承
書き上がりましたので投稿します。
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男であった自分が女に変えられてしまったという、にわかには信じ難い事実を突き付けられたロランは、絶叫した後は呆然としていた。
「……どうして僕が?何でこんな姿に?」
自分の身に起きている事実を到底受け入れられないロランに対し、騎士団の団長は優しく語り掛ける。
「戸惑うのも無理はない。性別が変わるというのは本来なら全くと言っていい程に起こらない事だからね。……これから、元凶である奴の事について話をさせて下さい。さしあたって、村長殿をここに呼んで来て頂けませんか?」
「え?……あ、母さんをか?分かった、俺が呼んでくる!ミカ、ロランを頼む」
「わ、分かったわ。任せて」
ロランと同じように呆然としていたブライとミカは何とか気を持ち直すと、ブライは村長である母親を呼びに向かい、ミカはいまだに呆然としているロランの側に座って手を握る。
「お母さん?」
「ロラン。私達も戸惑ってるけど、あなたも落ち着いて。絶対に元に戻れるから」
「え?……う、うん」
母親の手の温もりと優しい言葉を聞いて少しだけ落ち着きを取り戻したロランだが、不安は少しも拭えていない。元の性別に戻れるかどうかはまだ決まってはいないからだ。
「ロラン、無事か!?……って、誰じゃ!?」
少しして、村長がロランの居る部屋に入って来たが、ロランが居る筈の場所に別人が居るので彼女は目玉が飛び出てしまいそうな程に驚いた。
「お、お婆ちゃん……」
「……母さん、信じられないかもしれないが、目の前に居るこの女の子がロランなんだ」
「そ、そんな筈があるか!?ロランは男の筈だぞ!?どこをどう見ても女にしか見えないぞ!!?」
「だからっ!ロランがこうなった理由とかも団長が話してくれるって俺はさっきも言ったろ!俺だってまだ色々と訳分からない事だらけなんだよ!!」
孫であるロランの性別が変わってしまったという、長年生きてきた彼女であっても話の欠片すら聞いた事が無かった出来事が、目の前で起きている事に動揺を隠せない村長。その息子であるブライも同じであった。
「あなた。お義母さん。今は私達が言い争っている場合じゃないでしょう。団長さんから話を聞かないと……」
「そ、そうだな……」
「そうじゃの……」
ミカは言い争っている二人を見て今はそんな事をしている場合ではないと戒める。
「……よろしいですか?では、話をさせて頂きます」
落ち着いた彼らを見た団長は確認を取りつつも、今回の騒動の元凶であるティアナについて話し始めた。
ロランをこのような姿に変えた犯人の名前はティアナ。彼女は少し前までは特に目立った所は無く、どこにでも居る一人の魔法使いであったが、ある日を境に狂人へと変貌していく事となる。……それは、ティアナの年の離れた妹が病気で帰らぬ人になってしまった日からである。
妹思いのティアナは、いつも妹の側に居て心の支えにしていたのだが、病気を患ってからの妹は急激に衰弱していった。彼女の病気を何とか治そうと奔走していたティアナであったが、その努力も虚しく妹は亡くなってしまったのだ。
心の支えにしていた妹を失ったティアナは徐々に精神を病んでいき、周囲が彼女の異変に気づいた時には、元に戻すには既に不可能な所まで狂っていた。そんなティアナは、一つの恐ろしい考えに辿り着いてしまう。
───妹が居ないのなら、誰かを妹にしてしまえばいいと。
狂気に支配されたティアナは貪欲に魔法を探究し始めた。最初は相手を洗脳する魔法を作成して、周囲の女性に対して洗脳魔法を行使し、自分の事を姉だと思わせようにしたのだが、全く出来ずに終わる。何故だと理由が分からずにいたティアナであったが、ある時に自分が使う魔法で洗脳が可能な条件を発見したのだ。
……それは、元は男性であって性別を入れ換えた女性のみに有効であるという条件だった。
それが分かるや否や、性別反転魔法を作成して男性を女性へと強制的に変化させて、自分の事を姉だと思わせる洗脳魔法を行使して妹を増やしていくようになったと、団長は語る。
