転
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ロランが女へと変えられてしまった日から五日後の夜、この日は満月であった。月明かりが優しく村を照らしているが、そこに向かう唯一の山道を二十人の集団が村に向かって進んでいる。
「みんな準備はいいぃ?もう少しで私達の新しい妹が捕まっている村に着くよぉ」
「「「「うん!」」」」
銀髪の女性のティアナと、男性から女性へと変えられて彼女の妹になった者達だ。妹の数は十九人。全員の髪が金色で、緑色の瞳を持つ彼女達はティアナと共にロランの居る村に向かって進んでいる。ティアナは先日、騎士団の団長が読んだ紙に書いた通りに五日後の満月の夜、連れ去られたロランを救うという名目で隠れ家にいる妹達全員を引き連れてやって来たのだ。
「お姉ちゃん。この先の村に私達の新しい妹がいるの?」
「そうだよぉ。……でもねぇ、その村は悪い奴らの巣窟だから気をつけてねぇ。騎士団も居るからぁ、気を引き締めていくよぉ!」
「騎士団もそこに居るの?」
「それって、お姉ちゃんの事を悪者にしてるを奴らだよね?」
「そうなのぉ。私は皆を救っただけなのにぃ、あいつらは私の事を犯罪者にしてるのぉ。酷いよねぇ?」
妹の一人が今向かっている村に新しい妹がいると聞くとティアナはそうだと答えるが、そこには悪い村人や騎士団も居ると自分の妹達に伝える。騎士団が居ると聞いて彼女らは怒りがこみ上げてきたようだ。
「酷い。お姉ちゃんは私達を解放してくれただけなのに……」
「あの村で騎士団を倒そうよ、お姉ちゃん!」
「そうしたいけどぉ、これ以上警戒されたらぁ、村に居る新しい妹が助けられなくなるよぉ」
村に居る騎士団を倒そうと奮起するティアナの妹達だが、これ以上警戒が高められるとロランが救出出来ないと思ったティアナは彼女達を宥める。
「お姉ちゃん分かったよ。それは駄目だよね」
「早く新しい妹を助けて、帰ったら歓迎会だ!」
「今回も盛大にやりましょう」
彼女らは妹が増える度に盛大な歓迎会をしている。今回もロランを隠れ家に引き入れたらそれを行う予定となっており、皆それを楽しみにしているのだ。ティアナ達は進んでいき、木々が生い茂る山道から一つの開けた場所に出る。
そこは見渡す限り土が掘り返された場所であり、草一本も生えていない土が視界の端まで広がっているのだ。ティアナ達はその場所に足を踏み入れる。
「何ここ?歩きづらい!」
「土が柔らかくなってるみたいだね」
ティアナ達が歩いている今の場所は地面が柔らかくなっているようで、思った以上に足を取られやすくなっている。彼女らは口々に文句を言いながらも、新しい妹になるロランを救う為に歩みを止めなかった。
「あれぇ?こんな所あったかなぁ?」
ティアナは五日前に村に来た時の事を思い出す。ここまで開けた場所は無かったと覚えている。
「……でもぉ、私達が行かないとあの子が悲しんじゃうからなぁ」
しかしティアナは、ロランが今も自分達の助けを待っていると思っていて、一刻も早く向かわないとロランが酷い目に会ってしまうと思ってもいる。そんな事になっては可哀相だと一歩を踏み出す。
……そんな時だった。
「全員動くな!!」
「ん?」
誰かの声が響くと同時にティアナ達の前方から何人もの集団が彼女達の目の前にやって来た。
「ようやく現れたか。ティアナ!!」
集団の先頭でティアナの名前を叫ぶのは騎士団の団長だ。彼らはティアナ達と一定の距離を保つように止まる。団長はロランの性別と容姿を元に戻すと約束しただけではなく、彼女の後ろにいる妹達を元の姿に戻して洗脳からも解放しなければならない。この機会を逃せばそれは難しくなると団長は分かっているので、絶対にこの場でティアナを捕らえると決めていたのだ。
「お前の数々の愚行は断じて許される物ではない!!今日、この場で決着を着けさせてもらうぞ!」
ティアナをここで捕まえると宣言する団長。しかし、それに割って入る者達が居た。
「お姉ちゃんを悪く言うなっ!」
「そうだ!お姉ちゃんは私達を解放してくれただけなの!悪い事はしてない!」
「みんなぁ、そう言ってくれるなんて嬉しいよぉ!」
団長を批難する声を上げているのはティアナの妹達だ。自分達を助けてくれたのは姉であるティアナだと口々に叫んでいるが、彼女達は洗脳されているので、そう思わされているだけなのだ。
