する必要もあるからだ。
「何でぇ?」
「いいから答えろっ!お前によって変えられた人達を元に戻さなければならないからだ!」
団長は絶対に性別と容姿を元に戻す事をロランに約束し、更にティアナによって変えられた者達も元に戻さなければならない。だからこそ、彼女から聞き出さなければならなかった。
「何言ってるのぉ?時間が経っちゃったからぁ、どうやっても元には戻せないしぃ、戻らないよぉ?」
「……は?」
「……え?」
「何?」
ティアナの口から語られたのは、あまりにも受け入れがたい事実だった。ロランの性別と容姿は時間が経過してしまったので、どうやっても戻せないし戻らない。衝撃を受けた騎士団と村人達であるが、一番衝撃を受けたのは他ならぬロランであった。
「……え?僕はもう、元には戻れないの?……え、え?」
「ロラン!気をしっかり持つのじゃ!」
その事実を聞かされたロランは混乱し始め、それを何とか止めようと村長は奮闘していた。
「嘘をつくな!お前が妹と同じ容姿にならなかった者に、再び魔法を行使して元に戻したのを知っているんだぞ!」
団長はティアナが再び性別反転魔法を使って性別と容姿を元に戻している事を知っていたが、一つの重要な事実を彼は知らなかったのである。
「私の性別反転魔法はねぇ、掛けられてから半日経っちゃうとぉ、性別と容姿が固定されてぇ、どんな方法でも元に戻れなくなる魔法なんだよぉ!凄いでしょぉ!!あははぁ!!」
「なん、……だと?」
ティアナの口から語られたのは、それまで彼女が内に秘めていて、彼女以外は知る術が無い魔法の真実。性別反転魔法には元に戻れる為の制限時間が存在しており、それが経過してしまった者は如何なる方法でも元に戻れなくなるというのだ。
……つまりロランは、これから女として生きていかなければならなくなったのだ。
「そんな……、あぁ……」
「ロラン、大丈夫か!?」
「しっかりして!?」
元に戻れると思っていたロランは唯一の希望が絶たれてしまい、身体の力が抜けて卒倒するが、駆け寄ってきたブライとミカに支えられて倒れる事は無かった。
「……団長。ティアナの言う事が正しければ、妹になった人達も全員元には……」
それがまだ本当の事かどうかは定かではないのだが、もし本当ならティアナの妹になってしまった者達も制限時間が経過しているので、如何なる方法を用いても元には戻らない事になる。
「ねぇ!教えたんだからぁ、この手錠を外してよぉ!」
ティアナは自分は取引に応じたのだから、対価として手錠を外すように言う。
「ティアナ。嘘を言わずに本当の事を言えっ!どうやったら元に戻れるんだ!?」
団長はティアナが自分が逃げられない状況になった事で自暴自棄になり、性別は元に戻らないと嘘をついていると思って、彼女を再び問いただした。
「だからぁ!半日経っちゃうと性別と容姿が固定されてぇ、どんな方法でも元に戻れなくなる魔法って言ったでしょぉ!早くこれを外してよぉ!!」
しかしティアナは、先程と同じ答えを団長に返す。それを聞いた団長は彼女に触れられる距離まで近づいた。
「ん?がっ!!?」
「ふざけるのも大概にしろっ!本当の事を言えと言っているだろっ!」
団長はティアナがここまで来て、まだ嘘を言っていると考えて彼女の頭を殴る。
「何で殴るのぉ!?私は本当の事を言ってるのにぃ!!」
「いい加減に……」
「団長、落ち着いて下さい!今のティアナには何を言っても無駄です!」
「我々騎士団には掛けられた魔法の効果を解除出来る者が居ます!ティアナの魔法も解除出来るかもしれません!」
自分は本当の事を話しているとティアナは言い続けるが、団長はそれも嘘だと決めて殴り掛かろうとするが、団員の二人に止められる。その内の一人が掛けられた魔法の効果を解除出来る者が騎士団に所属している事を伝える。
「そ、そうか!それなら元に戻せるかもしれないな!」
ロラン達を元に戻せないと諦めかけていたが、まだ希望は残っていたようだ。団長はすぐにその者を呼び、魔法の効果を解除するように命令を出した。彼はロラン達に掛けられた魔法の効果の解除を試みる。
……だが、
「団長!申し訳ありませんが、これは解除出来ません!」
「何!?」
「私は今まで多くの魔法の効果を解除してきましたが、ティアナの魔法の効果はとんでもない程に強力です。恐らくは彼女の強すぎる思いが、このような効果を生み出したと思われます。魔法というのは、使う者の思いを全て受け止めてしまうので、時には我々の想像を超える効果を生み出す事があるのです」
