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「震災が何個も記憶に残った平成の世も残すところ1年を切ったんやなぁ」と大型連休の後半の予定がこれと言ってない独身サラリーマンである芝周作は、愛車の洗車の手を止めて、晴れ渡る平成30年5月3日午後の青空を見上げて呟いた。
「ん?何やアレ?飛行機か?ひっくいやん!」
見上げた空の端、ちょうど葛城山の上空辺りに、不自然な高度で飛ぶ飛行物体。これが反対方向なら、関西空港か八尾空港、もしくは自衛隊の信太山駐屯地あたりに降りる何かだと思ったに違いない。
しかし、目に入った飛行物体は、大きさは旅客機ほどもあるが、一般的な飛行機の形状でもヘリコプターでもない上に、和泉山脈の稜線のわずか上という異常な高度を滑空するように推力を感じさせない角に丸みを帯びた二等辺三角形の板状のものだった。例えていうなら、とても大きなハンググライダーの様な飛行物体とでも言えば良いだろうか?
周作は、ホースから水が出続けるのも気にせず、その航跡を数分に渡って目で追いかけていたが、その高度の低さから周囲の建物ですぐに見えなくなってしまった。
妙に気になってしまった周作は、洗車途中で泡だらけの車はそのままに、普段の通勤で最寄り駅までの移動手段として使っている125ccバイクの鍵とヘルメットを玄関に飛び込んで取ってくると、おおよその方向に向かう幹線道路を頭の中で地図を描きながら、警察に捕まるか捕まらないかという結構な速度で走りだした。