起
今書いている小説の展開の良い案が全く思い付かないのに、何故かこちらがどんどん思い付くという謎現象が起きました。でも、せっかくなので投稿してみます。
この小説は、TSと性転換と姉を名乗る不審者のタグを見て思い付きました。
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ここは周りを山や森に囲まれており、農業が盛んな事以外は特にこれといった事が無い一つの村。そこに存在する畑の一角では、一人の少年が今日も農作業に勤しんでいた。
「さてと、ここを耕したら次は種を蒔いて水やりだね」
短くまとめられた茶色の髪の少年、ロランが作業の段取りを確認しながら鍬を振るって土を耕している。彼は若いながらも農業や家事や料理以外の事には関心が薄くて興味があまり湧かない者であり、同い年の者達からは変わり者だと言われているが、本人は特に気にしていない様子であり、今日も今日とて農作業に精を出している。
若者の多くは、この村のような田舎ではなく都会に出て働きに出て行くのだが、ロランは自分は村で農作業していた方が性に合っていると周囲に話していた。村の若者の多くが外に出ていくのに対して、彼は村に留まって働く選択をしたのだ。
「今回のトマトは実りが良かったけど、カボチャは思ったより収穫が少なかったから、次は肥料を多く入れようかな」
ロランが丹精込めて育てた農作物は、この村や近隣の村でも良い評判になる程の高い品質であり、その評判は既に広範囲に拡散していて、一流の料理人などが村に足を運び、彼から直接買い付けに来る程の人気である。ロランが育てた作物を自らの目で見定めて、予想より高い品質に驚く者が続出しているのだ。
ロランは自分が育てた農作物を彼らに高値で売り付けて利益を貪るような事はせずに、市場で出回っている価格と同じ値段で売っている。また、農作物を求めに来た全員に行き渡るように平等に分配して行き渡らせているのだ。彼は利益や効率よりも、自分が作った農作物を求めて村にやってきた人達の笑顔を見れるのが楽しみの一つになっていた。
「お、ロラン。今日も頑張ってるね」
「精が出るね。お疲れさま」
「ありがとう。僕の取り柄っていったらこれしか無いからね」
「何言ってるんだよ。ロランがこうやって頑張っているおかげで他の村とかからの評判が良いんだよ」
「村長も鼻が高いって言ってたよ。良く出来た孫だって自慢してたし」
「お婆ちゃんが?なんか照れるな……」
この村で同じく農業を勤しんでいる大人達がロランを見掛けて、真面目に働く彼を労う。彼らは幼い頃からこの村で農業を勤しんでいるのだが、自分の子供達が農業を継がないで都会に出ていった者が多かった。そんな中で農業でひた向きに働くロランに対して期待と感謝しかなかった。村の評判が良いのはロランのおかげだと、村長が胸を張って自慢していたと大人達は彼に話す。
また、彼らの話から分かるようにロランの祖母は村長であり、孫であるロランは働き者でしっかりしていると口癖のように言っていた。子や孫の事を鼻高々に自慢する者は周囲から嫌がられるのが殆んどなのだが、彼女が村長である事を差し引いても嫌がられる事は全く無かった。
「実際のところ、ロランのおかげで農作業がものすごいやりやすいから大助かりだよ。前に貰った草刈り機っていうやつなんか、俺の広い畑にあった雑草をあっという間に全部刈ったんだからな。あれが無いと一日で終わらないから本当に助かったよ」
「あ、あれは確か、半年前に買いに来てた料理人の知り合いの魔法技師の人が作ってくれたんだよ」
「私のところにある水撒き機ってのも助かってるよ。本当に便利な物を使わせて貰ってるよ」
「なあ、俺達が使ってるけどよ、ロランは使わないのか?使うと本当に便利だぞ?」
「それなんだけど、……僕は出来るだけ自分の手だけでやりたいから、みんなが使ってよ」
ロランが育てた農作物を求めてきた者達は、高い品質の割りには安い値段で売っている彼に対し、何かお礼をしたいと申し出ているが、ロランは自分の仕事をしただけだからと丁重に断っている。だが、それでは彼らの気が済まないので食い下がっていると、ロランは村にある水車などの設備の修理や作業が楽に行える農機具を作製して欲しいと彼らに頼んだ。