また、ティアナは姉である自分の事を称えている妹達の言葉に歓喜している。彼女は自分がしてきた事は間違っていなかったと確信したのだが、既に狂っているティアナはそれらが犯罪行為だという事が認識出来なかったのだ。
「団長!こちらの準備は出来ています!」
「良くやったぞ!!」
「えっ!?後ろぉ!!?」
ティアナ達の後ろに突然、騎士団の団員達が姿を現した。彼らはティアナ達が通ってきた山道の近くに身を潜めていて、彼女達がこの開けた場所に出たのを確認し、こっそりと後を着けていたのである。騎士団は隊を二つに分け、彼女達を挟み撃ちにする作戦であった。
「前にも後ろにも居るよ!!」
「挟み撃ちなんて卑怯だよ!!」
「こうなったらみんなぁ、横に逃げるよぉ!」
ティアナ達は騎士団に前と後ろを挟まれた事に戸惑うが、ティアナは妹達に横に逃げるように指示して、彼女達は横に移動を開始する。自分達の横には誰も居ないとティアナは読み、騎士団を撒くために足を踏み出し、妹達もそれに続く。
「きゃあ!!」
「うわあぁっ!」
…………しかし、今のティアナ達が唯一取れる行動こそ、騎士団の狙いであった。彼女達はとても柔らかくなった土に足を取られ、ティアナ以外の全員が転倒する。
「うえぇ~ん!土が口の中に入ったよ~!!」
「もうっ!服が土まみれになっちゃった!」
「みんなぁ、早く立ってぇ!」
「お姉ちゃん!この土凄く柔らかくて立ちにくいよ!!」
身体のあちこちに土が着いた事に泣いたりする妹達を見てティアナは速く立つように呼び掛けるが、柔らかくなった土の上では彼女達はなかなか立ち上がれずに苦戦していた。
「皆さん今です!彼女達をお願いします!!!」
「「「「任せろっ!!!」」」」
「「「「分かりましたっ!!!」」」」
その様子を伺っていた団長は、一つの指示を出す。すると、騎士団の後ろから複数の人が飛び出してきた。
飛び出してきたのは全員が村人である。何故彼らが騎士団の作戦に参加しているのか、その理由は、今から五日前に遡る。
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それは、騎士団が作戦会議をしている時であり、その場所に村人達はやって来た。
「団長さん、ちょっといいか?」
「何でしょうか?」
村人達が老若男女問わず騎士団の元にやって来た。その中の一人の男が一歩前に出る。
「俺達にも何か出来る事はないか?」
「あなた達を危険な目に会わせる訳にはいきません。これは我々騎士団が対応しますので、皆様お引き取り下さい」
村人の男は騎士団に手伝いを申し出るが、団長は丁重に断る。しかし、男は引き下がらなかった。
「団長さんよ、ロランは村を良くしてくれたんだ。前よりも生活が良いのはロランのお陰なんだよ。……そんなロランが大変な目に会おうとしてるのに、何もしないなんて俺には出来ねえよ!」
「そうね。便利な道具を自分が貰ったのに、私達の作業が楽になるからって全部くれたんだよ。私もそろそろ恩を返さないとって思ってたけど、それが今だと考えたのよ」
「何でもいいから、とにかく俺達に手伝わせてくれ!!」
男だけではなく、ここにやって来た全員が手伝いを申し出る。彼らは全員、ロランに多大な恩を感じており、それを返すのはまさに今だと次々に名乗り出ているのだ。
「団長。いかが致しますか?」
「……これは無下には出来ないな」
団長は彼らの言葉を聞いて、如何にロランが村とそこに住む人達の事を思って働いていたのかが知らされた。彼らの思いが届いたのか、団長は悩みながらも決断を下した。
「……あなた達の気持ちは分かりました。なら、ティアナを捕まえる策を一緒に考えて頂けませんか?」
「策を?」
「はい。奴を捕まえなければ騎士団は被害者に顔向けが出来ません。それはロラン君にもです。五日後に村に来るであろう奴を確実に捕まえられる良い策を考えなければならないのです」
騎士団は以前からティアナを追っているのだが、あと少しの所で捕まえ損ねていた。だからこそ、この追走劇に終止符を打たなければならなかった。
「具体的には奴を取り逃がす事が無いようにしつつも、洗脳された者達を救えるような策です。我々も考えを巡らせているのですが、名案は浮かんでいません」
騎士団は先程からティアナを捕まえる策と彼女に洗脳された者達を救う策の二つを考えているのだが、それは難航しているようで行き詰まっていた。
