Vol.11 マナビス
《第4話 マナビス》
某日、朝10時。タバレス第1ダムで午前中の放流が行われた。このダムにはその放流を見ようと、日々多くの観光客が訪れる。その中に地球から転生してきた山口沙里もその中に紛れていた。そんな彼女の目的はそこで働いているゲレンに会うことである。
「コンコン。山口です。あの~ゲレンさんいらっしゃいますか」
「はい、ゲレンですが... あっもしかして山口さん?」
「そうです、今日はよろしくお願いします」
「今日だけじゃないんだけどね、ワハハハハハ。で、せっかく山口さんもちゃんと来てくれたことだし、君の育成計画表を渡しておくよ」
それはゲレンが丸1日かけて作った、5枚のA4用紙の両面に緻密に書かれた山口自身の計画書だった。
「うわ、こんなにも詳細に…でも、一つ気になることがあるんですけど...『水の勉強』って?」
「水はなぜ存在するか、あなたはきっと知らないでしょう。水はとても有限です。でも水がないと生きていけない。それを念頭にあなたを強化していきたいと思っています。で、分かりました?なぜ水が存在するのか」
「は、知らんし。そんなのどーでもいいじゃん」
「適当でいいから言ってみてくださいよ」
「雨とか降ってるからじゃないんですか」
「まあ、それは物理的な話でしょ。今は物理的な話じゃないんだよ。まあ君も面倒くさそうにしてるから答えをいうけど、水というのは、タバレス古来の水神様・マナビス様々が産み出した素晴らしい文明そのものなんだ」
「ヘー。でもさぁそんなの分かるわけないじゃん」
マナビスは本当に話を聞く気が失せて貧乏ゆすりをし始めた。
「で、そんな君には現代版マナビスになってもらって、この悪い世の流れを絶ち切って、悪い世界を変えてほしいんだ。だから、これから今から君は山口沙里じゃない。マナビスだ」
「え、ちょっと何言ってるんですか。あたおかですよ。もしそれが本気だとしてもタバレスの人が信仰する偉大な神の名を背負うなんてそんな重大な責任私には負えませんよ。他にもいるでしょ?現代版マナビスの適任者が」
「転生したあなたにしかできないんです」
「どうあれ私は断ります。責任重大じゃないですか。私、こう見えてプレッシャーにはかなり弱いんです」
「断るようなら、死んでもらいましょうか」
そういってゲレンはバッグの中からピストルを出した。
「銃はないでしょうよ」
まさかの状況に、流石のマナビスの声が急に細くなった。
「じゃあ引き受けんのか?引き受けないのか?どっちだぁ。答えろ」
ゲレンは声を荒ぶらせてそう言った。
「わ、わかりました。死にたくないから、引き受けます。それで許して、お願いします」
ゲレンは銃をバックに戻し、笑顔になった。
「引き受けてくれるなら、よろしい。ではですね、早速君にやってもらいたいことがあります。じゃあその時に必要なアイテムを差し上げましょう」
「これは、何ですか?」
「セブン・プレートと呼ばれるものです。これは、あなたのお守りのようなものです。でも、今はただのプラスチックごみに過ぎません。もしこれをお守りにしたいなら、あなた自身がタバレス川、セボルト王国のサブリン川とセボルト川。SR王国のサッセンス川、アジット王国のエジル川、セボルトの北の方にある孤島・シャーナ島のシャーナ川の水を集めなくてはなりません。これらの水が全て揃えば、あなたのことを守ってくれます。ただし、壊したり、失くしたりすると、あなたの身が危なくなります。だから、大切に扱ってくださいね」
「わ、分かりました。自信はないけど頑張ってやってみます。そして、現代版マナビスに絶対なります!」
マナビスはこの時、ゲレンというやつはなんてサイコパスなんだと思ったが怖くて口に出すことは出来なかった。