本来なら大規模な設備の修理には莫大な費用がかかり、魔法で動く農機具などは高値で取引されているのでロランのような若者が代金を全て支払うのは到底不可能なのだが、彼らはそれをほぼ無料で引き受けたり譲り渡している。ただ、ロランは受け取った農機具を自分が使うのではなく、農作業を行うのに身体が動かすのが辛くなってきた者や大量に作物を育てている者に自分は使わないので是非使って下さいと言って渡している。
「ロラン、あなたは本当に立派ねえ」
「俺の息子達も見習って欲しいもんだよ。農業なんてダサいって言って、あっという間に都会に行っちまったし……」
「そうかな?僕にも皆にもそれぞれ自分の人生があるんだし、自分の生きたいように生きれば良いと思うよ。……僕はこれなんだけどね」
大人達はロランを褒めたり、自分の子供がロランの事を見習って欲しいと嘆くのだが、彼は村に残るのも都会に行くのも人それぞれだと言う。
「あ、作業の邪魔して悪かったな。俺達も作業に戻ろう」
「そうじゃあロラン、頑張ってね」
「ありがとう。頑張るよ」
話が長くなったようで、彼らはここで切り上げてそれぞれの作業に戻って行く。ロランも止めていた自分の作業を再開した。
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今日の作業を終えたロランは、家路についていた。
「今日の作業も終わりっと」
ロランはほぼ毎日このような同じ生活を繰り返しているのだが、彼は満足している。自分のやりたい事をして、それで人が笑顔になるのなら、こんなに嬉しい事は無いとまで思っている。
「……あんた、毎日同じ事してるのに本当に飽きないわね」
ロランが家路についている途中で一人の少女が彼に声を掛けてきた。彼女の名はノエル。うなじまで伸ばした茶色の髪で中性的な顔立ちのノエルは、ロランの幼馴染である。
「ノエル、どうしたの?そういえば、そろそろ都会に行くって言ってなかったっけ?」
「うるさいわね!いつ行くかは私の勝手でしょうよ!」
「それもそうだね」
「……ったく、人の気も知らないで」
「え?何か言った?」
「何でもないわよ!」
ノエルは都会に行くと言っていたのをロランは何度も聞かされていたのだが、一向に都会に行かない彼女は何故か毎日のようにロランの元に現れては彼に突っ掛かってくるのだ。
「そ、それじゃ私は帰るから!あんたもさっさと帰りなさいよ!!」
「うん。またね」
ロランと少し話をしたノエルは用が済んだのか、そそくさと自分の家に帰っていった。
「……何で毎日僕の所に来るんだろう?全く分からないや」
ロランはどうしてノエルが毎日自分の元にやってきて、少しの時間話をしては帰っていくのを繰り返している行動の理由が検討もつかなかった。
……ロランは気づかないし気づくことは無いだろう。幼馴染のノエルがこのような行動を取り続けているのは、彼女が内に秘めている一つのある感情から来ている物だということを彼は知らない。主に農業にしか興味を示さない彼は、それ以外の事にはとても鈍感なのだから。
「まあいいや、帰ろう」
分からない事を気にしても仕方が無いと、ロランは家へと帰っていく。彼はこんな日々が多少の変化がありつつも続いていくと思っていた。
……しかし数日後、それらの一部は彼の予想以上に一変する事となる。
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ある日の昼前、村は誰もが経験した事が無いであろう物々しい雰囲気に包まれていた。
「皆さん!決して家から出ないで下さい!」
「窓も閉めて下さい!絶対に外を覗かないで下さい!」
この日の村にはいつもの村人達の賑やかな声ではなく、近くの街からやって来た騎士団の団員達の張り詰めた声が響いている。彼らは村を駆け回りながら、村人に対して家から出ないように呼び掛けていた。
「この村の近くに奴は必ず居る!部隊を複数に分けて探しだし、絶対に身柄を拘束しろっ!!」
「「「「はっ!!」」」」
騎士団の団長が部下に指示を出し、団員達は数人の集団に分かれて四方八方に散っていく。