魔法の効果の解除を試みた団員は、解除は不可能だと団長に告げる。彼は今まで様々な魔法の効果を解除してきたが、ティアナの魔法のような効果は初めてだった。魔法は使用者の思いを善悪構わず汲み取るので、ティアナの妹を二度と失いたくないという強い思いが魔法の効果を強力な物へと変貌してしまったと、彼は推測する。
「何してるのぉ!?早く手錠を外してよぉ!!」
その魔法を生み出した帳本人であるティアナは、先程から手錠を外すように何度も言っている。
「……皆さん、今日はありがとうございました。今日はもう遅いですので、家にお帰り下さい。彼女達は我々が責任を持って見張ります!」
「私を無視するなぁ!!これを外せぇ!!!」
「黙れっ!!」
団長はそれを無視して村人達に帰るように促す。ティアナは自分を無視する団長に手錠を外すように言うが、団員に咎められる。
「……ロラン、今は家に帰ろう。これからどうするかは、明日にでも考えればいいからな」
「今はゆっくり休んでね」
「う、うん……」
ロランはブライ達に支えられながら、自分の家に戻っていく。他の村人達もそれに続いていった。
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翌日の昼を過ぎた頃、騎士団は村を出ようとしていた。ティアナを捕まえ、彼女の妹となった者達を全員救出した事で任務が完了したからだ。
昨晩、村人達が各々の家に帰った後に騎士団はティアナの妹となった者達の洗脳を解こうとした。性別はもう元には戻せないが、こちらは解除出来るのではないかと考えたのだが、残念ながら洗脳魔法は少しだけしか解除出来なかった。詳しく調べると性別反転魔法と同じように、ティアナの強い思いがとても強力な効果へと変化してしまい、少しだけしか解除出来なかったと彼らは推測する。
……だが、彼らは諦めていなかった。少しだけ解除出来たのなら、完全に解除出来るのではと、僅かに希望を持てたからである。
「ロラン君。私は君との約束を果たせなかった。本当に申し訳ない」
そして、騎士団が村を出発する少し前に団長は数人の団員を引き連れてロランに会いに行き、約束を果たせなかった事を謝罪した。
「……団長さん。僕の身を守る約束の方は果たしてくれましたから謝らないで下さい。あの人に連れ去られたら僕は洗脳されて、お父さんとお母さんとお婆ちゃん、村のみんなや今まで会って来た人達の事を、全て思い出せなくなってしまう事にならなかっただけ良かったです。もしも皆さんがあの時、村に来てなかったら僕は今ここには居ません。僕を守ってくれてありがとうございました」
ロランは団長に対して性別はどんな方法でも元には戻れないし戻らないが、ティアナから自分を守ってくれた事を感謝していた。
騎士団がティアナの情報を得て村にやって来たからこそ、ロランは今この場所に居られるのだ。彼らが村に来るのが少しでも遅かったら、ロランはティアナに自分の両親や祖母、村人達さえも知らない間に連れ去られて洗脳され、今頃は彼女の妹になっていただろう。
「それに、もう元に戻れないのなら、これからは女性として生きていきます。……過去は悔やんでも決して変わらない。大事なのは今何をすべきか。それによってこれからは変えられるって、お婆ちゃんは言っていましたから」
「そうか、その言葉は村長も同じように言っていたよ」
ロランは祖母である村長から教えられた言葉を今回の出来事に当てはめ、二度と元の性別には戻れないという現実をロランは受け止めたのだ。
ロランは今朝になって両親と祖母を自分の部屋に呼ぶと、これからは女性として生きていくと決意を表明する。三人はロランの意思を尊重しようと決めた時に団長が訪ねて来て、ロランに話があると呼び出したのだった。
「団長、申し訳ないですが時間が迫っています。我々はそろそろ村を出なければなりません」
「そうだったな。……ではロラン君。私達は行かなければならない。元気でな」
「はい!ありがとうございました!」
団員から出発しなければならない時間を告げられ、団長はロランに一言挨拶すると、ロランの前から去っていった。騎士団はティアナを連行し、彼女によって妹にされた者達の洗脳を完全に解除する為に一刻も早く出発しなければならなかった。ロランは騎士団に礼を返して、彼らを見送ったのだった。
「よし、僕もこれから頑張ろう」
騎士団を見送ったロランは家に入っていく。彼は……いや、彼女は今日から女性としての人生を歩んで行く事になる。今まで歩んで来た男性としての人生とは様々な違いがあるので、まずはそれを知らなければならなかった。