「五日後に来るって何で分かるんだ?」
「ティアナが投げ入れたであろう紙にそう書いてありました。我々に与えられた猶予は五日後の夕方までです。そこまでに準備を終えなければなりません」
確証は無いのだが、ティアナは妹達を引き連れて五日後の夜に村にやってくる事になっている。
「……あいつらは山道を通って来るのなら、あの………」
「そういえばあの辺りは誰も使ってないし誰の者でもない、なら……」
「でも、あれだけの広さを全部やるなら……」
「あの、皆さん?」
ティアナ達は五日後にやってくると聞いた村人達は、騎士団そっちのけで話し合いを始めた。
「……なら、あれは……」
「……それなら、あれも……」
「もしもし?あの、何を話しているのてすか?」
村人達の話の内容が全く分からない団長は、彼らに尋ねるが返事は無い。団長の呼び掛けにも応じられない程に集中しているようだ。
「よし、決まりだな!」
「「「「「それで行こう!!」」」」」
「団長さん、策なら決まったぜ」
「も、もう決まったんですか!?」
時間にして数分、団長からしてみればあまりにも短い時間で策が決定した事に驚く。
「それで、策というのは?」
「その前に確認だが、そいつは村に来る時に唯一ある山道を通って来るのか?」
「おそらくは、一人の場合は木の間や藪の中を抜けていく事は可能ですが、大勢でとなるとその山道を通るしかないでしょう」
村人達は策を言う前に団長にある事を確認すると、彼らの望み通りの答えが返ってきた。
「よし!それなら、この策で行ける!団長さん、俺達が考えたのはな……」
答えを聞いて、村人達は考えた策で行けると確信する。
策というのは、まずは村に来る為の唯一の山道に生えている木などを全部切り、その後はその辺り一帯を全部畑にする勢いで土を耕し、土を凄く柔らかくするのだ。柔らかくなった土の上ではティアナ達はまともに歩けなくなると思い、彼女達を捕まえるのがやり易くなるだろうと考えたのだ。
村人達から語られた策は、農業を勤しんでいる彼らだからこそ思い付いた物であり、地の利を活かした策でもある。ちなみに彼らは多少土が柔らかくとも足を取られる事はほぼ無い。
それを聞いた団長は彼らでも五日だけでは広い範囲は終わらないのでは無いのかと尋ねるが、そこはロランが農作物のお礼にと貰い受けた農機具を使えば二日で終わると告げると、団長はそんな物があるとは、と驚いていた。
「……そういえば、足場が悪くても普段通りに動ける魔法が掛けられている靴は何足ある?」
「はい!それは騎士団の全員が今履いている靴です!予備は数足あります」
「分かった。それなら……」
「ちょっと待って下さい。私達もその作戦に参加させて下さい!」
「俺も!」
「私もだ!」
団長は騎士団の装備を確認させ、この策で行こうと指令を出そうとした時に村人達が参加させて欲しいと懇願したのだ。
「それは……」
「団長、お願いします!」
「「「「お願いします!!」」」」
団長は村人達の懇願に戸惑うが、彼らは全員が頭を下げて懇願をする。
「わ、分かりました。あなた達はティアナに洗脳された者達を捕まえて下さい。ティアナは我々騎士団が対処しますので絶対に彼女の前には立たないで下さい。これだけは約束願えますか?」
「「「「はい!」」」」
こうして村人達は騎士団が行う作戦に参加する事になったのだ。
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時間は戻って現在、彼らの作戦は予想以上に成果を出していた。
「動くなよ!!」
「おとなしくして!!」
「私に触らないで!!」
とても柔らかくなった土に足を取られて転び、なかなか立ち上がれないティアナの妹達を村人達は動けないように、麻紐で手や足を縛ったり、作物を詰める袋を頭に被せて目隠ししたりなど、自分達が普段使っている道具で彼女達を拘束していく。
「皆を放しなさいよ!!」
「させるか!!」
ティアナの妹達の中には短剣を持つ者もおり、拘束された妹達を助けようと向かうのだが、村人達が鍬や鎌で対抗する。
「あっ!?」
「今だっ!!」
「がっ……」
村人の鍬がティアナの妹が手に持った短剣を弾き飛ばし、無防備になった彼女の脳天に鍬の柄を叩きつけて気絶させる。
「走りにくいよ~!」
「待ちなさいっ!」
「は、放して~!」
何とか立ち上がって逃げようとするティアナの妹達も居たが、足場が悪く早々に追い付かれて村人達に捕まってしまった。
