表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Virtual World Intern】  作者: なかむラテ
8/9

第七話_【浅草寺の巫女】

「ペットブリーダー? 職業?」



「そうよ」



鈴丸灯と名乗る見た目は小学生の美少女は、誇らしげだ。


築に差し出した右手はそのままに、左手だけを腰に当てている。



築は、差し出された右手を握ると、今一度尋ねる。




「職業ってなんだ?」



それに対して灯は、頭を傾げて少しだけ考えると、もう一度言った。



「ペットブリーダーよ!!」




今度は両手を腰に手を当て自信満々に答えた。




・・・・・・、・・・・・・


・・・・・・




(沈黙が続く)




・・・・・・


・・・・・・、・・・・・・




深くため息をつくと、築はオオカミ少女に向かって怒鳴った。



「だから、ペットブリーダーって何だって聞いてんだよ!!!」



すかさず灯も答える。




「はぁ?だからなんでそんなことも知らないのよ!!!」



築はバカにしてきたオオカミ少女を掴みかけたが、やめた。


相手は女の子だ。




しかしその時。




パァン。




左頬に今まで感じたことのない鈍痛が、顎の骨まで響いた。




----------------------------




2032年8月9日 16:38


東京都江戸川区小松川公園




「どう? 少しは落ち着いた?」




灯が近くの自販機で買った缶ジュースを築に手渡すと、自分の分を一気に飲み干した。


築は、冷えた缶をさっきまで腫れていた左頬に当てた。




「俺は冷静だったぞ」




「ごめん。ごめん」




そう言うと灯は苦笑いを浮かべた。



「それはそうと、あなた本当に知らないの? 文部科学省の人に説明されたでしょう?」




「されてない」


築は仏頂面で即答する。



馬鹿を見るような上から目線の目つき。こんな状況を好きな男性も中にはいるのかもしれない。しかし築には可愛い美少女に虐げられる趣味はない。



「はぁ? ちょっとステータス見せて見なさいよ」



そう言われて築はIoTウェポンである紅葉を視界に入れるとステータスを表示させて見せた。


覗き込む灯の髪からは、良い匂いがする。




「あー、あなた最期の登録者なのね。だったら時間がなくて説明されなくても仕方がなかったかも」



灯は一人納得したように言う。確かに文部科学大臣と名乗る浅海が築の元を訪ねた時、「時間がない」と言うのは何度も聞いた。



「何故最期だとわかる?」



「ちょっと! 私の方が年上なんだから敬語使いなさいよ」




怒る灯に築は左頬を撫りながら答えた。



「これが現実世界だったら慰謝料もんだぞ。良いから教えてくれ」




灯はわかったと頷くと、画面右上の数字を指差した




「ここに番号が書いてあるでしょ?」



「96/95って奴か?」



「そうよ。えっ!?あれ?」




灯は丸い目で、わかりやすく二度見する仕草を見せた後、首を傾げた。



「どうした?」



「うん。私は、18/95って書いてあるの。つまり私は18番目の登録者で、95人この世界にプレイヤーとして来ているって教えられたの。そうであれば、96番っておかしくない?」



確かに最初にこの数字を見つけた時から違和感はあった。




「96人いて、既に現実世界に戻されたとか?」



「それも考えられなくはないけど、私が初めてここに来てステータスを確認した時も95だったわ」



「だとしたら、プレイヤーとして登録されているのに、参加していない奴がいるってことか?」



「まぁ、そう考えるのが妥当ね」




と答えはみつからなかったが本題はそこではない。灯もそれはわかっていた。



「それで職業についてだけど、、、」



「あぁ。教えてくれ」



「この世界は職業体験ができるVRMMOのゲームって話は聞いてる?」




「俺はアプリって聞いたんだが、」



「あなた本当に最後だったのね。間違ってはいないけど、かなり説明が省略されているわ」




灯は両手を広げて首を左右に振ると呆れた顔をした。



「まぁいいわ。 職業体験のゲームなんだから、何かしらの職業を体験することになるわよね? 私が受けた文部科学省の人の説明では、仮想世界に来たら、まず最初に職業付与所に行けって言われたわ」



「そこでこの世界の説明も詳しく受けたの。《学力指数》と《知能指数》とか言うものが魔法に与える影響とか。そして私の魔法性質とかね」




そう言って灯は、掌の上に火の玉を作って見せた。



「なに?」



(俺がこの2日間で実感したことは無駄だったのか。これが情報弱者か‥‥‥)




