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第118話「常套手段」

視点:1人称


 なぁんで、この手段を選んじまったかなぁ……。


 そんな俺の後悔を踏み倒すように、張っても魅力的な女声が響く。


「さあ! 時間だよ! お客に夢を魅せてやりな!」


「「「「「「「「おおおお!!!」」」」」」」」


 よく通る女傑の発破、それに応える一座の歓声。

 次いで、ワッと拡がる観客の驚き。


「イスタニア随一! ジルベスタ一座のお通りだよ!!」


 そうして、なんとも華々しく開始されたのは、とある芸人一座のパレードだ。今後数日間の興行のため、いわゆる客引き目的に大通りを練り歩く、その始まり。


 色とりどりに着飾った一座の女性たち、各々魅力的な男たちが、これみよがしに歩き出す。

 その注目度も桁外れ、遠目にしか見えないが、街の大通りが丸々一座の貸し切り状態。


 中規模程度の街とはいえ、これほどの影響力は尋常じゃない。


 とはいえ、それもそのはず。


 先程、高らかに響いた口上の通り、彼らは()()()()()()一、ニを争う大きな一座。時には国王もお忍びで観に来るような、それほどの人気を博している、らしい。それほど有名な芸人一座だ。


 さっき、女座長のカタリナさんから直々に聞いた。




 季節はすっかり冬を過ぎ、春も盛りの興行シーズン。

 彼らにとって稼ぎ時なのは言うまでもない。


 雪に閉ざされた間の鬱憤を晴らすように、一座の面々は気合充分なのが見て取れる。

 順々に繰り出していく彼らは、目を惹く外見や取って置きの一芸で、観衆を見事に沸かせている。


 みんなこの道で稼いで長いのだろう。

 場慣れした様子で笑顔も完璧。間違いなくプロだ。


 ところで。


 なんでそんなところに俺がいるのか。

 いい加減、気になってくるところだろう。


 まあ、そもそもオルシニアじゃなく、()()()()()()()()という時点でツッコミどころは満載だろうが、まあひとまずそれは脇に置き。


 今の俺の――俺たちの状況は、周囲を無粋な鉄格子で囲まれ、位置的にはパレードの最後尾と言ってもいい場所、そんなところにいる。


 補足すると俺は現在、魔物姿。

 全方位の見通しは、鉄格子さえ無視すればこれ以上なくイイ。


 更には、ココを見ろと言わんばかりの高さであり、俺の足元が成人男性の口元に来る程度。


 ついでにこの檻は台車の上にあり、3頭の馬がけん引する。

 高さもそれなりにあって、要はメッチャ目立つ。


 また、安全設計なんてクソくらえといった適当な造りの御者席で手綱をとって待機しているのは、なんとレイナ。

 例の如く全身黒づくめ、髪も隠した姿。


 それでも、目元が整ってんのは隠せてないし、御者席という位置にいるのもあって、そのミステリアスな雰囲気はきっと人目を惹くだろう。


 そして何より、行儀よくお座りした俺の脇には、金髪もエルフ耳も露わなアルがいる。


 つまり、客観的に表現すれば、身体のデカい猛獣の至近距離に絶世の美青年、しかも檻の中、加えて美貌とは正反対のみすぼらしい格好で(実際のところただの旅装)という、なんとも絵になる?構図になっている、ということになる。


 これで注目されないはずもない。

 今は出番待ちで一座の拠点内だからマシだが、もう間もなく俺たちの入った台車もその安全圏から引き出され、街中を練り歩くことになるわけで――。


 そうなった時の観衆の反応が、どよめきと好奇の視線が、今からはっきりと目に浮かぶ。


 この状況で最早どうでもいいことだが、転生して以来、結構敏感になった俺の聴覚およびその他の感覚が果たしてその歓声と視線に耐えられるのだろうか。俺は今、そんな懸念で頭がいっぱいだ。


『ホントに、これで良かったのかねぇ……』


 思わず俺が呟けば、すかさず二方向から飛んでくるのは鋭い指摘。


「そもそも決断したのは貴方でしょう」


「この期に及んでボヤいてんじゃねえよ」


『うっ。見事な二連撃……』


 隣のアルからも、前方に座っているレイナからも、言葉の刃が突き刺さる。

 二対一はさすがの俺でもダメージは避けられん……。


 更には指摘が事実なだけに、俺は耳を垂れ、尻尾をパタリと揺らすしかできることはない。

 対するアルもレイナもこっちを見ながらあきれ顔。


 ほとんど他人にとっては無表情でしかないだろうが、特にアルの視線は間違いない。

 御者席から振り返っているレイナはもっとあからさま。


 やめろ、そのコンボじゃ俺のHPがあっという間にレッドゲージに突入する。お前ら、俺を何も感じない鈍感野郎とでも思ってんのか?!