「ロラン、挨拶は終わったのか?」
「お父さん。終わったよ」
家に入ったロランに、父親のブライが声を掛ける。
「なんていうか、複雑だな。息子が娘になったのは俺も初めての経験だからか?」
「お父さん、一番複雑なのは僕なんだけど?」
ブライはロランが息子から娘になってしまった事に複雑な気持ちになったのだが、一番複雑な気持ちになったのは性別が変わってしまった張本人の彼女である。
「ロラ~ン♪」
「お母さん!?凄いご機嫌だけど、どうしたの?」
二人が話していると近くの部屋の扉が開き、そこから母親のミカがとてもご機嫌な様子で現れて、ロランの手を握る。
「もう!早くこっちに来なさいよ!準備は出来てるから♪」
「ちょ、ちょっとお母さん!?」
手を握るミカの力は普段より強く、ロランを部屋の中に引き込んでいく。
「あなた、私が良いって言うまで入って来ないでね?」
「分かってるよ。……ミカ、あまりやり過ぎるなよ?」
「分かってるわよ♪」
ブライはミカに釘を差す事を忘れないようにしつつも、約束を守る為に二人を見送ったのだった。
「……お母さん、この服の山は何なの?」
部屋に入ったロランの目の前には服の山が幾つもある。それらは全て、スカートやワンピースといった女性が着る服ばかりであった。
「これ全部あなたが着る服よ、下着も沢山あるわ♪私のお古だけど、箪笥の中から引っ張り出してきたのよ。ロラン、今日から女性として生きていくんだから、今から手取り足取り教えてあげるわよ。なんなら私が着せてあげるわ♪」
「いや、教えてくれるだけで充分だから!?何でそんなに嬉しそうなの!!?」
母親であるミカの今まで見た事が無い様子に、身の危険を感じるロラン。じりじりと距離を詰めていく彼女にロランは後ずさりするしか無かった。
「あなたが娘になったと思うと……ハァハァ。こういう日は絶対にやって来ないと思ってたから……じゅるり!」
「息荒くなってるよ!?涎出さなくていいから!?」
ミカは息子が娘になった事に興奮が抑えられず、息が荒くなって口から涎が出てしまっている。それにただならぬ恐怖を感じたロランは部屋を出ようと扉に向かい、開けようとする。
「あ、開かないっ!?何でっ!?お父さん!そこに居るんでしょ!?ここ開けて!」
「ロラン、よく聞け」
……しかし、扉は開かない。ロランは扉の向こう側に居るであろう父親のブライに開けるように言うと、彼は扉の向こう側からロランに優しく語りかける。
「……強く生きろ」
「そんなのいいから!?ここを開ーけーてー!!?」
何とか扉を開けようと奮闘するロランだが、それはブライによって固く押さえられているようで、びくともしない。
「ロラン?」
「ひっ!?」
ミカに肩を掴まれるロラン。恐る恐る振り返る彼女の運命は、ここで決してしまったようだ。
「さ、こっちよ♪」
「い、いぃぃーーーーやあぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!?!?!?」
この日、平穏が戻った村の隅々にまで女性として生きていく事になったロランの悲鳴が響き渡ったのであった。
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ミカから女性としての一通りの手解きを受けたロランは、村人達に女性として生きていくという挨拶回りをして、夕方になり始めた頃に祖母である村長の元へとやって来た。
「ロラン、随分と可愛らしくなったのう。麦わら帽子も似合っておる」
「そ、そう?ありがとう。何か嬉しいよ」
村長に可愛らしくなったと言われて照れるロラン。今のロランの服装は、色は白く半袖で丈は膝下まであるロングタイプのワンピースである。下着も当然の事ながら女性用の下着を身に着けている。この姿のロランなら完璧に女性だと誰もが思うだろう。それらを着た当初は多少の違和感を覚えた彼女も、すぐに無くなった。それとロランは頭につばが広い麦わら帽子を被っている。あまり肌を焼かないようにとミカが渡したのだ。
「ロランよ、農業は続けるのか?」
「うん、続けるよ。性別は変わっちゃったけど、力は前とそんなに変わってないって事が分かったんだ。……でも、この身体に慣れないといけないから、しばらくは前と同じくは出来ないね」
ロランは、既に自分の身体の変化が他にもあるのかを確かめていた。鍬などの農機具を持ってみると以前と全く変わらない重さを感じたので、農業は続けられると思った。しかし、まだ新しい身体に慣れていないので、前と同じ作業量をこなすのは負担が大きすぎると考え、少しずつ戻していく事にしたのだ。