ショックを受ける築。


それを見かねてオオカミ少女は、再度ため息をつくと、茶色く長い髪を耳にかけ、後ろを向いて言う。



「いいわ!! オオカミを捕まえてくれたお礼に職業付与所に案内してあげる!!」




「本当か?」




場所も知らない築にとってがありがたかった。何より遅れを取り戻すためには、案内人がいる方が手間取らなくて済む。




「嘘言ってどうするの。ただし、、、」




「なんだ?」




「さっき顔叩いちゃったことはチャラにしてね」




「‥‥‥、わかったよ」




こうして築と灯は、東大島にある宿屋に宿泊し、明日の早朝にここから最も近い職業付与所がある台東区、「浅草寺」へ行くことになった。




残念だが、部屋はもちろん別だ。




----------------------------------



2032年8月10日 8時15分



昨日約束した集合時間を15分過ぎても、灯は降りてこなかった。




仕方なく築は、灯が宿泊している部屋に行き、ノックをした。


しかし、出て来る気配はない。




しばし考えたが、何としても早く職業を付与されたいと考えていたから、勇気を持って扉に手をかけた。




ガチャ




鍵はかかっていなかった。




(なんて不用心な)



築が恐る恐る部屋に入ると、かすかに寝息が聞こえる。


奥に進むと、荷物が無造作に散乱している。服も床に脱ぎっぱなしだ。


少女の割に意外と大きいサイズの下着まで。




そしてベットには、スヤスヤと寝ている灯の姿があった。


丸くなって寝ているからか、ベッドが広く見えるほど小さな身体は、まるで人形みたいだなと築は思った。


しかしそれにしてもなんて顔の整ったことか。




ついつい見とれてしまう。




‥‥‥



「ちょっと何してるのよ!!?」



パッン




再び築の左頬は赤く腫れ上がった。




----------------------------------



「だからごめんって」



築は未だにヒリヒリする左頬を抑えながら、灯の召喚した大きな犬に跨って、浅草寺を目指していた。



「遅刻したから迎えに行ったのに、急に叩くやつがあるかよ」



「だからごめんって。痴漢だと思ったんだもん。それに私寝起き悪いの!!」



「なんでお前が怒ってるんだよ!それに鍵も掛けずに寝てたら文句言えないぞ」




蔑むような目つきをされ、築はしまったと思った。



「私北海道生まれだから、鍵なんて掛けずに済むもん。東京はこうだから嫌なのよ」



しかし、なんとも子供の言い訳のようだった。


出発してから、20分経ったがずっとこんな調子だ。



「ところで、昨日も思ったけど、あなたのIoTウェポン変わってるわよね?」




「これか?」




そう言って築はその刃のない剣を右手に持った。



『そうだろ?』



「えっ!剣が喋ったー!!!」



そう言って仰け反ると、灯は乗っていたオオカミから落ちた。


これを、なんて言うのだろう。落狼らくろうだろうか。



騒がしい奴だと築は呆れたが、紅葉のこと、実験をしてステータスを調べたことを灯に説明したのだった。



‥‥‥


‥‥‥




「なるほどね。IoTウェポンに味方のAIがいるなんて不思議な感じね。よろしくね。紅葉ちゃん!」



『おう。宜しくな』と紅葉も嬉しそうに答える。



「それにしても、実験して能力確かめるとかあんたデータオタクなの?」




「うるせぇな。説明受けてるお前とは違って、こっちにはそれしかなかったんだよ」




なんともストレートな言い方に、築はいつも通りの口の悪さで答えた。


しかし灯には効果がない。



「それにしてもその刃のない剣はどういうことなのかしら?」



『どういうことだい?』と紅葉も不思議そうに尋ねる。


灯は少し考えて続けた。



「私がされた説明だと、IoTウェポンは与えられる【職業】を助けるアイテムとして形状や種類が決まってるのよ。例えば、私はペットブリーダーで、召喚術は地面に魔法陣を書くからIoTウェポンは杖になっているわけ。刃がないってところも理由があるとは思うけど、よく分からないわね」




築も紅葉自身も、この形状に理由があるとは思っていた。


しかしいくら考えてもわからなかった。



「職業が与えられればわかることだな」




「まぁそれもそうね」




とにかく今は職業付与されることが先決だ。


一体どんな能力が得られるのか。AIを倒さなければならない状況下ではあったが、築はワクワクしていた。




それからしばらく移動して、台東区にある浅草寺に着いた。


築が根城としていた足立区北千住とは違って、かなりの人で賑わっている。NPCがほとんどだろうが、中にはプレイヤーらしき人物も伺えた。



「ここは繁華街っていう設定になっているの。後で服も買ったら? 学生服じゃ戦いづらいでしょ?」



(確かに、そうだな)




しかし今は職業付与が先決だ。


すぐに築と灯は浅草寺にある風神雷神の彫刻の横を過ぎ、浅草寺本堂に向かった。本堂に入るとそこには黒髪で赤い服を着た巫女が立っていた。



「杉村築様ですね。お待ちしておりました」



そう言って、浅草寺の巫女は地面に髪が付くほど、深深くお辞儀した。



「なんで俺の名前知ってるんだ?」



「はい。職業付与されてないプレイヤーの方は築様が最後ですので、、、」



情報弱者ほど恐ろしいものはない。築は肌でそう感じたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