「ティアナの魔法で姿を変えられて連れ去られた者は誰一人として戻って来ていません。彼らがどこに居るのかも分かっていないのです。ティアナは性別反転魔法で何人もの男性を女性に変えて洗脳し、その者達を自分の妹として洗脳しているのです。そして、その数は少しずつ増えているとの事です」
「……団長さん。一つ聞きたい事があるんだが?」
「ブライさんでしたね。何でしょうか?」
ブライは団長がティアナの話をしている時に一つの疑問が生まれたので、彼に一つの質問を投げ掛けた。
「どうして増えているのが少しずつなんだ?男を女に変えるだけなら、それは速いと思うけどな?」
「はい。実は私もそこは気になった所でして、情報を収集した結果、複数の事実が分かりました」
ティアナは妹を増やす為に周囲の男性を魔法を使って女性へと変えて自らの妹にしているのだが、その増加の速さは騎士団の予想よりも遥かに遅かった。団長もこれは何故だという疑問が生まれたので情報を収集すると、その理由が判明したのだ。
「……ティアナの性別反転魔法はその名の通り性別を反転させる魔法なのですが、魔法を掛けられた者の気を失わせ、更には容姿を変えてしまう魔法でもあるのです。ですがティアナは、その魔法の制御が全く出来ていないようで、容姿は彼女の思い通りにはならない事が多いようです。その容姿にならなかった者には再び魔法を行使して性別を元に戻しているとの情報がありました。それと、性別が戻る際には容姿も元に戻るようです」
性別反転魔法は名の通りに性別を反転させる魔法なのだが、魔法が掛けられた者の気を失わせて容姿を変えてしまう魔法でもあるのだが、ティアナは魔法の制御が完全には出来ておらず、彼女は思い通りに魔法を使えていないようである。
ティアナが望んだ容姿にならなかった者に対して彼女は途端に興味を無くし、再び魔法を使って元の性別に戻しているのだ。また、性別を元に戻す場合には容姿も元に戻るようである。
「……そ、それじゃあ、僕は?」
「ティアナは金髪で緑色の瞳の容姿となった者のみを自分の妹として洗脳している事と、それは病気で亡くなったティアナの妹と同じ容姿だと分かっている。……誠に残念だが、今の君の容姿はそれに当てはまっているんだ。ティアナは君の前から居なくなったが諦めてはいない。再び君の前に現れるだろう」
「そ、そんな……」
団長の話を聞いて、ロランは自分の容姿は一体どうなったのだろうかと思ったのだが、現実はとても非情である。今のロランは死んでしまったティアナの妹と同じ容姿になってしまったのだ。彼女が再び自分の前に現れると団長から知らされると、ロランは連れ去られて妹として洗脳されてしまうのではないかと恐怖で身震いする。
「だが安心してくれ。騎士団の誇りに掛けてティアナを捕らえ、君を元の性別と容姿に戻す事を約束しよう」
「団長さん、少し待ってくれるかのう?ティアナとやらの魔法を受けたロランのように、団長さんや団員の皆さんも魔法を受けたら女性へと変わってしまうのでは?」
騎士団に所属している者は団長を含め男性のみであり、ティアナの性別反転魔法を受けたら全員が女性になってしまうのではないかと、村長は団長に対して質問をすると、団長は懐から一つのアクセサリーを取り出した。
「私達の身の心配はご無用です。こちらは騎士団に支給された装飾品で、これを身に付けておけばティアナの性別反転魔法は受けません」
「そんな物があるとは」
「ええ。……ですが、これは特殊な技法で作られた装飾品であって、大量に生産出来る物ではありません。作成技術なども公表されていないので、この村の人達に配るという事は不可能です」
団長が身に付けているアクセサリーは、ティアナなどの厄介な魔法を使う者から騎士団の身を守る為に作成された。これを身に付けておけば彼らの使う魔法を気にせずに向かっていけるのだが、特殊な技法で作られており、更にその技術は公には発表されていないので、大量生産が不可能な品物である。
「ティアナの性別反転魔法は私達の身で受け止めます。ご安心ください」