 とか、なんとか。

 (やかま)しいおふざけはこれぐらいにして。


 まあ、これ以上明言を避けてもしょうがないので、まずは俺たちが置かれたこの状況をぶっちゃけて総括するとだな。


 今の俺たちは、オルシニアの隣国イスタニアで、なぜか芸人一座イチオシの見世物の1つとして出番を待っているところ、ということになる。


 元はイスタニアの情勢を探る、という有難くも面倒な()()()に端を発しているのだが、その目的のため、取る手段をコレにしたのは間違いなく俺だ。


『――けど、まさか飛び入りの俺たちを、いきなりこぉんな目立つ使い方するとは思わねぇだろ……』


 俺が引き続き文句を垂れれば、レイナが言った。


「あんたのことだから本気で言ってんだろうが、わりと順当な扱いだろ。だが確かに、()()()()()()こうなるのは、あの女座長も思い切りがイイ」


「はぁ……」


 今まで何とか抑えていたんだろう、アルの口からも盛大な溜息が漏れる。


 確かに、アルの()()()()を大真面目に試算すれば、パレードのトリに配置されても可笑しくないのは同意する。


 なにせ絵になるからな。


 さっきからアルが見せている「もう一切がどうでもいい」と言いたげな、物憂げな表情さえ人目を惹く要素にしかならない、といえば伝わるだろうか。


 言葉を選ばずに言えば、エルフ耳も併せ、間違いなく俺の相棒は“極上の商品”だ。


 とはいえ俺の意図としては、見世物になるのは俺だけのつもりだったんだがな……。


 何しろ、地盤のない()()()()調()()。ただ闇雲に旅してまわればいいというわけにもいかず、ある程度の有力な情報を集めたいと思えば、ジルベスタ一座のようなところに紛れ込むのは常套手段。


 元からこういうところには訳アリの人間も多く、ちょっと毛色が違っても多くの場合は寛容で、国の各地にツテがあり、様々な情報が入ってくる。

 即興の潜入先としてはベストと言っても過言じゃない。


 更には、丁度イルドア山脈から下山した先の街に、お誂え向きに大きな旅芸人一座がいるときた。

 まさに渡りに船。


 俺はダメもとで提案したつもりだったんだが、あれよあれよと言う間に話は進み。


 当初の狙い通り外見の珍しい従魔として俺が見世物になるのはもちろん、抜け目のない女座長――カタリナさんによって、アルの容姿も見抜かれ、これはぜひ利用すべきと押し切られ。


 アルもアルで、どうせなら俺と同じ台車が良いとばかりに、横について離れなかった結果、現在に至る。


 ちなみに、従魔の存在が一般的なイスタニアでさえ、俺の様ないかにも獰猛な肉食獣と人間(アル)が同じ檻の中、というのは異様に見えるらしく、その衝撃の光景の最初の目撃者となったカタリナさんは――。


 めっちゃ興奮してた。


 イケる! これはイケるわ!


 って、なんども連呼して。

 思えば、あの瞬間にこの扱いも決まったのかもな。


 幸い、厳重に閉じられたように見える檻は、閉じ込められてる側の俺たちが鍵を持ってるし、あくまでもこれはアトラクション。カタリナさんとはwin-winの契約関係だ。


 取り分も厳密に取り決めた雇い雇われの関係性。

 座長さんが文字通りのオーナーで、俺たちがキャスト。


 とはいえ、キャストの職分として、見世物らしく笑顔の1つでも振りまけと言われたら、アルにとっては地獄に等しい。オルシニアでは亜人と蔑称される耳の方は、イスタニアじゃ物珍しい程度に見えるようだが、この状況では大した違いじゃないだろう。