「団長さん、先程の話は本当なのですかね?」
「村長殿、その通りです」
部下に指示を出した団長に、一人の老婆が近付いてくる。彼女は村の村長であり、ロランの祖母でもある。村長は先程の話が本当なのかを団長に尋ねた。
「今、国中を大いに騒がせている犯罪者が村の近くに潜伏しているとの情報が我々の元に先日入りました。目撃情報も複数有りましたので確実に奴は近くに居ます」
国中で話題になっている一人の犯罪者が村の近くに潜伏しているとの情報を騎士団が入手し、そいつを捕まえる為に彼らは村にやって来たのだ。
彼から話を聞いた村長は村人達に被害が及ばないようにすぐに村中に知らせて、家から出ないように村人達に呼び掛けたのだった。
「……大変申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに」
「何故、団長さんが私に謝るのですか?」
「奴は以前にも私の前に現れまして、捕まえようと策を練って実行したのですが奴の方が一枚上手でして、捕まえ損ねてしまったのです。本当に申し訳ない。私がもっとしっかりしていれば……」
団長は頭を下げて村長に謝罪する。騎士団は以前その犯罪者をあと一歩の所まで追い詰めたのだが、逃げ足が速い為に捕まえられなかったのだ。あの時に捕まえていれば今のような事は起こらなかったと団長は悔やんでいた。
「頭を上げてください団長さん。……過去は悔やんでも決して変わりません。大事なのは今何をすべきか、ですよ。それによって、これからは変えられます」
「……そ、そうでしたね。ありがとうございます!」
「いえいえ。ただの年寄りの助言ですよ」
村長の言う通りで過去は何があろうとも変えられない。だが、今何をすべきかで未来は変えられると団長に伝えると、彼は悔やむよりも行動を起こすべきだと考えを改めた。
「母さん大変だ!!」
村長と団長の二人が居る場所に、一組の夫婦が血相を変えて現れた。彼らは村長の息子である夫のブライとその妻であるミカだ。
「ブライにミカ、一体どうしたのだ?」
「ろ、ロランが、ロランがまだ帰って来ていないんだ!!」
「本当か!!?村中に知らせを出したのだぞ!?全員が聞いた筈では!?」
「お義母さん、ロランは朝早くに家を出て畑に向かったの。もしかしたら村の今の状況を知らないと思うわ」
ロランは今朝、日が昇り始めた頃に家を出て畑に行き、今も農作業をしている。彼が居る畑は村の中心から少し離れた所にあり、村が多少騒がしくなってもそこでは聞こえにくい。ロランは今の村の様子を知らずに農作業を続けているだろう。ひたむきに農業に向き合う性格がここに来て仇となった。もしかしたら犯罪者の魔の手がロランに及ぶのではないのかと思い、二人はいてもたってもいられなかった。
「あなた急いで!時間が無いわ!」
「分かってる!母さん、俺達は行ってくるから!!」
「待って下さい!あなた達だけでは危険です!奴はどこに潜んでいるのかがまだはっきりとしていません!……お前達、二人の護衛を頼む!」
「「了解しました!!」」
ブライとミカは息子のロランの身を案じて向かおうとするが団長に引き止められる。二人だけでは危険だと判断した彼は部下に二人の護衛をするように指示を出す。
「奴が使う魔法には絶対に当たらないで下さい!当たれば取り返しのつかない事になります!」
「今は話している時間が無いので詳しくは言えませんが、十分注意して下さい!」
「「わ、分かりました!」」
「それで、彼が居る畑はどこですか?」
「こちらです!」
二人の団員から潜んでいる犯罪者の情報を聞かされて不安になるブライとミカであるが、一刻も早くロランの元に向かう為に護衛をしてくれる団員と共に走り出した。彼らの二人の後ろをブライとミカが着いていく形で畑に向かっていった。
しばらく走っていると、ロランが居るであろう畑が見えてきた。
「あそこです!」
「分かりました!お二人は決して私達の前に出ないで下さい!」
ミカが畑の方を指を差して、あの場所だと団員の二人に伝えた時だった。
「うわあああぁぁぁぁーーーー!!?!?」
向かっている畑の方角から一人の悲鳴が上がる。
「「ロラン!!」」
「落ち着いて下さい!!私達の前から決して出ないで!!」