「団長、奴は今にでも戻って来るかもしれません!一刻も早く作戦を立てましょう!!」
「分かった。……皆さん、ロラン君の身は我々が全力で守り通します!」
団長はロランをティアナから守り通す事を誓うと、作戦を立てる為に部下と共に部屋を後にした。
「……これはこちらも早急に策を練らなければならぬのう。私達の方でもロランの身を守らなければならん」
「母さん。それは分かってるって」
「そうね。……ロラン、どうしたの?」
騎士団がロランを守ってくれる事になったのたが、万が一の事もある。彼らは自分達の家族であるロランを守る為に動こうとしていたが、今一番近くに居る母親のミカはロランの異変に気づいた。
「……はぁ、はぁ、はぁ!!」
「ロラン!?」
ロランは自分の身体を自分の腕で抱くように手を回しており、身を震わせている。
ロランは性別を強制的に変えられただけではなく、ティアナに連れ去られた場合は記憶を洗脳によって改変されてしまうのだ。そうなってしまったら自分の家族や村の住人、今まで出会った人達の記憶が全て思い出せなくなり、偽りの姉を家族として自分は受け入れてしまうのではないかと考えたロランは、底知れぬ恐怖が沸き上がってきているのだ。
今まで生きていて感じた事が無い得体のしれない恐怖を抱き、ロランは先程から身震いが止まらないのだ。手を回して止めようとしているのだが、それは全く止まらない。息も荒くなっており、過呼吸になりかけていた。
「ロラン。大丈夫よ」
「……お母さん?」
恐怖に怯えるロランを優しく抱き締め頭を撫でるミカ。母親の温もりを感じたロランの身体の震えは収まり始めた。
「私達もあなたを守るわ。だから安心して。あんなふざけた奴になんか、ロランは渡さないから」
「そうだ!ロランの姿を変えたあいつを一回ぶん殴らないと、俺の気が収まらねぇよ!」
「ブライ、気持ちは分かるがティアナとやらに不用意に近づくでないぞ。魔法を使われたら、お前も女性に変えられてしまうからの」
「そんな事は百も承知だ!でもな、子供が連れ去られようとしてるのに何もしないのは親じゃねぇよ!!」
「そうかそうか。……さて、私も孫の為に頑張るとするかの」
「お父さんもお婆ちゃんもありがとう。こんな僕の為に……」
「何言ってるのよ?自分の子供が危ない目に会おうとしているのに、何もしないのは親じゃないわ」
「……お父さんとお母さん、同じ事言ってるよ」
性別と容姿を変えられてしまった自分を守ろうとしてくれる家族の無償の愛情に、ロランの心は恐怖よりも安堵感に満たされて、身体の震えは止まったのだった。
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ロランが自分の家族の愛情に安堵している様子を、そこから遠くに生えている一本の木の枝の上で、双眼鏡を覗きながら憤怒の表情を浮かべて見ている一人の女性が居た。
「……あいつらぁ、何で私の妹を汚い手で触ってるのよぉ!!あの子の頭を撫でて良いのは、お姉ちゃんである私だけなのにぃぃ!!!!」
怒りで手に持っている双眼鏡を握り潰そうとしている銀髪の女性は、ロランの性別と容姿を変えた張本人であり、騎士団から犯罪者として追われているティアナだ。
「私は早くあの子を助けなきゃいけないのにぃ、何で騎士団がこの村に居るのよぉ?全然動けないじゃないぃ!」
ティアナは自分の妹として認識したロランを救おうとして動こうとしたのだが、彼女の予想よりも速く騎士団が村に現れたので身を隠せざるをえなかった。もし自分が騎士団に捕まったらロランを救えないだけではなく、隠れ家に居る妹達が悲しむだろうとティアナは考え、身を隠しているのだ。
……ティアナからすれば自分の妹を助けようと奮闘しているだけなのだが、常人からすれば見ず知らずの他人を、性別と容姿を強制的に変えて連れ去ろうとしている誘拐犯にしか見えない。
「……こんな事になるんだったらぁ、あの時すぐに運べば良かったんだぁ。そうだったら今頃はぁ、皆にあの子を会わせられたのにぃ!!」
