はぐれの子
『……ウドク・ラグドネル』
初めて聞いたそいつの声は、でかい図体に似合わずか細く、俯いて潰している喉から搾り出すような声だった。
俺に話しかけられ、続けて名乗りを聞かされて戸惑った様子だった。
それでも、奴も名乗りを返した。
いつも、村の中では独りでいることの多かった妙なガキ──ウドクは、俺の前に無言で立っていた。
きっと、そこに誰も居ないと思っていたのだろう所へ俺が唐突に現れた事。
話し掛けられて、ウドクは逃げ出す先を探すような素振りを一瞬見せた。
だが結局、奴は逃げなかった。
いや、むしろあの時逃げ出さなきゃならないような状況だったのは俺の方だったろう。
事と次第によっちゃ、あいつに殺されるかも知れないと考えたって、おかしくはない。
俺は、その頃は未だあいつの事をろくに知らなかったのだし、あんなものを見てしまったら恐れるのが普通だ。
俺は無鉄砲なクソガキではあったが、命知らずだとか勇敢とかじゃなかった。
それだけは、考えてみても思いだそうとしても未だによく解らない。
ただ、今でもあの時見た光景と抱いた驚きや興奮は、はっきりと鮮明に覚えている。
いや──。そうか。そうだな。
理由は、きっと単純なんだ。
俺は単純にあの時、ウドクに一目で魅かれたのだ。
俺の目の前で、何の前触れもなく奴は姿を変えた。
漆黒の毛皮に覆われた、狼の姿に。