ティアナの妹達が村人達の手によって、こうも簡単に捕まっている理由というは、彼女達の元となった男性達が戦闘経験が全くと言っていい程に無かったからだ。
ティアナは要人や強靭な男達を狙わず、力の弱い一般市民の男性のみを狙って性別反転魔法を使っているので、彼女の妹となった者は戦闘経験の無い非力な少女へと変貌する。また、ティアナは妹達には危険な事は今までさせておらず、訓練といった事もさせていない。
……つまり、ティアナと妹達の合計で二十人の非力な集団が、戦闘経験を沢山積んでいる騎士団と農作業で鍛えられている村人達の合計で百五十人以上の集団と戦うという、無謀にも程があり過ぎる事を彼女達はしているのだ。
ただ一心に妹になったロランを助ける為に行動しているティアナ達だが、妹達がそれぞれ持っている武器はティアナが調達した一本の安物の短剣のみであり、それでは騎士団が持つ剣や村人達が持つ鍬や鎌には勝てない。更に、彼女達の中で唯一魔法が使えるティアナは相手を直接攻撃する魔法は使えないので、彼女達は誰がどう見ても騎士団と村人達に勝てる訳が無かった。
もしも、この場にやって来たのがティアナ一人だけだったなら、性別反転魔法の厄介さと逃げ足の速さを活かして簡単にロランの元へと向かえただろう。妹達を連れて来た事が逆に彼女の重荷になってしまったのだ。
「団長さん、こっちは俺達に任せてくれ!!」
「必ずそいつを捕まえてくれよ!!」
騎士団は団長を含めて、村人達のあまりにも奇想天外な戦い方を見せられて呆然としていたが、村人達の声に我に返るとティアナに向き直る。
「私の妹達に何て事するのぉ!私達は村に居る新しい妹を助けようとしてるだけなのにぃ!!!」
「……ティアナ、彼女達はお前の本当の妹ではない。それにロラン君もお前の本当の妹ではないんだ。無駄な抵抗は止めろ」
「うるさいよぉ!」
団長は投降を呼び掛けるが、ティアナは自分の妹達が捕まえられた事に怒っていて、彼女の耳には届かなかった。
「お姉ちゃん!私達の事はいいから先に新しい妹を助けに行ってあげて!!」
「で、でもぉ!」
「早く行ってっ!!このままだとお姉ちゃんも捕まっちゃうよ!!」
「でも、でもぉ!!」
妹達の一人がティアナに先に行って助けるように言うが、彼女は妹を放っていく事が出来ないので、子供のように駄々を捏ねており、動こうとしなかった。
「私達は必ず追いつくから!新しい妹を助けてあげて!!」
「……うんっ!!必ず助けてくるからねぇっ!!」
妹に背中を押されて何とか踏ん切りがついたティアナは、彼女の頭の中では連れ去られたロランを助ける為に走り出した。
「逃げるなっ!!」
「頼んだぜ!団長さん!!」
「ここはお願いします!」
団長は騎士団を引き連れてティアナを追い掛けていく。彼女を取り逃がしたら今までの努力が全て水の泡になってしまうからだ。彼らの足はいつも以上に速く動いたのであった。
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騎士団と村人達が協力してティアナ達を捕まえる為に力を尽くしている頃、ロランは自分の部屋で心を落ち着かせようとしていた。
「……大丈夫だ。皆が僕の事を守るって約束してくれたんだ。皆を信じよう」
ロランの心の中にはティアナに連れ去られてしまうのではないかという不安があるのだが、五日前に騎士団と村人達がロランを守り通す事を誓い、その為の準備をして、今まさに彼らは戦っているのだ。
「大丈夫、……大丈夫」
少しずつではあるが落ち着いてきたロラン。村人達や騎士団が守ってくれる事には感謝しているのだが、性別と容姿が元に戻れるのかの不安は拭えなかった。
「ロラン、落ち着いたか?」
「無理したら駄目よ?」
「お父さん、お母さん。僕は大丈夫だから」
ロランの部屋にブライとミカが入ってきた。二人はロランを安心させる為に側に寄り添う。
「ロラン。戸締りはしっかりしてあるし、家の周囲には騎士団の皆さんが居るし、私達も居るから安心して」
「それは分かってるんだ。でも……僕、怖くて……」
「大丈夫だ。あいつはすぐに騎士団に捕まるからな」
ブライとミカはロランの心配を払拭する為に頭に手を置いて優しく語り掛ける。両親の声を聞いたロランは、自分は絶対に元に戻れると安心した時だった。
ガッシャーーーーーン!!!!