ティアナは自分が速く行動していなかったから、このような結果を招いたのだと後悔していた。
ロランとティアナの二人の出会いをまとめると、ロランは朝から農作業に従事していて、それが一段落したので休憩していたが、村から普段と違う音がうっすらと聞こえ、何かが起こっていると感じ、作業を中断して村に戻ろうとした時に近くの茂みから出てきたティアナと邂逅したのだ。
この時のロランは、ティアナの事は道に迷って茂みから出てきた人だと思って助けようと近寄るが、この時に魔法を掛けられ性別を変えられて気を失い、容姿も変えられたのだ。
ティアナは気を失っているロランの髪が金色になったのを見た後に、瞼を開いて緑色の瞳を確認するとロランの事を妹だと認識する。その後はロランの顔や髪を触り、匂いを嗅いだりした。それらをひとしきり終えたティアナは隠れ家に連れていこうと革袋を取り出した。
彼女が使用する洗脳魔法は対象が意識を失っていると効果が無いので、毎回性別を入れ換えて気を失わせては革袋に入れて隠れ家に運んでいる。その後、意識を取り戻したら自分の事を姉と思うように洗脳しているのだ。
今回も同じようにロランをそこに入れ、持ち上げようとした時に騎士団の団員達とブライとミカが畑にやって来たので、彼女は自分は捕まってはいけないとロランを置いて逃げたのだった。
周囲に誰も居ない事を確認して畑に戻って来たティアナだが、そこには既にロランを入れてあった革袋のみが残されているだけであり、どこに居るのかと身を隠しながら双眼鏡で探していると、ミカに抱き締められて頭を撫でられているロランの姿を見つけて、現在に至る。
「私一人じゃあの子を助けるのは難しいかなぁ。いつの間にかぁ、騎士団があちこちに居るしぃ、……皆に協力して貰わないといけないかなぁ?」
身を隠しながら双眼鏡で村のあちこちを見ていると、騎士団が忙しなく動いているのが確認出来た。それを見てティアナは村の警備が厳しくなっていて、一人でロランを救うのは困難だと判断した。
自分の隠れ家に居る妹達に協力して貰えばロランを助けられる可能性が上がるかもしれないが、彼女達を危険な目には会わせたくないのがティアナの本音である。……しかし、妹達に協力して貰わなければロランは救えないというジレンマを抱えて悩んだティアナであった。
「……仕方ないけどぉ、皆に協力して貰おうっとぉ!!」
少し悩んだティアナは妹達に協力して貰おうと決断すると、身を隠していた木から飛び降りて行動を開始した。
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騎士団の団長はロラン達と別れた後に団員を一ヶ所に集め、作戦会議をおこなっていた。
「ティアナはロラン君を連れ去ろうとしているので必ずこの村のどこかに現れる筈だ。そこを狙えば奴を捕まえられるのでは?」
「……しかし、奴がいつ、村のどの辺りに現れるのかなどは分からない。索敵の為にこれ以上人員を割くのは難しいぞ?」
「だが、迎え撃つ為の準備などもあるからな……」
団員達は各々に案を出しあっているのだが、どこに居るか分からないティアナを警戒しながら彼女を迎え撃つ準備をするなど難しい選択をしなければならず、名案は一向に浮かばないまま時間だけが過ぎていった。
「団長!大変です!」
「どうした!?何があった!?」
作戦会議が進まない中で、一人の団員が団長の元に駆け寄ってきた。
「ロラン君が居る部屋に、このような紙が投げ込まれたようで、これを村長が見つけたようです」
「これがか?一体なんだ?」
駆け寄ってきた団員の手には一枚の紙が握られており、何やら文字が書かれている。団長は団員から紙を受け取ると目を通す。
「……成る程、これはロラン君の誘拐予告という訳か」
団長は紙に書かれた文章を読んで、それがロランを誘拐すると予告している文章だと判断した。その紙には、このような文面が書かれていたからだ。
───五日後の満月の夜、この世で一番穢らわしいお前達が連れ去った私の新しい妹を返して頂く為に、姉妹全員揃って村に参ります。私の妹が穢れるから、お前達はこれ以上近付くな!!