 一応、この国に紛れ込む、その足掛かりとしての契約相手だが、そうして世話になる以上、ジルベスタ一座の名に間違っても傷はつけたくない。


 だが、できないモノはできないし、最悪の場合はお断りすることも視野に入る。

 そこらへんを確認すべく、俺はレイナに言った。


『なあ、さっき彼女から何か指示もらってたよな。俺たちはただここでじっとしてればいいのか?』


 何しろ、カタリナさんが一座の先頭に向かう前、レイナは彼女と話していた。

 あ、ちなみに男として。


 名前もロズという偽名を使い、執拗なカタリナさんの追及(要はレイナの容姿も商品として最大限活用したいという要望)を器用に躱しながら。興奮冷めやらない座長さんから、何かしきりに言われていたなと訊いてみれば。


 こっちに視線を向けたレイナが、その時の疲労感を如実に表しながら言った。


「ああ。あの女が言う()()とやらじゃ、お前らは亡国の王子とその従魔だと。それっぽく悲壮感だしつつ、あまりやりすぎても湿っちまうから、周囲の音は雑音、くらいの無反応でいろとの話だ」


 いつもの通りだろ。

 そんなことを言うレイナ。


 一方のアルは何か思うところがあったのか、珍しくひそりと口端を上げていた。

 孤児出身の自分が王子役なんて、といったところか、それにしても皮肉な雰囲気なのが気にはなるが――。


 まあ、とにかく。その配役なら確かにほとんど演技は要らず、特にアルに関しては本人の自意識はともかく、元・高貴な血筋と宣伝されても、見劣りする容姿じゃない。


 加えて、周辺国を戦争で次々攻め滅ぼしているイスタニアにおいて、()()()()()と言えるだろう。


 いかにもありそう。


 しかし、それにしても――。


『やけに具体的な指示だな』


 俺が呆れて言えば、レイナが次いで言った。


「ああ、あと、気まぐれに誰かへ視線やるのもコツだとさ。ほんの一瞬」


『……わあ、ありがちな手法』


 いわゆる「ほら、私のこと見たわ!」「いえ、私を見たのよ!」論争を引き起こせと。醜男(ぶおとこ)がやっても寒いだけだが、アルがやるなら確かに効果覿面だろう。


 その本人もどこで聞いていたのか、女座長のプロデュース戦略を口にする。


「そういえば、この通り、格好も初めはみすぼらしく、徐々に飾り立てていく、とか言ってましたね。がっぽり貢がせる、とかなんとか」


『あぁ……、異世界でも実証済みの稼ぎ方……』


 つまり、国を失った捕らわれの王子を私のお金で援助するのよ! という、客が貢ぎたくなる動機の創出、および、衣装チェンジでリピーターを掴み続ける狙い、てところだろう。


 カタリナ座長、徹底して客の心理を突いておられる。


 加えて言えば、そうして客層としてターゲットにできるほど、恐らくは旦那が唸るほど金持ちな、暇した女性がこの街には多いんだろう。国王も見に来るレベルだそうだし、下手すると結構な上流貴族も顧客だったりするはずだ。


 その奥方の財力を狙ったプロデュース……。


 もしかしなくてもこれって、後々面倒なことになったりしない……?

 金に飽かした()()()()()()()()から、無茶な要求されなきゃいいが。


 まあ、その時は俺がちょっと唸れば解決か。


「あの座長、完全に興行の目玉にする気満々だ。覚悟した方がいい」


 俺の懸念を加速させるように、完全な他人事として、憐れむような視線を向けてくるレイナ。

 直後、いよいよ俺たちにも前進の合図がかかり、馬に鞭打った彼女は堂に入った仕草で台車を操作し始める。


 その態度は、いつもの事ながら完全な男にしか見えない。

 強いて言えば少し華奢な青年、といったところ。


 顔もわざと小汚くして下男であることを演出し、対外的な言葉遣いも粗雑なモノ。

 そんなレイナにとって、俺たちの状況はまさしく他人事でしかないんだろう――が。


 しかし、ここでぜひ覚えておきたいのは、そのレイナだってカタリナさんにかかれば、早くも目を付けられていた点だ。


 これだけ周到なあの座長さんなら、レイナも遅かれ早かれ素材の良さが本格的にバレるのはほぼ間違いない。

 長期的な付き合いになれば、レイナの性別もバレやすくなるだろうしな……。


 考えれば考えるほど、彼女も近いうちに俺たちと同じ扱いになる確率は高いと言わざるを得ない。


 そしてもしそうなった場合、謳い文句は差し詰め、“亡国の王子と美しき踊り子~身分を超えた悲劇の恋物語~”とかそんなところだろうか……。


 自分の思考ながら寒気がするが。

 