「そうか。ロランに頼みたい事があったのじゃが、それは後にするかの」
「え?それって何?」
「それというはのう……」
村長から後で頼まれる事とは、ロランを守る為に村人総出で土を耕した広い土地なのだが、あれだけの土地をそのまま放置しておくのは勿体無いと思った村人達は、思い切って広大な畑にしようと話し合って決めたのだ。多くの作物を育てて、それを近くの街などに売って村を豊かにしようと考えたのである。
人が少ない村では、今居る村人全員でも広大な土地を管理するのは難しいと思われるが、そこは問題が無いと彼らは判断した。ロランが高品質の作物のお礼として譲り受けた魔法で動く農機具があるので、水撒きや雑草の刈取りに収穫も、それを使えば人が少なくても広大な土地を管理出来ると判断し、彼らは村長に話をしたのだった。
「そうなんだ。……でも、どうしてみんな急にそれをやろうと考えたの?」
「今までロランに甘えすぎていたのを反省したそうじゃよ。ロランが村を良くしてくれたのに、自分達は特に何もしていなかったと気づいたそうじゃ」
村人達はロランが村の暮らしを良くしてくれたのに、自分達はのんびりとそれに甘えていた事を自覚した。大の大人が揃いも揃って一人の少年におんぶに抱っこは流石に恥ずかしいと、全員が奮起して行動を起こしたのである。
「これは村の一大事業になるからロランにも手伝って貰うが、まずは今の身体を慣れてからじゃよ」
「分かったよ、お婆ちゃん」
村人達が考えた計画はこの村の将来を左右する事業となるので、同じ村人であるロランも従事する事になるのだが、女性になったばかりの彼女には、自分の身体に慣れてからにしてもらうという、村人達の総意であった。
「……あ。そういえばさ、ノエルがどこに居るか知らない?昨日の夜から見てないんだよね」
「私は見ていないぞ?昨晩は皆も忙しかったからの。ノエルに会いに行くのか?」
「うん。どうやっても元には戻れないから女性として生きていくって報告をしとかないとね。凄く驚くと思うけど……」
「そうかそうか」
「でも、あの人の魔法に元に戻れる為の制限時間があったなんて思ってもなかったよ。半日なんて短すぎるよ」
「そうじゃのう。半日経過する前にもう一度受けなければ元に戻れなくなるとは、条件が厳し過ぎるのじゃ」
ロランは昨晩からノエルの姿が見えないのを気になり、どこに居るのかを村長に聞いたのだが、村長も昨晩から見ていないのだ。ロランはノエルに今日から同じ女性として生きていく事を報告しようとして、ここに来る前にノエルの家に行ったのだが、彼女の姿は無かった。
話はいつの間にか変わったようで、ティアナの性別反転魔法には元に戻れる制限時間があった事を今更ながら振り返る。受けてから半日経過する前に同じ魔法をもう一度受けなければ、性別と容姿が固定されてしまい、どんな方法でも元に戻れなくなってしまうという条件の厳しさに嘆いた時だった。
「……ねぇ?それってどういう事よ?」
二人の会話を聞いていた誰かが、先程の話題で気になった部分があったので割って入って来た。
「あ、ノエル。……ん?ノエルだよね?」
「ノエルじゃの……、ん?」
ロランと村長との二人の会話に割って入って来た誰かとは、ノエルであった。二人は昨晩から姿が見えなかった彼女が現れた事に安堵しながらも、見慣れている筈のノエルの姿に多少の違和感を抱いたのだ。
「二人して何?……それよりも、さっき言った事ってどういう事よ?」
「さっき言った事?どうやっても元には戻れないから女性として生きていくって決めたんだけど?」
「それもだけど、私が一番聞きたいのは、その少し後に二人が言った事よ?」
「……半日経過したら、どんな方法でも元に戻れなくなるって言ったのう」
「それよ!」
「それがどうかしたの?……ん?」
半日経過してしまった場合、どんな方法を用いても元の性別と容姿に戻れなくなるという言葉に対して敏感な反応を示すノエル。何故それが気になったのかの理由が分からないロランだが、先程抱いた違和感の正体が何となくだが分かってきた気がしたのだ。
昨晩より前のノエルの髪は茶色でうなじまで伸びていたのだが、今のノエルの髪の色は変わっていないが、長さがその時よりも少し短くなっているのだ。
体型も服の上からでは詳しくは分からないが変わっているようで、ノエルの肩幅が以前より広くなっている様子が伺える。更に腕や脚が少しだけ太くなっていた。
