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【Virtual World Intern】  作者: なかむラテ
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第八話_【建築家】

 浅草寺は、表参道入り口である雷門を過ぎると、商店街として使われている仲見世通りがある。現実世界でも89の店舗が営業を行っているが、このアプリでは、土産物の他に戦闘服やアイテムなども販売されていた。


 仲見世通りを過ぎると、正面に入母屋造りの二重門(2階建てで屋根も2重)である宝蔵門、左手には五重塔、右奥には第二次世界大戦でも焼け残り、重要文化財に指定されている二天門がある。


 そして宝蔵門を潜った先に浅草寺本堂があるというのが浅草寺の大まかな構成だ。


 浅草寺本堂は大型寺院として国宝に指定されていたが、東京大空襲で消失し、現在の鉄筋コンクリート造として再建されたのが、1958年と言われている。


 黒髪の巫女に案内され、築と灯は、浅草寺本堂の内陣の中央に位置する聖観音像の手前まで来ていた。



 そして浅草寺の巫女は、宮殿の上段の間に登ると、こちらを振り返り淡々と話を始めた。



『杉村築様。ようこそいらしゃいました。私はここ浅草寺本堂の職業付与を施します巫女のミライと申します。あなた様の職業を付与する前に少しばかりこの世界のご説明名をするよう仰せつかっております。しばしお付き合い下さい』



 そういって巫女は黒髪が床に届く程深々と頭を下げた。



 築はその巫女ミライの説明をただ呆然と聞いていた。


 何故なら築がこの世界に来て、荒川河川敷で実験を繰り返してわかった内容とほぼ同じだったからである。



 追加でわかったことと言えば、《学力指数》と《知能指数》によって、使える魔法スキルを「ノーリッジスキル」と呼ぶと言うことだった。



 築は正直がっかりしていた。早くここの存在に気づいていれば時間を無駄にせずに済んだのだ。



 この世界の説明について、あらかたの説明が終わると巫女は一呼吸入れてから、次に職業付与について話し始めた。



『これから私があなた様に付与する職業は、プロフェショナル・ワークスと呼んでいます。それはあなた様の《学力指数》と《知能指数》そして魔法性質によって導き出されます。ですが、あなた様の意思を少なからず反映することが可能です。希望の職業はありますか?』



「希望のプロフェショナル・ワークスか‥‥‥」


「そうよ。私はペットブリーダーを希望したの」


 すかさず割り込んでくる灯。しかし築は困った。


 現実世界でも将来何になりたいのか分からなかったから当然だ。


 しばらく考えたが、希望の職業なんてない。


 意味のわからない職業は嫌だったが、いっそここで教えて貰う方が良いのかもしれない。そう思って築は覚悟を決めて答えた。


「いや、ない。決めてくれ」


「希望を確認しました。それではあなた様の能力からプロフェショナル・ワークスを付与致します』



 そういって巫女は2礼してから、合掌すると目を瞑った。



 すると浅草寺本堂の全ての灯りは消え、暗い空間に1人佇む自分を感じるた。


 心の奥深く。自分自身に眠る深層心理を覗かれている気分だ。それはあまり心地の良いものではなかった。



 巫女は目を閉じたまま、さっきよりも機械的な音声で独り言のように話し始めた。


『第三者評価によって与えられた《学力指数》をスキャンします』


 ‥‥‥



『完了しました』



『IQテストによって与えられた《知能指数》をスキャンします』



 ‥‥‥


『完了しました』



『次に魔法性質、個性、潜在能力をスキャンします』



 ‥‥‥


『完了しました』



『全ての結果を統合及び総合的に判断し、プロフェショナル・ワークスを割り当てを開始します』



 ‥‥‥


 ‥‥‥


『完了しました』



 巫女は目を開け、築と目が合うと、少しだけ微笑んだ。



『築様の職業を割り当てに成功しました。その職業をお伝えする前に、最後の確認をさせて頂きます』


 声はまだ機械的な音声のままだ。


『まず、プロフェショナル・ワークスによって、あなた様は他者とは違うユニークスキルを会得することになります。ユニークスキルは強力ですが、使い方次第では、無力になったり、人を傷つけたりする程の力を要することになります。覚悟は宜しいでしょうか?』


 巫女の目が緑色に光る。すると築の目の前に、「YES・NO」の選択画面が現れた。


 迷わず築は《YES》と選択した。


 もう覚悟はとうに出来ている。現実世界の隆の仇を討つため、そして母を守るため。



『承知しました』



『プロフェショナル・ワークスは、今のあなた様の能力に見合うものを選択させて頂いております。しかし、付与されたからと言って満足してはいけません。職業に就いたとしても学習意欲を損なっては、真のプロフェショナルになることは出来ないのです。生涯学習。そのことを頭に今一度刻んで下さい』



 すると再び「YES・NO」の選択画面が表示された。


 築はこの言葉に文部科学省が伝えたい意図を感じた。


(生涯学習か‥‥‥)