 最高に見た目だけは絵になる2人にはなるだろうが、本人たちの性格を踏まえれば、その状態を想像するだけで怖ろしい。


 絶対、ブリザードが吹きすさぶだろ、極寒の。

 特にレイナとか、完璧に微笑しながら罵詈雑言を吐きまくりそう。


 よし。


 もし本当にそうなりそうだったら、やんわり止めよう。

 建前上、俺はただの従魔で人間の言葉話せないことになってるけど、アルもオルシニア人なの隠すために話せない設定だけど、そこはなんとかするしかない……!




 ガタガタと台車が街の大通りへ進み出て、予想に違わない大きなどよめきと四方八方からの好奇の視線、「さぁさぁご注目!」と高らかに宣伝する着飾った座長の売り文句。


 それらを全身に受けながら、俺はせめて挙動不審にならないよう、ただひたすら無我の境地であれやこれやと考えていた。


 他人はそれを、現実逃避という訳だが。






 まあ、とにかく、逃避ついでに俺たちがそもそもなぜイスタニアにいるのか、その経緯から振り返っておこうか。





第118話「常套手段」























どうでもいいところですが、漢字が変わって「こうの章」と相成りました!

いきなりな展開ですが、今後の説明にこうご期待!

それでは!


【以下、駄文】


さてさて。

話は変わりますが、第二幕も本格始動ということで、何かしら皆様の御反応を見たいなと思う今日この頃――。

色々考えた結果、「いいね」機能を使ったキャラクター投票的なことをできないか?!と思いつきました。


丁度、拙作にはキャラクターの名前を冠した話が揃っており、そうでないキャラクターもお当番会的な話はあるので、それぞれに窓口を割り振ればいけるんじゃなか?!と!!


ということで、開催します!

第1回 キャラクター投票~!!わー(≧▽≦)(←マジのド深夜テンション)


ぜひ、下記に示す各キャラクターの該当話数でご反応、ご投票ください。


また、ありがたくも既にいいねしてくださっていて投票できないという方がいましたら、一度取り下げたのち、一日ほどおいて再度の投票、または、面倒であれば感想欄へキャラ名のみ、もしくはツイッターへ作品名+キャラ名だけ投げていただくでもかまいません。もちろん不参加でも構いません。


期間は一応、私が次話を投稿するまでとします。

また、ご反応次第では結果を公表いたします(これで一切の無反応だったらどうしましょうww(^^;))


とはいえ、元よりざっくりとした集計になりますし、実質無期限と捉えてます。ぜひいつでもご参加ください。


それでは、以下に割り振りを記載いたします。


==============

第2話 → アルフレッド

第6話 → 宵闇

第14話 → シリン

第34話 → 月白ハク

第39話 → グスターヴ

第51話 → 真緋ディー

第55話 → イサナ

第62話 → 青藍アオ

第63話 → 自称・神

第66話 → ルドヴィグ

第67話 → イネス

第68話 → ウォーデン

第76話 → ベス

第77話 → ローランド

第78話 → エドガー、マティ(New!)

第82話 → リアム

第85話 → レイナ

第94話 → 麗奈

第102話 → アラン、セリン

第111話 → キリアン

第112話 → アイリーン

==============


以上です。


名前をつけたキャラクターは、こいつも?って奴まで、ほぼすべて出したつもりです。

あとはディーの大事な彼女(故人)とイルドア辺境の村に住むラルフさんくらいですかね。たぶん。

ルドヴィグの騎士団員数名と、名前のない男たちも数人いました。


あ、あとは今話のカタリナ座長か。

まあ、彼女は容姿も未登場なので除外します。


それでは、1人1キャラクターに1票、複数投票可として振るってご参加ください。

結果を楽しみにさせていただきます。


それでは!


2023.6.22

追記

エドガーさん、マティさんを入れ忘れてました!!

痛恨の極み!orz!!

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[良い点] 第一回キャラクター投票 アルフレッド 宵闇 ディー イサナ イネス ベス ローランド レイナ 麗奈 エドガー マティ でお願いします。
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