先程の声の主が、すぐに自分達の息子であるロランだと分かった二人はその場所に向かおうと飛び出すが、団員達に止められる。
「止めないでくれ!ロランが!!」
「お気持ちはお察しします!ですが、このまま向かえばあなた達にも被害が及んでしまいます!」
今にも向かいそうなブライとミカを宥める団員達。団長から二人の護衛を任された彼らは、何があっても絶対に二人を守らなければならないのだ。焦る気持ちを何とか抑え、四人は畑に足を踏み入れる。
「居たぞ!奴だ!」
「あの顔は間違いない!」
「えっ!?もう来たのぉ!?早すぎぃ!!?」
畑には居るであろうロランの姿はどこにも無く、代わりに銀髪の一人の女性が居て、その足元には大きく膨らんだ一つの革袋があり、彼女はそれを持とうとしている所であった。その革袋の中身は開けなければ何が入っているのかは分からない。
そして団員達は、自らの予想よりも速く誰かがこの場所にやって来た事に驚いている女性の顔を見て、彼女が自分達が血眼になって探している奴だと確信した。
「……お姉ちゃんはここで捕まる訳にはいかないのぉ。だからぁ、連れて行けなくてごめんねぇ!あなたを必ず迎えに来るからぁ、良い子で待っててねぇ!!」
大きな革袋を持ちながらは絶対に逃げ切れないと分かった女性は革袋の中に居る何かに対して、独特な話し方で必ず戻って来る事を約束すると、一人で木々が生い茂る方へと逃げだした。
「待てっ!」
「俺が奴を追う!こちらは任せるぞ!」
「分かった!」
団員は二手に分かれ、一人は先程の女性を追い掛けていき、もう一人は地面に置かれたままの革袋の中身を確かめる為にそれに近づいていく。
「「ロラン!」」
「待って下さい!私が開けます!」
大きな革袋に近寄るブライとミカ。二人は目の前にある革袋の中に入っているのがロランだと確信していた。二人が革袋に触れようとするが団員が割って入り、革袋の口を開けていく。
「ロラン!……えっ?」
「い、……一体どういう事だ?」
団員が革袋を開け終わると二人は中に居るロランに呼び掛けるが、思わずそれを止めてしまう。何故ならば、革袋の中から出てきたのは息子ではなく全く知らない別人だったからだ。革袋の中に居た者は呼び掛けには反応せず、意識を失っているようだ。
「おい!そっちはどうだ!?」
先程逃げていった女性を追い掛けていった団員が、この場に一人で戻ってきた。
「奴はどうしたんだ!?」
「すまない!追い掛けたんだが途中で見失った!」
「お前でも追い付けなかったのか……」
先程の女性を追い掛けていった団員は足の速さには自信があり、逃げる者の捕縛によく名乗りを上げるのだが、今回は相手が悪かったようで女性を見失ってしまい、追跡を諦めて戻ってきたようだ。
「俺は応援を呼んでくる!」
「分かった!ここは任せてくれ!」
見失った女性を探しに行くよりも応援を呼ぶのが先決だと考えた二人は再び分かれて行動を開始した。
「ロラン、どこに居るの!?」
「……ちょっと待て、ミカ!」
ロランを探しに行こうとするミカを、ブライは何かに気づいて引き止める。
「あなた何言ってるの!?急がないとロランが!!」
「いいからこれを見てみろ!……何か思わないか?」
何故引き止めるのかを問いただすミカだが、ブライは気づいた事を教えようと、革袋の中に居た人物に向けて指を差す。
「こ、これって……!?」
「ミカも気づいたか?」
「ええ。……でも、どうして?」
「俺も分からない」
ブライが気づいた事にミカも気づいたようで驚きを隠せない。革袋の中に居た人物の服装に見覚えしかなかったからだ。何故という疑問が二人の頭の中を生まれ、それがどんどん大きくなっていく。
「大丈夫ですか?応援が間もなく来ますので、二人は私から離れないで下さい!」
団員は行方が分からない自分の息子を探しに行こうとしていると思って、二人に離れないように呼び掛けるのだが、その二人は生まれた疑問によって一歩も動く事が出来なかった。
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「…………ここ、は?」