投げ込まれたであろう紙にはこう書かれており、この内容が本当ならば五日後の夜に彼女は村に現れると書いてある。しかも、現れるのは一人ではなく姉妹揃ってと書かれているので、今までティアナが洗脳してきた女性も全員で村に現れるとも書かれているのだ。
ティアナはロランを本当の家族の元から連れ去ろうとしているのに、彼らの方が自分の元からロランを連れ去ったと堂々と書けた事に団長は怒り心頭であり、こんな事を書いた彼女を許すつもりは毛頭無かった。
事実として、ティアナは何人もの男性を女性へと変貌させて洗脳して連れ去っているが、その中には家族や恋人が居る男性もおり、残された者達は絶望して立ち直れない者が多かった。今も悲しみの渦中にある彼らを救うには、一刻も速くティアナを捕らえなければならなかった。
「団長、これは罠ではないでしょうか?」
一人の団員が罠の可能性がある事を指摘するが、団長は首を横に振って否定する。
「いや、前にティアナはこのような手紙を書いて実際にその通りに現れたと聞いている。今回もその可能性は高い」
以前、ある男性を女性に変えた際に手紙を出し、手紙に書かれた内容通りに現れたと団長は聞いていた。今回もそれと似たような状況になっているのだ。
「……だが、これが罠の可能性も捨てきれないな」
しかし、これが罠ではないのかと勘ぐってしまうのが普通であり、団長も例外ではなかった。五日後の夜に来ると言っておいて、今晩やって来てもおかしくはない。ティアナのような犯罪者が約束を守るとは限らないからだ。
「仕方がない。現状ではとても難しいが、ティアナの行動を警戒しつつ迎撃の準備を行う。奴の出方が分からない以上、これしか方法はないだろう。各員、警戒は怠るな!」
「「「「「了解!!」」」」」
しかし、これ以上悩んで時間を浪費するのは良くないと考えた団長は、この作戦を行う事に決めて団員達に指示を出したのだった。
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ロランが少年から少女へと変貌した事は村中に伝わった。自分の家に避難していた村人達は、彼がどのような姿になったのか気になって仕方がなくなってロランに会いに行き、十人十色の反応をしていた。村人達の様子を見たロランは少しだけ元気になり、笑顔が出るようになった。
そして、最後にロランに会いに行ったのは、
「……ねぇ、あんたは本当にロランなの?」
「うん。こんな姿になっちゃったけど、僕なんだ」
ロランの幼馴染であるノエルであった。最初は周囲は何を言っているのか全く分からなかったのだが、どうしても気になったので行ってみると彼女が普段見慣れているロランの姿はなく、一人の少女が居たのだ。それがロランだと分かると、ノエルはとても驚いていた。
「……何で?」
「何でって、僕がさっき話した通りの事が起こったんだよ」
そう呟くノエルに、ロランは先程話した通りの事が自分の身に起きたと話すが、彼女が気になったのはそこでは無かった。
「……それにしてもさ、この姿になったから分かったんだけど、女の子って色々と大変なんだね」
「何がよ?」
ロランは今まで男の身体であったので女の身体の事は分からなかったが、姿を変えられて初めて気づかされた事があったようだ。
「この胸の事なんだけどね、大きいから結構重いんだよ。ノエルも分かるでしょ?」
「…………」
「あれ?どうしたの?」
ロランは大きく膨らんだ自分の胸を持ってノエルに同情を求めるが、彼女からの返答はなかった。
それは何故かというと、……ノエルの胸は女になったロランの胸の半分の更に半分程度の大きさしかなく、本人はそこ事をとても気にしているのだ。ロランはどうして返事が無いのか気になったが、今のロランに年頃の女の子の気持ちを理解する余裕は持ち合わせていなかった。