 そして、この巫女がNPCだと言うことをより強く感じさせた。



 《YES》



 築はそう念じると、巫女は再び目を閉じた。


 そして目を瞑ったまま、築の前に近寄り心の臓に手を当てた。



『それではお伝えします。杉村築様のプロフェショナル・ワークスは、』



 ‥‥‥


 ‥‥‥


 ‥‥‥



『Aランク職業、、』



 ‥‥‥


 ‥‥‥


 ‥‥‥



『Architectureです』



「アーキテクチャー?」


 聞きなれない英単語を築はそのまま聞き返した。



『はい。《建築家》です』



(建築家。Architectureか)


 心の中で認識すると、築の魂に《Architecture》の文字が刻まれた。


 体の内側から力が込み上げてくる感じがする。築は右手を力強く握った。


 巫女は築の心臓に当てた手を離し、2拍手すると、話を続けた。



『杉村築様のプロフェショナル・ワークス、建築家の付与に成功しました』



『その結果、《学力指数》のステータスを向上します』



 巫女がそういうと、築の腰に挿されているIotウェポンが起動し、《学力指数》のステータスが上昇していった。


 国語:1→3(+2)

 数学:8→10(+2)

 化学:7→8(+1)

 生物:3→3(+0)

 物理:8→10(+2)

 歴史:5→6(+1)

 地理:5→6(+1)

 体育:7→7(+0)

 音楽:1→1(+0)

 美術:3→7(+4)


『《学力指数》によるステータスアップに成功しました』



『続いて、数学、物理が10に達したことでユニークスキル「錬金術」が使用可能になります』


 ‥‥‥



『成功しました』


 ‥‥‥



『プロフェッショナル・ワークス《建築家》とユニークスキル《錬金術》の相互関係により、《設計と建設》の能力を獲得します』


 ‥‥‥


『成功しました』


 ‥‥‥


 ‥‥‥



『職業付与は以上となります。何かご質問がありましたら、お受け致します』


 そう言い終わると、巫女は深々く1礼した。もちろん髪は床についている。



 築には気になることがいくつかあった。


 質問というのは、初心者の特権である。今聞かなければ、今後聞くことは困難になる。それがプロフェッショナルというものだ。築は感覚的にそう感じると遠慮なく質問をぶつけた。


「何故建築家なんだ?」


 ‥‥‥


『はい。プロフェショナル・ワークス「建築家」を付与される条件としては、数学、物理、美術のステータスが一定数を超えている方へ付与されます』



「美術はそこまで高くなかったはずだが」


 ‥‥‥



『はい。その場合《知能指数》である潜在能力が影響する場合もあります。築様の潜在能力では空間把握能力がかなり高い数値を示していました。よって「建築家」のプロフェショナル・ワークスを付与可能となったのです』


(なるほど。潜在能力も影響するのか)


「ユニークスキル「錬金術」の設計と建設とは具体的に何が可能なんだ?」


 ‥‥‥



『はい。スキルの詳細は、想像力による「設計」作業と、それを魔法によって具現化する「建設」が可能になるというものです。化学法則、物理法則によって成り立つ物体を頭の中でイメージしたものを、具現化するというものです』


 ‥‥‥


 ‥‥‥


 築は巫女の言葉を半分も理解できなかった。


 まさか自分が《建築家》になるなんて想像していなかったし、何より建築家がどういう仕事なのかも良く知らなかった。


(まぁ、使って見ればわかることか‥‥‥)



『そして、仕事依頼人からの建築物の「新築」、「改修」、「解体」業務を受けることが可能になります』


(なるほど。そうか、戦いに有利かどうかは判断出来ないが、仕事をして金を貰い稼ぐには困らない能力ということか)


 そう築は考えていた。


『質問は以上でよろしいでしょうか?』


 ‥‥‥


「あぁ」


『それでは、本堂より東にある二天門へいらして下さい。IoTウェポンに追加出来るアイテムをお渡しします』


 そう言って巫女は頭を下げると、緑色の粒子となって消えてしまった。


 静まり返る浅草寺本堂に再び灯が灯った。建築家の能力がどう戦闘に使えるのかすぐにでも確認する必要がある。しかし、何より築は《建築家》という響きが気に入った。


「良かったわね。Aランク職業なんて結構優秀な能力なはずだわ。ほら行きましょ」


 そう言って、後ろで聞いていた灯に手を引かれ、二天門へと向かった。


 二天門の中には、先ほど消えたはずの巫女が布鼓を持って現れた。


『こちらをお受け取り下さい』


 笑顔で差し出された布鼓を築は手に取った。 物自体は小さいがとても重かった。


「なんだこれは?」


 ‥‥‥


『はい。鉄になります』


「鉄?」


『はい。築様のIoTウェポンの刃となる物質です。錬金術の能力により自由に形状を変更することが可能です』


「剣にもなれば、槍にもなると言うことか?」


『おっしゃる通りです』



 そう言って三度、巫女は黒髪を床につけるほど頭を下げた。


 築は鉄の塊を、IoTウェポンである紅葉にかざすと、鉄は粒子となって取り込まれた。そして形状をイメージすると、すぐに鉄の塊は、刃のない剣の刃となったのだった。

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