ロランの意識が僅かに覚醒する。どうやら自分はいつの間にか気を失っていたようだと、ぼんやりと理解した。……それと同時に奇妙な身体の違和感を覚える。
「どうやら、目を覚ましたようです」
誰かの声が聞こえると複数の人の自分に近付いてくる足音がロランの耳に入ってくる。
「怪我は無いか?」
「大丈夫?ここは村の診療所よ」
二人の男女がロランの顔を覗きこんでくる。彼の父親であるブライと母親であるミカだ。そしてここは、村に唯一ある診療所だと伝えられた。
「……おとう、さん?おかあ、さん?」
視界が定まっていないので二人の顔がぼやけて見えているロランは、二人に対して返事とも取れる答えを返すが、その二人の顔は困惑の表情を浮かべていた。
「……ロラン、なのか?」
「本当に、ロランなの?」
「……なに、いって、るの?」
ロランの意識はまだはっきりとしていないので頭が回らないのだが、二人は何故か息子であるロランの事が認識出来ていないようだ。
「自分の名前は言えるか?」
「……ロラン、だよ?」
何故か自分達の息子である名前を改めて聞くブライ。理由は分からないが、ロランはとりあえず自分の名前を言うと、二人はそれが信じられないという表情をしていた。
「あなた、この子はやっぱり……」
「まさか、何で……」
二人が何を話しているのかが分からないロランは、ようやく意識がはっきりとしてきたので横になっている自身の身体を起こす。
「………え?何これ?」
身体を起こしたロランは、この時になって先程からの奇妙な身体の違和感の正体に気付かされる事となる。
今まで感じた事の無い重量感と圧迫感が胸部にあり、視線を下に移すと気を失う前から着ている農作業に適した服のボタンを、今にもはち切らんとばかりに胸が大きく膨らんでいるのだ。
毎日のように農作業を従事していた事によって日に焼けていた肌は綺麗になっており、今は腕の肌だけしか見えないが元の色より綺麗になっている気がして、少し細くなっているようだ。
腰の辺りが何かにくすぐられるような感覚があり、右手を伸ばして掴むと触り心地からそれが髪の毛であると分かった。ただ、自分の髪の毛の長さは腰までは無かった筈なので、目の前に持ってくると色は茶色ではなく金色だった。
そして、一番の違和感は自分の下腹部、……正しくはそこよりも少し下と言うべきか。男なら有る筈の物の重さを先程から全く感じないのだ。ロランは恐る恐るその場所の感触を確かめる。
(…………な、無い!無くなってるっ!!何でっ!!?)
そこには絶対に有る筈の物が、跡形も無く消え失せていたのだ。戸惑うロランは、自分の身に起きている事に理解が追い付いていなかった。
「……鏡ってある?」
「鏡?えっと、……これよ」
ミカは偶然近くにあった手鏡をロランに渡し、受け取ったロランは手鏡を覗きこむ。
「……これが、僕なの?あれ?声が高い……」
ロランが持っている手鏡に映る人物は、茶髪で茶色の瞳の少年ではなく金髪で緑色の瞳の少女であり、鏡に映る少女はロランの口の動きと同じ動きで言葉を発している。更にロランは自分の声が普段より高くなっている事に気づかされた。
「これはやはり……」
「団長、奴の仕業で間違いないでしょう」
騎士団はこの原因が奴の仕業だと確信し、団長がロランに近寄る。
「ロラン君だったね。今から私が話す事を心して聞いて欲しい」
「……な、何でしょうか?」
これから話す事は自分の事だろうと思ったロランは一体どんな事なのだろうと身構える。
「……君は私達が追い掛けている犯罪者の一人、魔法使いのティアナの性別反転魔法によって、女性に変えられてしまったのだよ」
騎士団の団長が話した内容とは、男であるロランが魔法によって女へと変貌してしまったという驚愕の事実であった。
「えっ?」
「単刀直入に言おう。男だった君は女になってしまったんだよ」
「……えええぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!?!?!!?」
一拍の間を置いて、ロランの絶叫が村全体に響き渡った。
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この小説は全部で四話程度で終わらせます。結末も既に決めています。