ノエルの顔は以前と同じ中性的な顔立ちなのだが、今の彼女を見たロランはどちらかというと男性かと一瞬見間違えた程である。更に普段から聞いているノエルの声が少しだけ低くなっているような気がしたのだ。
「どうしよう。それだと私も元に戻れないって事になるのよね?」
「え?……ノエル、まさかとは思うけど今の君って?」
「……お主、まさか?」
ノエルが私も元に戻れないと言った事で、二人の抱いた違和感の正体が判明した。
「私、昨日の夜に変な光を受けてから男になっちゃったの!!しかも半日経っちゃったから、もう元には戻れなくなったのよ!!」
「……ええぇぇぇーーーーーーーーっ!!!?!!?」
女であったノエルが、見た目の変化は少ないが男に変貌してしまったという、驚愕の事実を告げられてロランは絶叫する。更に最悪な事に、男に変わってから半日という時間が既に経過してしまったので、どんな方法を用いても元の性別に戻れなくなってしまったのだ。ノエルが何故男になってしまったのかの理由は昨晩まで遡る。
それは、ノエルがティアナが村にやって来る日を聞いて夜になってから、誰よりも先に彼女を捕まえてロランを元の性別と容姿に戻して貰おうと行動していたのだが、思ったよりも早くティアナが騎士団と邂逅した事で出遅れてしまい、彼らの近くの茂みの中に身を隠して様子を伺っていた。
ティアナが騎士団の追跡から逃れてロランの元に向かったと見ると、ノエルもそこへと向かう。ロランの家が見えたと思ったら割れた窓から光が一直線に向かって来て、ノエルはそれを受けて男になってしまったのだ。しかも、運が悪い事にノエルが魔法を受けた場所が崖の近くであった為に気を失ったと同時に崖から転落したのだが、不幸中の幸いと言えば良いのか、ノエルは茂みの上に落ちたので奇跡的に怪我は無かった。
ノエルが意識を取り戻したのは夜が明けてからで、崖下の茂みに落ちている事もそうだが、自分が男に変わっている事に大層驚いてしばらく動けなかった。昨晩までの体型が変わっているのを感じ、更に女である自分には絶対に無い筈の物が有るのを重さと感触を確かめて、はっきりと自分が男になってしまったと分かったのだ。
何とか冷静になったノエルは慣れない男の身体で山道を歩き、夕方になり始めた頃に村に戻って来た。ロランと村長が会話しているのを遠目で見たノエルは二人の近くまで来た時に、先程の半日経過したら元に戻れなくなるという言葉を耳にして現在に至る。
「……まさか、あの時のが?」
村長はノエルが男に変わってしまったのは自分の行動が原因だったと察する。昨晩、ティアナがブライに向けて性別反転魔法を行使しようとする彼女の腕を蹴りで弾いて阻止したのだが、まさかそれがノエルに向かっていったと、あの時一体誰が分かっただろうか。村長の呟きは、幸か不幸か二人には聞こえていなかった。
「ロラン。お父さんとお母さんになんて説明すれば良いと思う?」
「う~ん、正直にありのままを説明すれば良いんじゃないの?」
「それで二人が納得すると思うの!?性別が変わるなんて普通はありえない事なんだからね!」
「それなら、僕とノエルの性別が入れ替わったって言ってみたらどうかな?」
「はぁ!?性別が入れ替わる事も普通はありえない事なん…だか……」
ノエルは自分の両親に一体どういう説明をすれば二人が納得するのかとロランに助けを求めたのだが、何とも呑気な助言をする彼女であった。そんな中で自分とロランの性別が入れ換わったと説明したらという言葉を聞いたノエルは、ある事に気づいたようだ。
「……あのさ、ロラン。今の話とは別の話があるんだけど良い?」
「え?構わないけど、何かな?」
急に話題を変えられて気になるロランだが、今まで近くに居ながら蚊帳の外であった村長はノエルがしたい事が分かったようだ。
「……さて、お邪魔虫の私は退散するとしようかの。お主ら二人でゆっくりと気の済むまで話し合うのじゃよ」
「え?お婆ちゃん?」
自分が居てはノエルが話したい事が話せなくなると思い、この場を去っていった。
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というわけで、ロランは女性のままにしました。
ノエルは流れ弾ならぬ流れ魔法を当てて男性に変え、元に戻れなくしました。
……で、四話程度で終わらしますとしていましたが、次の話で終わりにします。
この小説と同じように4~5話程度の小説を、今後もネタが思いついたら書いていこうと思います。
恋愛描写が上手く書けるかどうか分かりませんが頑張ります。何せ私は、恋人居ない歴=年齢ですので。