「誰だっ!!?」
三人の居る部屋の一つの窓ガラスが盛大な音と共に割られ、部屋に誰かが入ってきた。ブライとミカはロランを守る為に前に出る。
「見つけたぁぁ!!お姉ちゃんが来たよぉぉぉぉぉ!!!」
「ひぃ!!」
部屋に入ってきた者の正体は、なんとティアナであった。彼女は自分の新しい妹であるロランを見つけると歓喜の雄叫びを上げる。
ティアナは足の速さを活かして、追い掛けて来る騎士団を引き離した。そして村に入ると、一つの家だけが警備が厳重になっているのを見て、あの家の中にロランが居ると答えを出すと、自分を発見して迫ってくる騎士団の団員達の間をすり抜け、窓ガラスを割って部屋に侵入したのだった。
「本当に来やがったな!!お前!ロランを元に戻せっ!!」
「私達の子供に何て事してくれたの!?早く戻しなさいっ!!」
ブライとミカはロランを守るように前に立ちながら、ロランの性別と容姿を元に戻せと、ティアナに自分達が抱いていた怒りをぶつける。
「妹から離れろぉ!!お前達が近くに居るとその子が穢れるって紙にも書いたのを読んでないのぉ!?早く離れろよぉ!!」
対するティアナもブライとミカの二人に怒りをぶつける。ティアナは自分の妹が穢れるから近づくなと紙に書いて投げ入れたのだが、彼女は二人が読んでいないと思ったからだ。
「妹?ここに居るのは私達の子供のロランよ。あなたの妹は居ないわ」
「だからぁぁ!!その子が私の妹なのぉ!!お前達が連れ去ったんでしょぉぉ!さっさと返しなさいよぉぉぉ!!」
お互いの話は平行線を辿り、ブライとミカの二人は今にも殴りかかりそうになるのを抑えるのに必死であり、ティアナは地団駄を踏んでいる。そんな終わりの見えない争いを何とか止めようとする者が現れた。
「…………ください」
「ロラン?」
「こんな事はもうやめてください!!僕を元に戻してください!」
「ロラン!あいつとは話すな!洗脳されるぞ!」
「あなたは後ろに隠れてて!」
それは話の当事者であるロランであった。勇気を振り絞って言葉を発したが、両親は洗脳されてしまうのではと思い、ティアナとは話さないようにロランを止める。
「怖がらなくて良いんだよぉ!!お姉ちゃんが助けに来たからぁ、安心してねぇ!!」
ティアナはロランの先程の行動が自分に助けを求めて声を上げたと思い、安心させる為に呼び掛けた時だった。
「……ティアナ、俺と一つ勝負をしないか?」
「勝負ぅ?何でぇ!?」
何とブライは、ティアナに勝負を挑もうとしているのだ。何故いきなりそれをしようとするのかがティアナも気になったようだ。
「いいから聞けよ。……勝負の内容はお前の性別反転魔法を俺に掛けろ。俺が今のロランと同じ容姿になったら、ロランの代わりに俺を連れていけ。それにならなかったらロランを連れていっても構わない」
「あなた!?」
「お父さん!?」
「二人は口を挟まないでくれ、これは俺とあいつとの勝負だからな」
「でも、お父さんが僕の代わりに連れていかれるかもしれないんだよ!?どうしてこんな事するの!?」
「子供を守る為なら親は何だって出来るんだよ。……さぁどうする?」
ブライはロランの身を守る為に自分を犠牲にしようとしているのだ。あまりにも突然な事に戸惑いながらも止めるのだが、彼は引かなかった。ブライはロランの手を握りながら、自分は親なので子供を守らなければならないといけないと伝える。
「……しょうがないなぁ。そこまで言うなら掛けてあげるよ!」
ティアナはブライとの勝負に乗ったようだ。彼女はブライに右手を向けて、性別反転魔法を放つ魔方陣を展開する。
「お前も妹になれぇぇぇ!!」