「……のよ」
「え?」
「ロランのくせに、何でこんな立派な物を二つも持ってるのよぉーーーーっ!!!」
「ちょっ!?なに!!?」
ノエルはロランに掴みかかろうと向かっていくが、ロランは彼女の手を掴んで何とか止める。そのまま二人は、手を押したり押し返したりする攻防を始めた。
……ノエルが一番気になったのはロランが女になったのではなく、今のロランの胸が自分のよりも遥かに大きいからだ。大きい胸を見せつけるような行動をしたロランも悪気は無かったのだが、それがノエルの逆鱗に触れてしまったのだ。
「待ってよ!僕だって持ちたくて持ってるわけじゃ、……あっ!?」
「あがっ!」
ロランは腕に力を入れていて気づかなかったのか、ロランが着ている服のボタンの一つが弾け飛ぶ。そこは胸の部分のボタンであり、ロランの性別が変わった事で左右に強く引っ張られていたが、二人の取っ組み合いによって、更に強く引っ張られて限界を迎えたようだ。弾け飛んだボタンはノエルの額に当たって、彼女は後ろに仰け反る。
「……ノエル、大丈夫?」
二人の手は繋がったままであるが、ボタンが当たったノエルが心配になって声を掛けるロラン。だが、それは逆効果だったようだ。
「きいぃぃぃぃーーーーーーーっ!!!!!!」
「お、落ち着いてってばーー!!?」
ロランの行動が彼女の神経を逆撫でしたようで、激しい取っ組み合いへと発展する。
その後、騒ぎを聞き付けたブライとミカによって二人の取っ組み合いは何とか収束したのであった。
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ノエルはロランと取っ組み合いをした後は引き離され、ブライとミカの二人によって強制的に部屋から追い出された後は自分の家に帰って来た。ノエルの両親は村の外へ出稼ぎに行っているので誰も居ない。それが分かっている彼女は部屋に直行してベットに突っ伏した。
「ロランの奴、何で女になってるのよ!今日こそは鈍感なロランにも分かるように告白しようとしてたのにっ!!」
ベットに突っ伏しながら絶叫している。ノエルの反応から分かるように、彼女はロランに好意を抱いているのが明らかなのだが、ロランは恋愛などに対しては超が付く程の鈍感なので、ノエルの恋心に彼は全く気づかないし気づけない。また、ノエルも彼の前に立つと言いたい事が言えなくなるなど、何故か素直になれないのだ。
今日こそは告白して気づかせようと息巻いていたノエルだったが、ロランが女に変えられてしまうという予想だにしない出来事が起きてしまったので、それどころではなくなってしまったのだ。
「あぁもう!……でも、女になったロラン、すごく可愛かったなぁ~。……胸が大きいのは気に喰わないけど」
絶叫した後は女になったロランの事を思い出して悶絶しているノエル。彼女から見て今のロランの姿はとても可愛らしかったようだ。……胸が自分よりも遥かに大きくなっていた事を除いてだが。
「……それよりも、ロランは本当に元に戻れるの?」
先程から様々な反応をしているノエルだが、ロランが男に戻れるのかどうかが急に心配になる。
「ロランは女のままでいい気がしてきたけど、それだと告白は出来ない。今のロランは可愛かったけど、あれだけ胸は大きいのは絶対に嫌……。私はどうすればいいの?」
何とも言えないもどかしさを抱えるノエル。彼女は何も答えが導き出せないまま、時間だけが過ぎていった。
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ロランは恋愛には超鈍感な少年から、金髪巨乳の少女へと変わりました。
ノエルはロランの事が好きなツンデレ貧乳少女です。
ティアナは某ゲームに出てくる姉を名乗る不審者を基にした人物で、それを狂化させました。……強化ではなくて狂化です。