日々こまごま、オムニバス。Case.3 オチあり、熨斗無し、夫婦譚
庭先の風が頬を撫で、花弁をひとひら連れてきた。足下の砂利に、百日紅。手に取ろうと屈んだ途端、薄紅の花弁が紅葉に染まる。ポタ。ポタ。薄紅の斑点に、深紅の水玉。我が家には、もう秋が来たのか。私がそう呟くと、駆け寄った君が教えてくれたね。「お父さん、鼻血が出てますよ。」
「共に地獄へ参りましょう。」
君からそう告げられた時、断崖の上で手を繋ぎ、海へと落ちる私が見えた。明くる日、君から渡されたのは、大分行きの二枚切符。
お正月の叔父さん家。お年玉だと渡された、銀杏の描かれたポチ袋。袋の口を広げて見ると、そこにはお金ではなくて、お宝探しのヒントが書かれた、名刺ほどの紙が一枚。
「3.9」。
ウチの中を探してごらんと、叔父さんニヤリと微笑んだ。
どこだ、どこだ。冷蔵庫の中、ない。お仏壇、ない。叔父さんの書斎、ない。縁側の下、ない…。必死に探す僕を見て、叔母さんクスクス笑い出す。
「まー君、まー君。」
叔母さんが指差したのは、炬燵の上に置かれたCD。
ケースの蓋を開けてみると、2つに折られた諭吉が3枚!
これには僕も驚いて、やった、やったと大はしゃぎ。叔父さん、一つ聞いて良い?僕にくれたヒントの数字、「3.9」の意味は何?
僕はそう聞いた後、CDケースの蓋を見た。すると、そこには…。
「桂枝雀、傑作選」。
繁華街の帰り道。甥が跨がるバイクにニケツ。街の灯りが遠ざかり、草木とカレーの匂いが漂ってきた。庭の百日紅まで、あと少し。今日は妻と出会ってから、25年目の記念日さ。両手に下げた紙袋。この後の妻の喜びようは、今度、おいおい教えます。