展開された魔方陣から光が溢れ、それが一直線にブライへと向かっていく。このままでは彼は女性へと変貌してしまうだろう。
……だが、この状況こそブライが一番望んでいたのであった。
「ロラン今だ!行ってこい!!」
「えっ?」
ブライはロランを握っている手に思い切り力を入れて、ロランを前方へと投げると同時に彼はその場から離れる。彼に投げられたロランにはティアナが放った性別反転魔法の光が向かっている。
「これって!?うわあああーーーーーーーー!!!!」
ロランの姿は性別反転魔法の光に包まれて見えなくなった。
「よしっ!上手くいった!!」
「あなた!まさか最初からこれを狙ってたの!?」
「そうだ!あいつの魔法は性別を反転させる魔法だから、女になったロランは、もう一度それを受ければ男に戻れると思ってな!」
そう、ブライはロランを元に戻す為に、ティアナの性別反転魔法を利用する作戦を立てていた。それを男が受ければ女になるが、女が受ければ男になる。ロランを男に戻すなら彼女の魔法を再び受けさせるのが一番手っ取り早いと考えて、今回の作戦を立てていたのだ。
「……でも、あなたも女性になってしまう場合だってあったのかもしれないのよ!?」
「それなら大丈夫だ。団長に頭を下げて、このアクセサリーを団員の一人から借りてたのさ」
「もう、あなたってば!そういうのは先に言ってくれるかしら!?」
この作戦が失敗した場合は、ブライは女性へと変貌してしまうのだが、それを防ぐ為に団長の許可を得て団員の一人からアクセサリーを借りていたのだ。
……ちなみに今回の作戦は、もしも騎士団がティアナを捕まえられず、ロランの前に彼女が現れた場合にのみ行う事をブライと団長は約束していた。つまり、今回の作戦は最初から二段構えになっていたのだ。
「何してるのぉ!!こうなったらもう一度ぉ!妹になれぇ「いい加減にせぬかっ!!」あっ!!」
ティアナは自分の妹であるロランを盾にしたブライに怒りを露にして、もう一度性別反転魔法を放つが、その直後に誰かに腕を弾かれ、魔法陣から放たれた光は彼女が部屋に入ってきた所から外へと一直線に進んでいった。
「ほいっ!」
「あがっ……」
ティアナはその誰かに首を手刀で強く叩かれ、気を失って床に倒れ伏した。
「やれやれ、ようやく大人しくなったか」
「母さん、ありがとな」
「何を言っておる?孫の為に私が出来る事をしただけじゃよ。それにブライ、これもお前が考えた作戦じゃろう」
ティアナを気絶させた者は床に着地する。それはロランの祖母である村長であった。彼女はティアナに悟られないように近づき、魔法を行使している彼女の腕を足で弾き、間髪入れず手刀で気絶させたのだ。
実は村長は昔、有名な武道家であって、力は昔より衰えているが日々の鍛練は毎日欠かさず行っているので、技術は今の方が洗練されている。気配を消して女性一人を気絶させる程度なら造作もない事であった。
村長はブライが立てた作戦を彼から聞かされており、その時にロランを守る覚悟をしっかり聞いていたので、ティアナを気絶させる役目を引き受けたのであった。
「これで全部解決したな」
「えぇ。ティアナも捕まえられて、ロランも元に戻ったし」
「そうじゃのう、これで一件落着じゃ」
ブライとミカは村長に駆け寄る。三人はこれで全てが解決したと安堵したのだった。
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中途半端の所で申し訳無いですが、これからの展開の関係上、今回はここで話を切らせて頂きます。次の投稿を気長にお待ち頂けると嬉しいです。